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守られぬ婚約  作者: 番茶
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追う男






許すとか、許さないとかの問題ではなかった。

目の前が真っ赤になったのは後にも先にもあの時だけ。



『リーナを隣国に嫁がせようかと思う。』



そう話していたのは確かにこの国の国王であった。



『この国のためを思えば今しかないんだ。』



話し相手はこの国の宰相。彼は何を言うでもなくそこに立っていた。

ユリウスは隠れて聞いていたため相手の表情などはわからない。


『国王様、しかしそれは…』

『わかっている…だが、ユリウスには他の姫をやる。私の弟の所の娘も王族であり姫には変わりない。隣国に直系以外の娘をやるわけにもいくまい。』


国王はため息を吐き出す。

ユリウスはその話に怒りが治らなかった。

__リーナ以外の姫?


そんなもの彼にはなんの意味もなかった。彼が欲しいのはただ一人リーナだ。

美しく優しいただ一人の人。

リーナを手に入れるために国の害となる化け物を何匹も殺した。

化け物がいなくなったからと攻めてきた近隣の国を叩きのめしたのも全てはリーナの隣に立つだけの功名のためだった。

一介の庭師が姫と添い遂げる、そのためには国を救うくらいのことをせねばならなかった。

だから殺した。

そしてリーナと添い遂げるための権利を勝ち得た。

そう思っていたのに…__




王は欲が出た。

戦争に勝って広がった領地、手に入れた軍力、大国であるさらに隣の国と婚姻関係を結び、さらなる成長を望んだ。




ユリウスは何も偉くなりたかった訳ではない。英雄と呼ばれたかったわけでも、国を救いたかったわけでもない。ただ一人、リーナが欲しかった。



なのに王は裏切った。



たった一つ守って欲しかった約束を。



だからユリウスも裏切った。




王のありもしない悪政を世に広め、それを裏付けるような事を各地で起こした。

税は重くなり、軍備の為にと若者は駆り出され、国民は苦しんだ。

国民の不満を生み出すのは本当に簡単だった。少しの指示で思いの外大きな反応があった。


“王を引きずり落とせ”

そう言ったのは誰だったか、今となってはわからないが国民は皆“英雄”の登場を待っていた。


だから殺した。

王からの呼び出し、リーナを伴って行くことだけが心苦しかったがもう待てなかった。

この日、呼び出された理由をユリウスは知っていた。

“国のためにこの婚約はなかったことにしてくれ”

“ユリウスには新たな姫と婚約していただき王族として迎えよう”

聞かなくたって知っている。

あの日聞いたことは今や急務だった。


切迫した王は隣国と繋がり、国を発展させることで国民の怒りをおさめるつもりでいた。もはや藁にもすがるような気持ちで。


だからそのことを口にする前に何も喋れなくしてやった。

リーナの叫び声が聞こえ、人払いしていたために離れていた近衛兵達はユリウスに与えられていた部下によって既に息はなかった。


リーナが亡骸となった王に縋り付き、涙ながらに呼びかける。

彼女は言った。


“何故裏切った”


そう言った。

しかし違う。

裏切ったのは君の父上だよ。



部下が合図を出す。

響く爆発音。

ユリウス達のいる王の間から一番遠い塔、火薬庫のある場所に火を放ったのだろう。

あまりの音にリーナは驚き辺りを見回す。


「心配ないよ、火薬庫に火を放っただけだ。」


その発言にリーナはさらに驚いたのか衛兵を呼ぼうとする。

残念なことに、この城のほとんどの人間は既にユリウスの手の内だった。


〔ダメだったのは近衛兵くらいか…奴らは忠誠心が強すぎた。〕


王妃は合図と共に亡き者にするよう言ってある。もちろんその胸に抱かれているであろうリーナの弟君も。

あと一人…ユリウスは周りを見回した。

そろそろ来る頃かと思ったのに中々来ない。

リーナの兄。あいつはいい奴だった。

王座に着けば賢王と呼ばれたことだろう。



ざっ、と後ろで動く気配がした。

ユリウスが振り返ればリーナの姿がない。


「隠し通路か…」


王座の裏側のカーテンに隠された隠し扉。

既に鍵をされているそこは開かない。


ユリウスは外に控えた部下を呼びつけリーナを探した。不運なことに彼女はすぐに見つかった。

彼女の手を引いていたのは彼女の兄。

先ほど手引きしたのも彼かもしれない。



部下の一人が矢を放つ。

リーナに向けて放たれたそれはその兄である人間の胸に刺さった。

リーナを狙ったのではない。

“的から当たりに来てくれる”ことを狙ったのだ。こんな簡単こともない。

__リーナに当てるはずがないのに馬鹿だな



リーナは叫んだ。

我々との距離が縮まって行く。

彼女は兄と何事か話すとキッと一度だけこちらを睨んで逃げていった。



__死骸が邪魔だな…

数多く配備されていた近衛兵たちはそのほとんどが亡骸となった。

そうして追い詰め、結果彼女を取り逃がした。

閉じられた隠し扉は今度は外に通じているらしい。


「ユリウス様、いかがなさいますか。」

「見当はついている…消火活動と死体の掃除をするように伝えてくれ。」

「かしこまりました。」



今日はゆっくりお眠り。

また改めて迎えに行ってあげよう。



おやすみ、愛しいリーナ。











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