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決 ~終焉・戦闘ノ行方~




 始まりの時は終わりの時。


 物語の始まりは終焉への道のり。


 加速していく、収束していく、消えていく、命の灯火。

 

 彼の命は最大限にまで燃え広がり、漆黒の者を覆い尽くさんとなお猛る。


 その火の勢いを翻弄する闇の使い。


 嘲笑うかのように死の舞を踊る。


 火花が散る、血液が飛散する、殺気の嵐が建物の中で渦巻く。


 互いの命を削り合い、互いの体を抉り合い、互いの殺意を穿ち合う。


 加速---- 加速------ 加速----------


 二人の殺し屋は際限なく加速する。


 漆黒の魔王は右手に刃を、左手に銃器を構え狂喜する。


 死神の男は左右に細く頼りない、しかし鋭い針を放ち乱舞する。


 弾く、避ける、斬撃、銃撃、回避、跳躍、打撃、投擲。


 目まぐるしく変わっていく状況。


 交わされる一撃に潜む死の気配、禍々しく解き放たれる。


 駆ける---- 駆ける------ 駆ける----------


 魔刃が彼の腕を、足を、頬を、裂き、銃弾が彼の腕を、足を、頬を、抉る。


 どれもこれも紙一重で致命傷から逃れるだけの回避。


 魔王の攻撃は徐々にではあるが確実に彼の体力を、命を削っていく。


 血しぶきが床に点々と残り、二人の姿が残像を残して疾走する。


 投擲された針をナイフで弾いた火花。銃口から放たれる銃火。


 ビルの中という閉鎖された空間を瞬間的に明るく照らす。


 苛烈な攻防についていけなくなった方から死に近づく。


 息継ぎをする暇さえもがないほどの応酬には、冷たい死の気配。


 喉元に死神の鎌を突き付けられ、死の宣告を受けたかのような怖気が体を駆け回り、


 同時に高速に駆け巡り回るのは、目の前の魔王を駆逐するための戦術。


 自身が忌み嫌った殺人の技能がこの時ばかりは役に立つ。


 一秒間に十数の戦法を考え、頭の中で試行し、淘汰する。


 その中で残った戦法から状況にあわせ作戦を立てて実行に移す。


 その機械的なまでの思考行程に追いつき、追い越す勢いで体を動かす。


 すでにこの身は一つの殺人機。


 痛みや怒り、疲れや恐れは思考の外に排除し、眼前で跋扈する魔王を討伐するためだけに動く。


 「どうした。もっと近づかねば当たる攻撃も当たらないぞ?」


 こちらの攻撃を優々と回避しつつ、嘲りの言葉を口にするのは魔王。


 黒いコートをはためかせながら、目にも止まらぬ速さで疾駆するその姿はまさしく人外のもの。


 その証拠に、こちらの攻撃はまだ一度もかすりすらしていない。


 速く もっと速く 速く速く速く速く速く速く速く速く!!!!!


 ガツンッ!!と、体の中のギアを一段飛ばしで上げる。


 無理な体の動きに、関節が骨が筋肉が肺が心臓が神経が悲鳴を上げる。


 喘ぐ様に口からは絶えず酸素と二酸化炭素が行き来し、血流が濁流のように体の全身を駆け巡る。


 「苦しそうだな。いっそそのまま朽ちるのもお前には合ってるのではないか?」


 戯言には耳を貸さず、少しでも多くの酸素を吸い込み、更に動きを加速させる。


 酸欠になりかけている頭に無理やり命令。そして実行。


 奴の足元に二本の針を打ち込む。


 「むっ!」


 それは簡単にかわされたが、狙いはその次ぎ。


 回避した先には、前に投擲して床に刺さったままの針が待ち構えていたのだ。


 魔王は体勢を崩すことなくそれを避けるが、一瞬意識がそれた。


 そのほんの刹那の時間を使い、  


 ギシギシ、ミシミシ。


 オイルの切れたロボットのように全身から軋む音。


 限界を超えた速度を出す体には熱と疲労が蓄積され始める。


 


 


 カシャンッ!!


