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#1

  帝国暦3861年、領土拡大を賭けたユークライン王国とバルクール帝国の戦争は、帝国側の勝利に終わる。

  王国を滅ぼし、領土をさらに広げた帝国は、更に豊かさを増して行った。

  帝都レヴナンは帝国一の巨大都市。帝国の中心部に位置する、活気のある街だった。

  しかし終戦から二年後、帝都レヴナンは突如平和な街から一変する。

  平和な街に現れた巨大組織。巨大な街一つ支配する力を持った組織。

  彼らは一夜にしてバルクールの王族の多くを殺し、僅かな生き残りを帝国の隅に追いやった。

  その組織の名は、“グランドール・ファミリー”。

  帝都は無法の街となる。平和とは無縁の、荒廃した街に。

  帝国は街を取り戻そうと兵を送り込む。しかし彼らには歯が立たなかった。やがて帝国はその街を放棄する。

  そこは“棄てられた街”と呼ばれるようになった。集まる人間は無法者ばかり。ますます街は荒れて、グランドールの勢力も拡大していく。

  人は言う。そこは戦争の負の遺産であると。

  憎しみから生まれた、哀しき街であると。

  そんな街でも、人々は健気に生きている。


  *****


  ビルとビルの間を走る道路を、数台のバイクが疾駆する。

  先頭は一台。後ろの五台を引き離して走っている。

  黒い塗装に青いラインの入ったそれに乗る男も、また黒ずくめの格好だった。

  黒い短髪を風になびかせ、切れ長で黒い瞳の目はやや焦りに細められている。

  片手で眼鏡をかけ直し、彼は後ろを振り向いた。

(…………いつまで追って来る)

  何か叫びながら彼らは追って来る。先頭の男はやや大きめのオレンジ色のフラッグを持っている。それに描かれているのは鳥の形。隼のようだ。

(………てか……何でこんな事になってんだよっ!)

