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DOLL・続

  


  ある日  悲しい出来事が起きた  その中で私は


  絶望を  恐怖を  孤独を  後悔を  感情を  知った  耐え切れなかった


  今まで無感情の人形だった私が  今までただ人を殺すだけだった私が


  余計な感情を知ってしまい  知らなくていい感情を知ってしまい


  解らなくていい感情を知ってしまった


  余計な負荷に耐え切れなかったDOLLは


  言われるがままに行動をしてきたDOLLは


  その日死んだ


  そして生まれ変わった  彼がくれた言葉で温もりで    


  彼は私に言った  ずっと一緒にいようと


  ほほを真っ赤にしながら  つっかえながらも  こんな私に告白してくれた


  そのしぐさが可愛くて  そのまま彼の顔を見つめた

 

  この胸の奥から湧き出てくる感情はなんだろう


  温かくももどかしく  言葉にしたくてもできない想い


  私は何を言えばいいのか分からなくて


  うん  とうなずいた


  そのときの彼のしぐさが面白くて  思わず私は笑ってしまった


  彼は一度驚いたような顔をすると  すぐに穏やかに微笑み


  私をやさしく  強く抱きしめてくれた  初めて人の温かさを感じ  人の鼓動の強さを感じた


  初めて嬉しくて泣き  幸せの意味を感じた  初めて彼とキスをして


  愛おしさを感じた  



  

そしてしばらくして  私たちは人を殺さなくなった  殺す必要が無くなった


  彼は遠くに行こうと  何のしがらみも無い土地に行こうと 無邪気な顔で言った


  私の返事は決まっている  うん  とうなずき  私たちは逃げた


  今までの行いの償いを  安息の居場所を求め  遠くに逃げた   


  その時の想いはただ純粋で  問題を先送りにしているだけだった


  でも確かに言える事は  私の人生で一番生を感じられた時間


  彼と最も親密に過ごせた時間  この時が永遠に続く事を信じてた


  でも  首輪の外れた狂犬を  彼ら裏の世界は逃がしてくれなかった  何処までも追いかけてくる


  逃げて逃げて逃げて  追われ  逃げて逃げて逃げて  負われ  逃げて逃げて逃げて  終わった


  どうしようもないほどに  私は追い詰められ  咄嗟に体が動いてしまった


  そこからはもう止められなった  私の中に潜む獣の姿  醜悪なほど禍々しい


  私は仕事と同じ要領で消した  そう今までと同じように殺した筈だった


  温かい血液が顔にかかる  なんてことは無い  こんなものはただの水だ  ったはず


  人形を模して創られたのが人間  人間を模して創られた人形が私


  そこには覆せない差異があると  私はそう思っていたのに


  ナノになんで  人間が人間に  私だけが人形に  なってしまったのだろうか


  世界が暗転する  いつの間にか私は


  人間になれた気でいた


  そんなことは不可能だと  解りきっていたのに


  心の無い  ただのDOLL    


  なのになんで  腕が震えるのだろう  足がすくむのだろう  涙が溢れてくるのだろう


  そんな私を彼は  優しく抱いてくれた  何が哀しいのか泣きながら


  ごめん  ごめん  と謝っていた    


  私には  何故彼は謝ったのか  最後まで解らなかった 

   

   



  

  長く続いた逃亡生活に  終止符が打たれた  雨の降る夜  人通りが無い道での襲撃


  彼は私を庇い死んだ  あまりにもあっけない幕切れだった  


  ああ・・・  私の中の何かが壊れた  


  ああ・・・  どうしようもないほどの喪失感


  ああ・・・  無理やり半身を奪い取られ  無くなってしまった


  私の両腕の中にいる彼はまだ温かい  でも  このアタタカサを  私は知っている


  そうこれは  死に逝く者のアタタカサ  


  それは何故?


  私を庇って撃たれたから


  それは何故?


  私が襲撃に気づかなかったから


  それは何故?


  私が彼に頼りきりで弱かったから


  その結果がこれ?


  抱きしめる彼の四肢に力は無く  傷からは絶えず赤黒い血が流れる


  「あ、あぁ・・・・・・」


  必死になって傷口を押さえる  そんなことは無駄だと分かっている


  けれど止めることは出来なかった  諦めたくなかった


  生温かく滑る血液  全身を使って塞き止めようとした


  彼の頭を掻き抱き  少しでも体を触れ合わせ  空いた穴を埋めようとした


  それでも尚  流れ続ける  止められない  ナノに  解る


  解りたくもないのに  解る  彼の心臓は  もう  動いていない


  「あ、あぁ・・・・・・」


  力ない腕  いつも撫でた  私を  優しい  だった  温かい  だった


  無表情  青く白い  顔  笑わない  微笑まない  何も  言わない


  まるで  人形  DOLL  冷たい  動かない  何故?