 拳銃の弾が切れ、空のマガジンが地面に落ちる音。


 魔王は素早く身を翻し、神速の速さでマガジンを片手で交換する。


 その間1秒未満の人間離れした早さ。


 「ふっっっ!」


 その、わずかな隙に強引にねじり込み、右手に掴んだ三本の針を素早く投擲。


 体の中心から縦に頭部、胸部、腹部を狙った最も回避の難しい部位に飛翔する針。


 この薄暗闇の中では知覚することさえ出来ないであろう必殺の一撃。


 その一撃を魔王は身を回転させ、遠心力で翻ったコートで全てはたき落した。


 恐らく防刃性の高い材質なのであろうが、薄い鉄板でさえも貫く針を全ていなしたことは驚愕だった。


 驚愕から一瞬。


 一回転して再び正面を向く魔王。


 その左手には次弾を装填された拳銃――――――鉛玉が吐き出された。


 それは、投擲をして無防備になった彼の体に抉り込んだ。


 「がっっっ!!」


 左肩にぽっかりと開いた穴は、灼熱の痛みを伴って思考をかき乱す。


 着弾の衝撃と激痛から反射的に体が硬直し、意識が0.1秒ほど吹き飛ぶ。


 瞬時に立ち直り、状況を再確認するも、その時には既に懐に黒い影が。


 「がふっっっっ!!!」


 疾走してきたその勢いをそのままに放たれた蹴りは、腹部に突き刺さり、グシャッ、

 と嫌な音がしつつ彼は数メートル吹き飛ばされる。


 トドメとばかりに引き金を連続して引く魔王。


 一回、二回、三回、四―――


 四回目の弾丸は明後日の方向に消えていき、その隙を見て彼は扉を突き破り、通路へと逃げて行った。


 「余計な手間を……」


 苦虫を噛み潰したかのような渋い顔をして、魔王は脇腹から生えている一本の針を無造作に抜いた。


 カランッ、カラン。


 少量の鮮血を散らしながら地面に軽い音を立てて落ちる針。


 四発目の弾丸が反れたのは彼が3発もの銃弾のその身に受けながらも放った1本の針によるもの。


 「面白くもあるが、そう簡単にはいかないか」


 一人ごちるその口元には先ほどと打って変った微笑。


 ポツリと開いた小さな傷口からはとめどなく血液が溢れ出ていた。


 「あの劣勢と体勢から的確に肝臓を狙ってくるとはね、やはり君は根っからの殺人鬼だよ」


 服の上から傷の正体を確認するが、危ういところで臓器には届いていなかったようだ。


 特注性の多重層防刃防弾コートを突き破り、あまつさえ筋肉を貫通した一撃。


 魔王からしてみれば想像以上のダメージを受けたことになる。


 以前までの彼ならここまで手を焼いただろうか?


 明らかに彼の動きは昔の動きとは異なるもの。


 「守る者を得たら強くなったと?」


 ふっ、と自嘲しながら独り言をつぶやく。


 くだらない思考を排除し、今は彼がどこに逃げたかを探さなければならない。


 先ほどの銃撃では致命傷を与えてはいないだろうが、確実に手ごたえはあった。


 数歩歩いていてから床にしゃがみ、手を着ける。


 ぬらり、とした感触が指先に伝わりその量を確かめる。


 「左肩の着弾を抜いての出血量から考えるに、この量だと沿そう遠くへは逃げられんだろう」


 点々と続く血液の道標。


 壊れたドアの向こうに消えていくその点は、闇に吸い込まれて行ったかのようだった。


 「さて、この先で待ち構えているのは獣か死神か、はたまたただの骸か」


 いずれにしろ殺し合いは始まったばかり、決着はまだつかない。


 魔王は軽い止血をすますと、悠然とした歩みで彼を追った。


 その様子には全くの焦りがなく、何処か楽しげですらあった。


割れた窓ガラスから風が入り込んだのか、微かに揺らめくカーテンの向こう。


瑠璃色の空に不気味に輝く三日月が覗く・・・。


 雲一つなく空に浮かぶソレはまるでナニカが嗤っているかのようだった・・・・・・。


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