  苛立ちながら彼は思い返す。そう、事の始まりは三日前、帝都での事だった。


*****


「………レヴナン?」

「そ。ちょっと行ってみて欲しいんだよねー、ネウロ君」

  彼、榊ネウロは知人で情報屋のイーズ・リーリアにそう話を持ち掛けられたのだった。

  人の少ない酒場。その隅。下戸のネウロはただの水を飲んでいた。向かいに座る隻眼の男は酒を一口呑み、そして話を続ける。

「どうしてもそこの情報が手に入んなくてさぁ」

「………誰かに頼まれたのか」

「いーや?俺ちゃん個人の興味本位」

「…………要はパシリかよ」

  ネウロのツッコミを無視し、イーズは続ける。

「何せ政府の手も届かない街じゃん、内部の様子はブラックボックス、行った人間にしか分からない」

「……………何で俺が行かなきゃならない」

  不服そうにネウロが言うと、イーズは頬杖を付いて言う。

「俺ら長い付き合いじゃん。頼むよ、便利屋さん」

「………まさか情報屋のお前から依頼を貰うとは思ってなかったな」

「いっつもは逆だもんねぇ」

  普段、便利屋であるネウロは依頼を受けるとイーズから情報を買っていた。いつもはネウロが客だ。だが今回はその反対。

「お前自身が行けばいいだけじゃないのか、レヴナンに」

「渋るね。………いやぁ、知らない訳じゃあ無いでしょ?レヴナンはすっごい無法地帯だって。俺ちゃんみたいなひ弱なのが行ったら死んじゃうって」

「…………だからヤなんだよ」

「俺ちゃんよりも腕が立つ癖に、何言っちゃってんのさぁ」

「そんな得体の知れない所に行けるか。大体……そこはマフィアの帝国の様なものなんだろう」

「……………“帝王グランドール”?……まぁね……実際、勢力的にはこの国の帝王とそう変わらないみたいだし」

「王族を壊滅させた様な組織だぞ?変わらないどころじゃない」

「もーウダウダ言うなってぇ。俺ちゃん困ってんのよ?」

「行かせるならせめてあるだけの情報はくれよ」

「………あるだけの情報って……本当に常識程度の事しか」

「なら受けられないな」

  そう言ってネウロは水の入ったグラスを口元へと運ぶ。

「……………この恩知らず」

「ぐっ………」

  イーズの言葉に、ネウロは傾けかけたグラスを止める。そして、コトリと机にグラスを戻す。

  イーズは頬杖を付いたまま、ジトッとした目でネウロを見る。

「………俺ちゃんはさぁ、いつもネウロ君の手助けして来たじゃん。なのに君は助けてくれない訳?不公平」

「……なっ……何もタダで貰ってた訳じゃないだろ!」

  思わず身を乗り出して反論するネウロに、イーズも負けじと身を乗り出す。

「世の中金が全てじゃないよネウロ君!困った時はお互い様!」

「………………」

  イーズに押し負け、ネウロは身を引いてボソリと言う。

「………どうしても嫌だっつったら……?」

「君と俺の関係はここでおしまーい」

「んなっ………それは……卑怯だぞ!」

「卑怯?そんなまさか。これは正当な取り引きさ」

「……………」

「勿論報酬はちゃあんと出すさ。……十万バルでどうだ?」

「………金が全てじゃないって言ったそばから………」

「勿論これから先の情報提供も含めて。……乗るか?」

「……………お前からの情報がなくなったら困る」

「お?それはイエスかな?」

  問われ、ネウロは渋々頷く。すると、イーズはパアッと顔を輝かせて立ち上がる。

「サンキュー!お前ならそう言ってくれると思ってたよ!今回のお礼にお前の飲み代も俺が払っとくな!」

  と、彼は残りの酒を一気に飲み干すと、カウンターへと歩いて行った。

「……………馬鹿か」

  ネウロは意気揚々と歩く情報屋の後ろ姿を見て呟いた。

「……………水はタダだろうが」

  そうして水を飲み干し、彼も席を立ったのだった。


  *****


  そして現在。

『どんだけ荒れてるとか、グランドール・ファミリーの構成とか出来れば調べてねぇー。よろしくちゃん』

  バイクを駆るネウロの脳裏に、そう言って笑うイーズの顔が浮かぶ。僅かに苛立ちを感じつつ、心の中にメモする。

(……………治安最悪。街に入ってすぐこの様)

  舌打ちを付け加え、ネウロはさらにスピードを出し上げる。随分追手は引き離している。だが撒くには至らない。

(こんなだだっ広い道路じゃ当たり前か)

  下に降りようと考え、すぐそこに迫る下り道へとハンドルを切る。後に続くバイクも同じ様にして追って来る。

  と、不意に発砲音がする。

「!……っと!」

  チュン、と道路で火花が散る。内心ヒヤリとして、ネウロは振り返る。

「………………はっ、遠慮はいらねェってか」

  ニヤ、と彼は笑い、腰のホルスターから拳銃を取り出して後ろに向けて撃った。

  パン!と破裂音がして追手の戦闘のバイクのタイヤが弾け飛ぶ。それから将棋倒しになって悲鳴や衝突音が道路に響いた。

「…………御愁傷様」

  ネウロは前に向き直ると、そのまま道路を降りて行った。


*****


「…………油臭い……工業区か」

  あちこちで響く機械音。棄てられた街というからすっかり機能していないものだとネウロは思っていたのだが、その予想は大きく外れていた。

  機能していないどころか、そこらの工業地域よりも盛んに思えた。そう、国全ての工業地域が密集しているかの様な…。

  手にした街の地図を眺め、そして呟く。

「…………なるほど、こりゃ小さな帝国だ」

  心の中に一つ、そうメモを加えて、バイクに横向きに座っていたネウロは、立ち上がって歩き出す。

  ここは人気のない廃倉庫。荷物は何一つ無くだだ広い空間が広がっている。本当に使われていないらしく、少々埃っぽいがさほど問題でもない。ここならバイクを置いても問題ないと判断し、彼は徒歩で探索を始める事にしたのだった。

「………つっても広いよな…」

  やっぱイーズも連れて来ればよかったんじゃないかと内心思ったが、今さら仕方がない。そもそも言ったって笑って流されて終わりだろう。彼はそういう奴だ………と、ネウロはため息を吐いて倉庫を出た。