  死んだ  嘘?  本当  真実  もう変えられない  結果


  口が  開く  舌が  乾く  喉が  裂ける  声帯が  振動する  


  嘆きが 慟哭が 絶叫が  私のスベテを蹂躙し  体外へと解き放たれた 


  あ   あ  あ   ぁぁ  あ    ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


  彼を貫通して  私に到達した数発の銃弾  それが熱を持って疼く


  丁度いい  イマの私には丁度いい贖罪だ  


  私はズルリ  と  ぬめった血で滑り落ちた  彼の亡骸を越えて行く


  私はこの時初めて  本当の怒りを知った  腕の震えも足のすくみも無く   

  

  私は淡々と刺客を  ミナゴロシニシタ





  今までの中で一番数が多かったが  そんなのは関係ない


  一人一人とまた哭いて逝く  やつらは必死に反撃したけど


  真正面からでは当たらない


  私は殺し屋  ミスの一度もなく失敗も無い  完璧な殺し屋


  何人来ても結果は同じ  血と硝煙の世界は私の独壇場  故に彼らに勝ち目はなく


  負ける理由は一つも無い


  私のぽっかりと開いた穴からは  赤い血が絶えず流れ続ける


  やつらは私から彼を奪い  雨は私から体温を奪い  怒りは私から理性を奪った


  その狂おしいまでの怒りは  この場に立つ者が私だけ  唯一独りになるまで続いた 


  何人殺しただろうか?  解らない


  何人殺害しただろうか?  解らない


  何人切り刻んで  何人撃ち殺して  何人命乞いした?


  解らない  そんなことは些細なこと  銃を捨てて降伏した?  関係ない


  私に背を向けて逃げた?  格好の的だ


  四方から襲ってきた?  四秒で十分


  閑散とした  人気の無い道で幸いした  今の私は見境無く  殺すだろう


  一般人?  殺し屋?  子供?  老人?  男?  女?  関係ない


  それこそ何の関係も無い  一切の躊躇も無く  殺した


  手にしたナイフは血に濡れ  手にした銃は煙を上げる  血を被った私は


  怒っていた?


  悲しんでいた?


  泣いていた?


  ・・・それすら解らない


  思考は停滞し  肉体は停止する  ゼンマイの切れたDOLL  静寂を取り戻したその場所で


  ただ呆然と立ち尽くす  手から滑り落ちる凶器  しとしとと滴り落ちる雫

   

  取り残された世界  私は泣いた


  彼がいない世界に  恐怖を感じた


  視界に彼の姿は無い  私は何処まで来てしまったのか


  彼のいる元に行こう


  ふらふらと  重たくなった体を動かし向かう


  血が足りなくなってきている


  白いもやが辺りを包み  寒気が体を蝕む


  一歩一歩が重く体がぶれる


  彼がいた  でもあと少しで足が動かなくなった


  バランスを崩し地面に倒れる


  もう少しなのに  もう少しで彼に言えるのに  体は動くことを拒む 



  

  ごめんなさい  一言でよかった  彼に謝りたい

  

  ごめんなさい  謝ってももう遅いことは解ってる


  ごめんなさい  冷たくなってしまった  彼に言えなかった言葉


  世界はどうしてこうも残酷なのだろうか


  世界はどうして優しくないのだろうか


  冷たい雨の振る中  冷たくなってしまった彼の目はただ虚ろ


  私を庇って逝ったときの  最後の言葉はなんだったのだろう


  彼は何と言ったのだろう


  愛してる?  違う


  好きだよ?  違う


  すまない?  違う


  ありがとう?  違う


  怪我は無いか?  違う


  全てが正解で  全てが不正解


  答えを知る彼はもういない


  あやまりたかった  聞き取りたかった


  涙はとめどなく溢れ視界を覆う


  重く冷たくなった体は  思った様には動かず  手を伸ばしてもとどかない


  あともう少しというところで  見えない境界線が私を拒む


  せめて最後に触れたかった  温かく私を包んでくれたその腕に


  倒れ付した体を引きずり  彼を掴もうと  小さく震える手を伸ばす


  私の瞳はもう何も映さず  目の前に広がるのは暗闇で  待ち構えるのは死神


  雨音ももう聞こえない  体がどうなったのかも解らない


  ただ一つ解ったことは  最後に彼と手を繋げて


  心安らかに逝けたことだけだった


                       END or Another Days?




 このあとがきを読む方へ、最大級の感謝と最高級の謝罪を。

 この話は一応ここで完結となっていますが、最後に書いてあった Anothey days の通り、別の話があります。内容をより詳しくしたものになりますので、興味がある方はそちらも読んでいただけると幸いです。

 

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