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第27項 Happy Birthday

 チクショウッッ!!

 どうして、こんなことになっちまったんだッッッ!?

 

 確かに追撃はこの俺の判断だ。

 多少、深追いしている自覚はあった。

 だが、ここはどこだ?


 ――戦場だッッ!!

 

 戦場では勝利こそが全てだ。

 そして、“どれだけ”勝利したかもまた重要だ……ッ!

 俺たち傭兵ってやつは、それで食ってる。

 その“どれだけ”が、そのまま明日の食卓の皿と、抱ける女の数に比例する。

 

 相手は引け腰で、ビビりにビビってるチキン野郎たちだった!

 追えば絶対にボーナスが見込める。

 そのハズだった……ッ!

 

 ……そのハズだったッッッ!!!

 

 敗走兵の迎えにゲオルギーの部隊が来てるなんて、誰が想像できた!?

 たった十数人の部隊に、俺たち“赤の爪”団数十人が良いようにやられるだなんて、誰が想像できた……ッ!?

 

 いいや、知ってたさ。

 ゲオルギーはバケモンだ。

 あの部隊も、バケモンだ。

 はるばる海を越えてやってきたヴァイキングの軍勢を、たった1回の交戦だけで尻尾巻かせたってぇ馬鹿みてぇな話は、戦場に出てる人間なら、知らないやつはいねぇだろう。

 

 だけどよぉ!

 だからこそ、そいつを抱えてる国を相手取るってんなら、動向は十分に把握してたつもりよ!


 こっちだって、命あってのものダネだ。

 命がなけりゃ、金は稼げねぇ。

 金を稼いでも、命がなけりゃ楽しめねぇ。

 

 ゲオルギーは西の国境に遠征中だったって話だろ!?

 いつの間に、前線に戻って来たってんだよ!?

 

 ああ、チクショウッッ!!

 どうして、ツキは俺たちを見放した!?

 ただの小競り合いの一環だっただろ!?

 

 ……ああ、いや、知ってるさ。

 深追いしたのは、俺の責任だ。

 

 すまねぇ、ダドリー。

 ガキが生まれたばっかだってのに、息子はテメェの顔を生涯知りやしねぇだろうな。

 

 すまねぇ、ラット。

 故郷のおふくろさん、悲しませちまうなぁ。

 

 すまねぇ、ホブロン。

 初めての女、見繕ってやる約束だったのによ。もう、抱ける腕が残っちゃいねぇよな。

 

 ギミーも、ウィッツも、オルトも、他にも……みんなみんなすまねぇ!


 助けてやりてぇ!

 だがもう、引き返せねぇ!

 引き返したら、すぐ後ろから迫る蹄で、俺の頭も真っ赤なポマの実を踏んづけたみたいにグシャグシャのドロドロになっちまう!

 頭として、てめぇらの親父として、兄貴として!

 生き残った奴らだけでも、俺は助けなきゃならねぇ!

 

 

 

 ……いや、ああ、違う。

 

 死にたくねぇ。

 俺は、死にたくねぇ。


 てめぇらみたいな、そんな人間だかポマだか分からねぇような死に方は嫌だ。

 死ぬときは、極上の女の腕の中でって決めてんだ……こんな所で、戦場に野ざらしになるようなところで、死にたかねぇッッ!!

 

 嫌だッッ!!

 生きるッッッ!!!

 俺ぁ生きるぞッッッ!!!

 

 俺は、生k……ぱっ……ぎょべ……ぺげらっ……ごばっ……

 

 …………

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 ……なんだ……てめぇ。


 なんで……戦場に……アマ……?


 しかも……坊さん……たぁ……


 シャレが効いてるじゃ……ねぇかよ……

 

 お迎えの……天使……のつもり……か……?

 

 ああ……悪か……ねぇ……

 

 なかなかの……ベッピンじゃあ……ねぇか……よ……

 

 へへ……よくわからねぇが……俺の夢ぇ……叶い……そうだぜ……

 

 ……ああ……?

 

 てめぇ……何、言ってるのか……よく分からねぇ……よ……

 

 へへ……自分でももう、どこか口で……どこが耳かも……わかりゃしねぇ……

 

 ああ……どっちかの目ん玉だけ……

 

 すぐそこで……俺のくたばりザマを眺めてるのは……わかるけどよ……

 

 ……ああ……?

 

 口を……よく、見ろ……って……?

 

 なんだよ……瑞々しくって……うまそうな唇……じゃねぇかよ……

 

 ……あ?

 

 あ……ん……い……い……あ……あ……う……え……い……?

 

 なんだよ……そりゃ……

 

 手向けの祈りか……?

 

 わりぃな……わざわざ……こんなとこでよ……

 

 ……は……ちがう?

 

 あ……ん……い……い……あ……あ……う……え……い……

 

 あ……っ……び……い……ば……あ……う……れ……い……

 

 は……っ……ぴ……い……

 

 ……………くくく……

 

 ……こいつは……傑作だ……

 

 これから……死ぬって男に……対してよ……

 

 ハッピー……バースディたぁ……喧嘩売ってんのか……?

 

 ……あ……なんだ……?

 

 急に……胸が熱く……が……ががが……

 

 ががが……ぎ……ぎが……!

 

 あがががが……うごっ……おげがっ……!!

 

 あば……えがぎが……ごっ……ッ!

 

 …………

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 ……あ?

 どんな気分か、だって……?

 ……おっと、ちょっと待ちな。

 腕がまだ背中で握手を求めてらぁ……よっと……これでいい。

 で、だ……まあ、悪かねぇ。

 悪かねぇがよ……良くもねぇな。


 ……あ?

 何が、気分を害してるのかって?

 そりゃあよ、決まってんだろ。

 俺の家族がよ、みんなミンチになっちまったんだよ。

 家族が肉団子になってよ、気分の良いヤツはいねぇだろうがよ。

 

 ……あ?

 ……ああ……そうだな。

 どうすりゃいいかは分かる。

 “俺”はそれができる。


 ああ、やり方だって分かるさ。

 ちょーっと、身体が内側からめくれ上がるみたいな痛みがあるけどよ。

 こんなもん、2度目の人生がなけりゃ味わえねぇ痛みだと思えば、ひとつのエキサイティングな余興よ。

 

 ほうら、てめぇら。

 客も帰ったってのに、いつまでてめぇの吐き散らかしたもんで会場を汚物塗れにしとく気だ。

 さっさと起きろや。

 

 そしたらな、もうひと仕事だ。

 そうだな……

 まずは、散々追っかけまわしてくれた、ゲオルギーの下っ端どもにかるーくお返しをして、だ。

 

 それからよ、もう一度パーティしようぜ。

 今日はてめぇらの――俺も含めみんなだ――年に2度目の生誕祭ってやつよ。




 だからよ、てめぇら――




 ――ハッピーバースディ、トゥ、ユー。

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