  外へ出た途端に、機械の音が更にハッキリと聞こえる。見上げれば、煙突からもくもくと立ち上る煙が見える。

  ネウロは足を進める。と、ゴウンゴウンという様な音の中に、金属を削るような音が混ざって聞こえて来る。色んな工場がある様だ……と思っていると、不意に背後に複数の気配を感じた。

「いたぞ!あいつだ!」

「!」

  声にネウロが振り向くと、十人程の男達がいた。一人が掲げる旗。そのマークには見覚えがある。

「………あれ、お前ら……さっきの………?」

「はっ!お前、俺達の事を知らないのか!」

「道理で堂々とやれた訳だ!」

「……………?…何?」

  ネウロが困惑した顔を見せると、男達はさらに猛る。

「思い知れ余所者!俺達の力を!」

「そうだそうだ!」

  と、キュンとネウロの足元に銃弾が着弾した。

「……………」

  ネウロが足元から男達の方へと視線を移すと、先頭の男が銃を持って笑っている。

「は!ビビったか!やっちま……」

  しかし、彼の言葉は最後まで続かない。途中でそれは発砲音に遮られ、悲鳴に変わる。

「ぐうあああぁぁァァ!」

「………撃つなら、ちゃんと当ててみろよ」

  足を押さえて転がる男。地面に血が流れ、周りの男達がどよめく。ネウロの手には銃が握られている。誰も彼が構えた所など見ていない。

  ネウロは彼らを睨み付け、硝煙を上げる銃口を彼らに向ける。

「…………そもそも何なんだよ、名乗りもせずに。こっちは訳が分かんねェっての………」

「……ふっ……はは……これだから余所者はいけねェ」

  足を撃ち抜かれた男が笑う。そして震える手でネウロへと銃口を向けた。

「……あ?」

「俺達に逆らっちゃいけねェのは、この街では常識なんだよ!」

  発砲音。続く金属音。男は目を見開いた。そして一瞬にして世界は暗転する。頭に強い衝撃を受けた事は理解した。だがその他は分からない。

「………逆らう?………意味が分からない」

  男を蹴りで気絶させたネウロは、足を下ろし、すぐ近くになった男達に言う。

「名乗りもしない奴に従う価値なんかあるか」

「こっ………コイツっ……」

「やるなら相手くらいするぞ?こちとら来たくもない所に来させられて、ちょっと苛々してんだよ」

「くっ、うおおぉぉ!」

「!」

  一人がナイフで斬り掛かって来た。ネウロはそれを避け、後ろに下がる。銃をホルスターから出そうとする。だが、不意にその腕を誰かに掴まれた。

「⁈」

  驚いて振り向く。この近距離で、全く気配に気付かなかった。普段はそんな事はあり得ない。しかしネウロはすぐにその原因に気付く。

(……コイツ、殺気がない)

  ネウロの腕を掴んだ銀髪の男はこの近くの工場の作業員らしく、繋ぎを着ていた。

  彼はネウロが何か言う前に、回れ右してネウロを引っ張って走り出した。

「こっちだ、来い!」

「えっ、うわ、ちょっ」

  呆気に取られながらも、ネウロは彼に引っ張られていく。

「あっ、逃げたぞ!」

「追え!逃すな!」

  男達の声がする。追いかけて来るようだ。

「……おい………」

「黙って付いて来いっ!」

「……………」

  自分と歳が同じか、あるいは少し上かという彼は、振り向きもせず走る。

(………何なんだよ)

  この街に来てから訳の分からない事ばかりだ。と、そう思ってネウロは、自分が本当にいつもイーズに頼っていた事を実感する。……彼からの情報が無ければ、自分は無知過ぎる。

