第8話 人工物は綺麗な数が多い
大量の金とスキルポイントを入手してから数日。
ギルドでちょっとした依頼を受けて時間を潰していた。
「今日もいい仕事をした…」
高ランクとはいえ、町のお使い的依頼が受けられないというわけでは無い。
倉庫の整理や、ちょっとした店の手伝いをした。
報酬が労力に見合うか、と言われると微妙なところだが、町の人と縁を繋ぐことができるのは良かったと思う。
「お!わかめ帰ってきたか」
「…ん?……まさか例のブツが出来たのか!?」
「おう。早速見るか?」
「そうさせてもらおう。」
BOYが出してきたのは一対の角をそれぞれ反りをつけたバスタードソードを厚くしたような形に整形し、紅蓮の鱗と血が艶めくモノと棘に毒が滴るモノ。
「おぉ…」
期待以上の品が来た。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
バスタードオブデストロイ&ソードオブポイズン
双剣
キングマッスルドラゴンの素材を惜しみなく使用した、異世界の職人の逸品。
まだ改良の余地を残している。
何かに反応を起こしているようだが…?
右
基本攻撃力 1000
左
基本攻撃力 500
特殊効果
毒
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…何に反応を示してるんだ…完成すれば分かるか?
「角を整形するのには骨が折れたわ…手間をかけた分、強力だろ。できればオリハルコンとかも使いたかったんだが…」
「それは手に入った時でいいぞ。とにかく、ありがとさん。」
依頼中に聞いたスキルメニューで、魔力充填可の単発ボルトアクション式の狙撃銃とミニガンのような空間消去能力を持つ機関銃は購入した。
一つあたり100Pもしたが…必要経費と割り切ろう。
その分は働いてくれるはずだ。
これで残るは両手棍、薙刀。
「簡単にでいいから、両手棍と両刃薙刀頼めるか?」
「……おう。少し待っとけ。特急料金で金貨一枚な」
BOYは少し小走りで仮工房へ向かった。
「…急にがめつくなったな…お前」
すぐ戻ってきたBOYに仕方なく金貨を出す。
「毎度ありー」
棍は補強の入った木製で、薙刀も柄は木、刃の部分は鋼でできている。
そして、地味ながらも銀で装飾されていてわし好みだ。
「なんだかんだで付き合いは長いからな。好みも把握してる。」
本当に有難たい…見た目が良い悪いじゃやる気が段違いだからな…
「…で、双剣が完成したから今日からダンジョンに行くのか?」
「そうだな」
どうやらこの街、異世界の定番中のド定番、ダンジョンがある商業都市だったらしい。
中心の噴水広場からおおよそ北西にあるそうだ。
「だが…徒歩で行くには少し遠いか」
自動車とは言わないが…二輪車両が欲しいところだな…
「仕方ないだろ」
「…まぁな。昼飯を食ったらすぐに出かけよう。」
時は流れて昼食後。
準備を整えた四人と一匹は門の前にいた。
「…来たか」
BOYとしゃけは防弾チョッキを着込んだ動きやすそうな服装だ。
そして後から来た双夢は……
「無限収納があるから荷物は持ち運ばなくていいんだぞ…」
バックパックを背負い、色々なアイテムを取りやすい位置に置いていて、腰にも小さめのポーチが付いている。
「あ…いつもの癖で…ここのダンジョン、とても深いらしいので…この中身、仕舞ってもらえますか?」
「仕方ないな」
バックパックの中身を入れ替える。
殆どが食料…というか、保存食だった。
干し肉はまた今度ジャーキーにでもして生命の水の肴にしよう。
パンは…浸して食べよう。
…酢漬けだけは無理だな。他の奴にでも食べさせとけばいいか。
「…兵糧として、缶詰も買った方がいいか…?」
「いつでも買えるんだから関係ないだろ」
「それもそうか」
徒歩20分程。
到着したダンジョンの入り口は、凱旋門を大きくして遺跡風にしたような感じ。
深くへ階段が続いている。
「このダンジョン、入り口の階段が疲れるんですよ。」
「…嘘だろ」
「ですが、階層を跨ぐ時は坂なのでそこはまだ楽ですね。」
話を要点以外聞き流して観察する。
少し気になった右の柱部分を出入りしているのはショートカットの奴ららしい。