  そんな不安を感じつつも、ネウロはただ謎の男に連れられて走った。


  *****


「どこ行った⁈」

「あっちだ!行くぞ!」

「おう!」

「待てやあぁ!」

  男達の喧騒が通り過ぎて行く。ネウロと男はコンテナの陰に隠れていた。荒い息をしながら男は外の様子を見、呟く。

「…………行ったか………」

  そして、ため息を吐いてネウロの方に向き直る。

「……………助けてくれと頼んだ覚えはないんだが」

  ネウロはそう彼に言う。と、彼は突然ずかずかとネウロに近付いて来て、その胸ぐらを掴んで怒鳴った。煙草の臭いがつんと鼻についた。

「馬鹿野郎!何あいつらに喧嘩売ってんだよ!」

「……っ…あの……ええっと」

  ネウロがきょとんとしていると、彼はさらに怒鳴る。

「帝王に殺されんぞ!何考えてんだ、ったく!」

「……て、帝王って、どっちの」

「グランドールに決まってんだろ!バルクールの帝王はそんな怖いか⁈あ⁈」

  と、そう言って彼はネウロを放す。一気にまくし立てて疲れたのか、ハァハァと荒い息で続ける。

「………あいつらはっ……ケストレルっつってっ……」

「…………おい、疲れてんなら無理すんなよ」

「うるさいっ!………ハァ、余所者みたいだから教えてやるけどなっ………あいつらは…この工業区を縄張りとする…“グランドール・ファミリ”ーの傘下の奴らだ」

「…………グランドール」

「それくらいは知ってんだろ………王族殺してこの街を乗っ取ったイカれた野郎共………。全ての区はその傘下のチームが……それぞれ支配してる」

「………………」

  ネウロは今聞いた事を頭の中にメモする。重要な情報。この街で活動するに必須な。

「………あいつら、俺がこの街に来てすぐ襲って来たぞ」

「あいつら街の関所に情報網持ってるからな、誰か新しい奴が来たらすぐ分かる。顔は完全にバレるぞ。その内名前も経歴もな」

「………………恐ろしいな」

「ケストレルはまだマシだよ、娯楽地区から入ってみろ、襲われるってもあんなじゃ済まねェからな」

「ご忠告どうも」

  入って来る人間を調べて街の中の人間を管理してるという事か。…………ネウロはそう考え、この街の恐ろしさを今さらながらに実感した。予想以上に荒れている。いや、荒れているのではない。完全に支配されきっている。

「さっさと出てった方がいいぞ、あんた。もう目は付けられたと思った方がいい。この街にいる限りは狙われる」

「………悪いが、まだ帰れそうにないんでね」

  と、ネウロは肩を竦める。

「あんた何しに来たんだ、この街に」

「情報集め。……知り合いに頼まれてね」

「知り合い……って、そんな事頼むなんて酷い奴だな」

「同感だ。だが頼りにはなる」

「……変な友達は持たねェ方がいいぞ?」

「友達じゃない。知り合いだ」

  そこまで言って、ふとネウロは目の前の男に訊く。

「……………ところで、お前は誰だ」

「ん?あ、あぁ、すまねェ、名乗りもせずに」

  彼は当たり前の事を訊かれて、恥ずかしさに狼狽える。そして頭を掻きながら答える。

「俺はリヒター。すぐそこの工場で働いてんだ」

「……ネウロだ。便利屋をやってる」

「便利屋?そりゃまた」

「それの依頼でここに来たんだ。じゃなきゃあ来たくもなかったね」

「………………はぁー、なるほど」

  と、リヒターはネウロを上から下まで眺め、頷く。

「…………俺さっきの見てたけどよ……あんた強いな」

「伊達に便利屋はやってない。危険な仕事も請け負う事は多々ある。……今回みたいにな」

「んにしてもよー、まだ若いのになんか歴戦の兵士みたいな」

「……………」

  と、ネウロが黙り込むのを見てリヒターは慌てる。

「え?あ!悪い!何か気ィ悪くしたか⁈」

「………いや、別に」

  ネウロは苦笑を浮かべて答える。

「…………あ……そっか、ならいいんだ…」

「……ともかく、ここから移動しよう。ずっとここにいる訳にも行かない」

「んー、そうだな。ならとりあえず俺の所来い」

「……………ハハッ」

  笑うネウロに、リヒターは戸惑う。

「な、何だよ」

「いーや、とんだお人好しだと思ってな」

「……………は?」

  訊き返すリヒターに、ネウロは肩を竦める。

「まだ出会って間も無い俺を匿うのか?自分達にも危険が及ぶかもしれないのに?」

「………あぁ、そういう事か」

「第一、俺自身危険な奴かもしれないぞ?」

  ネウロの言葉に、リヒターは少し考えて首を傾げる。

「……いやー……まぁ確かにある意味では危険だろうけど」

「…………」

「お前悪い奴には見えねェし」

  その言葉に、ネウロは思わず吹き出す。

「プッ、ハハハハハ!」

「……だっ、だから何が可笑しいんだよっ!」

「……………はー…お前本当面白いな、ったく、どんだけ信用してんだよ」

「わ、笑うんじゃねェよ………俺だってなぁ、こんな街で暮らしてちゃ、善人か悪人かそれくらい見分ける目は身に付く!」

「…………あー…そっか、悪い。……ナメてたよ」

「ほら!分かったらさっさと行くぞ!」

「あーあ、ちょっ、引っ張るな」

  再びリヒターは最初と同じ様にしてネウロの腕を引っ張って行く。だが最初と違うのは、走るのではなく急ぎ足である事。振り解こうと思えばすぐに振り解ける。だがネウロはそうしなかった。この街で、彼の様な人間に会えて内心嬉しかった。


  *****


  鉄と油の臭いが漂う工場。“ミオーネ・ファクトリー”と名の付いたそこは、リヒターの勤める工場である。

  構造は二階建て、半分は吹き抜けになっている。キンコンと鉄を叩く音や金属を削る耳障りな音。だがそれでいてどこか居心地の良い様な空間。…………それは、そこで働く人々の温かさか。

「おう!リヒター、ちょっと出てったと思ったら何だ?」

「………あ、工場長」

  出迎えて来た大柄な男に、リヒターはそう反応した。

「煙草買いに行ったんじゃなかったのか?」

「…………いや、それどころじゃ無くって」

  と、リヒターはネウロを首を傾げて示す。

「……ほう、東洋人か?」

「…………あ、そうだ、聞いてない」

  ネウロの肌の色と目鼻立ちを見て、リヒターと工場長が尋ねた。ネウロは仏頂面で答える。そう訊かれるのは好きではなかった。

「血筋だけ、な。家系が東洋の出らしい。国籍は正真正銘バルクール人。東洋の事なんか何も知らない」

「へーそうか。でもまぁ、それじゃあ目立つよな」

「お?何だ、目立ったら悪いのか」

  リヒターの言葉に、工場長がそう言った。

「……んー……実はコイツ、帝王に目ェ付けられちゃって」

「は!そりゃまた!」

  と言って、工場長は笑う。ネウロは彼が怒るんじゃないかと思っていたので驚いた。

「厄介なものばっかり持って来るなぁお前は。まぁいい、客なら大歓迎だ」

  うざがられているのか歓迎されているのかよく分からず、ネウロは困惑する。だが、悪意がないのは確かだった。

「ようこそ我がミオーネ・ファクトリーへ。俺は工場長のセフィリオ・ミオーネだ」

「………榊ネウロだ。便利屋をしてる」

「おい何だよ、名前も東洋じゃ」

「家系だって言ってるだろ」

  普段ネウロはフルネームで名乗らない。嫌だからだ。こういうのが。だが相手がフルネームで名乗って自分だけ名乗らないのは気に食わない。

「…………悪い」

「…………………」

  気にするな、と言う気も起こらない。ネウロはただ無言で目を逸らす。

「……んで、何だ、匿ってやりゃいいのか」

「いや、コソコソ隠れるつもりは無い。……居場所だけくれればそれでいい」

「あぁそうか。なら、俺達が夜寝泊まりする宿舎が少し離れたとこにある。確か丁度一部屋空いていたはずだから、夜はそこを使うといい」

「助かる」

「……んで、便利屋っつったな、お前さん」

「あぁ」

「隠れるつもりは無いんだったら、いくつか仕事頼まれてくれねェかな?」

「………それは勿論。俺だってタダで泊まるつもりはない」

「そうか、そりゃ良かった。……なら困ってる事が色々あるんだ。何でも引き受けてくれるのか?」

「………大抵は」

  無論、あまりにも無茶過ぎる依頼は断っている。………もっとも、そんなものは滅多に来ないが。

「……んー、それじゃあなぁ」

  と、セフィリオは腕組みして考え始めるのだった。

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