各階層ごとにセーブポイントがあるダンジョンはかなり優しいのかもな。
そして、よく見ると他の奴らはかなり荷物を持ち込んでいる。
収納がない冒険って大変だな。
それを横目に入場手続きを済ませる。
安全のための措置だから、欠かすのは悪いだろう。
…拠点の管理は帰宅後開けた分頑張りますからとせがまれて双夢を連れてきたから、出来るだけ早くクリアしたい。
あと、こっそりパーティ登録したのは内緒だ。
全員が経験値を共有できるんだから、悪いことではないだろう。
「はやくいこうよー」
スラリンが頭上で跳ねてアピールしてくる。
こいつの戦闘能力も確認しないとな。
長い階段を降り、第一階層へ到着。
内装も古代の遺跡のよう。
これまたテンプレだが、何かが封印されていそうだ。
「このダンジョン、100階層まであって、噂では最下層のボスはパーティによって変わるらしいですよ」
「……そりゃまた面倒くさいな」
対策が練れないな…よし、ゴリ押しでもするか
「後のことなんて考えずに先に行こ」
「珍しくしゃけがまともなこと言ったな」
「うるさい殴るぞ」
気だるそうに言われても全く怖くないが、気にせず突き進む。
敵は雑魚ばかりでドロップもクソ不味い。
「やっぱり乗り物とかないか?」
さっさと奥の方に行きたい。
「…実は、食料のレベルを上げた時に労働力ってのが出た。残り150pだが…どうする?」
確か解放に20pでレベルアップに10pだったよな……ふむ
「…労働力なら、色々助けになるかもしれないし解放してくれ」
「了解。ついでにレベルも少し上げるか」
何処か慣れた手つきで操作している。
「おぉ!メニューに車が来たぞ!」
『マジか!?』
これでまた楽ができるな。
「…あ、運転はどうする?」
「…………忘れてた」
誰も免許持ってないよな…
「運転方法分かるか?」
「ゲームしか…」
「俺も…」
だろうな…
「仕方ない。わしが運転する」
「事故りそう」
「やめとけ」
「…いいから出せ」
その言葉少し傷つくぞ
出て来たのは新品らしき旧車のセダン。
四人乗りだからスラリンは…後ろの真ん中でいいよな。
「乗り心地はどうだー?コースの広さは高速ぐらいだし、他の冒険者にさえ気をつければ後は俺達が吹っ飛ばすから安心して運転できると思うが」
パーツに異常はなさそう。
正常に動作もする。
「おう。行けそうだな」
…念の為に…絶対付与。
『この車は傷つかない。』
…完了。残り9枠です。
「そりゃ良かった。燃料は魔力でもいけるらしいから、ボス戦後に補給しとこうか」
助手席に双夢、そして後ろの席に二人を座らせてエンジンスタート。
エンジン音が魔物を引きつけるような気もするが、気にしない気にしない。
双夢に渡された地図を見ながら運転することにしよう。
幸いなことに、地図は50階層分までまである。
存分に使わせてもらう。
「御主人様、最初のボスはオーガチャンピオンです。あまり強くは無いですが、怪我しないように気をつけてください。」
死んだら元も子もないからな。
「でも私達強いらしいから問題ないでしょ」
おいおい…フラグを立てるな
「…油断してたらどんな攻撃貰うか分からんからなー」
「そうですよしゃけちゃん」
「しゃけちゃん言うな!」
「油断大敵。どれだけ強くとも油断だけはしちゃいけませんよ。どんな攻撃を放ってくるか、よく観察して見極めないと。」
「…正論すぎて言い返せないんだけど」
「残念だったなー」
「うるさい!」
「痛っ!?」
運転中に暴れないで欲しい。
ほら、今だって罪のないゴブリン君がカーブで引かれてしまったじゃないか。
なんと痛ましい…
「お前は安全運転をしろ」
「…グロッ」
「こんなにも容易く…」
「すごーい!」
運転にも慣れて来たのでアクセルをさらに踏み込む。
意外と中身もしっかりしていて、既に痛ましい事故が何度も起きているのに問題ない。
ガワは付与でなんとかしてるとはいえ、衝撃を消せているわけではないから、この車の機構自体が強いということだろう。
「そろそろ坂だから準備しろ」
「…おい待て何をする気d」
唐突に来る浮遊感。
ブレーキを一切踏まずにフルスロットルでスロープに突っ込む。
「ふわーーっ…」
そのまま衝撃を…
「絶対付与ォ!」
この車のサスペンションはあらゆる衝撃を受け流す!
…完了。残り5枠です。
「っと…」
うまくいったな。
「危ねえわわかめ!」
「なんだかんだで潰れてないから問題ないだろ。それにこれがあと49回続くんだから今更だ」
「チッ…安全運転はどこに行った…」
「ま、いいやつだったよ」
「生きてないものを殺すな」
「ヒャハハ」
やっぱり車はいいな…風が気持ちいい。
「…わかめあとで覚えとけ。軽くシメる」
「そうだな。少し痛い目にあわせるか」
「私も少し驚きましたので…」
「ぼくもぼくもー!」
「……マジすいません勘弁して下さい」
ひとまずは許しを得、かなりの速度で車は走らせる。
腐ってもダンジョンで、最短ルートでも一つの階層あたり10分程かかった。
「あ…御主人様、着きましたよ」
「お、本当だな」
全員を降ろして車も収納。
今、目の前の大扉を蹴飛ばしたい症候群に駆られている。
「迷惑がかかるからやめろ」
運の良いことに他の奴らは居なかった。
「扉を開けるとすぐに襲いかかってきます。油断していると殴られますよ。」
「分かった」
それならわしは薙刀を装備しよう。
完全反射を発動させれば大きな隙ができるはずだ。
「俺が扉を開ける。その後にわかめが隙を作って、双夢が畳み掛け、しゃけとスラリンはそれの補助。これで良いだろ」
「そうだな」
「…めんどくさ」
「承知しました」
「わかったー!」
大きな扉が音を立てながら開く。
奥には凶暴な形相の鬼が…
「…来た!完全反射ァ!」
鬼の拳が跳ね上がる。
その背後には…
「氷結閃!」
「…氷柱落とし」
「やっほーっ!」
腹部を切り裂く双夢の氷を纏う一閃、脳天を襲う巨大氷柱、顔面を押しつぶす水色の衝撃。
どう考えてもオーバーキル。
出オチとはまさにこのことだろう。
「やったー!」
スラリンは可愛いな。
飛ぶたびに身体がプルプルして…
「…やっぱり俺の出る幕は無かったな」
「当たり前だ。商人は商人らしく引っ込んでろ」
「……俺、職業は作成者なんだけど?」
「知らん」
実際オリジンスキルが商売系だろうが…
「わかめ、ドロップの角渡すわ」
「ありがとさん」
…ま、最初のやつなら質はこんなものだろう。
「御主人様、ワープポイントの登録をしておきません?」
「ん、そうだな」
出口側すぐの石碑に触れて転移登録をする。
これで撤退しても問題は無くなる訳か。
「……なぁ、これって先のワープポイントに登録しておけば他の奴も一緒に行けないのか?」
「無理だと思います。それに、そんな事をしたら冒険の意味がないですし。」
「それもそうだけどな…」
出来るだけ楽をしたい、ってのはあるんだよな。
…ロマンはともかくとして。
「まだ先は長いです。早く先に行きましょう。」
目が早く斬らせろと激しく訴えている。
後ろからもそういう視線を感じる。
分身を作って二人掛かりで睨むのはやめろ。
かなり気味が悪い。
「別ニイいだロー暇なンだカらヨー」
「そういう問題じゃない」
ドールは引っ込んでろ
「わかめ、早くいくぞ」
「はいはい。分かってる分かってる」
車を再設置して先に五人を乗せる。
少しキツイが、スラリンをしゃけの上に置いたらなんとかなった。
「あとは…絶対付与」
不壊の車。
………完了。残り5枠です。
エンジンを回して更に下の階層へ。
地図によると次のボスは…火の魔物が出るらしい。
…車が燃えないように更に付与を付けるべきだろうか…