Bead(s) 2章 [魂は 心であるか 器であるか]
4部目にして2章です。
今回から回想の多い内容が暫く続く予定です。
簡単に今回の内容を紹介すると、シャワーシーンがあります。しかしシリアス展開ではあります。
暗闇、本当の暗闇はここにあった。私という主観しかない世界だ。
回りには、誰も、何も、見えるのものは存在しない。見上げることも見下ろすこともできない。上とか下とか呼ばれてる感覚は、自分の体を確かに感じているから分かるもので、自らの体すら見えなくなると、そんなものは分からないのだ。
目を覚ますとベッドの上だった。着信の通知が来ている。重要扱いでだ。でも、きっとこれはそこまで重要なことでもない。誰からかのものかは大体想像がつく。
「ジェド、少し寝過ぎたわ。」
「そうだな、寝すぎだな。」
「うん、ごめん。」
「ああ。」
「……そういって怒ってたりする?」
「怒ってはいないさ。」
「じゃあなに?昨日の事?」
朝起きたら9時を少しまわっていた。今日は学校も休み。9時に学校の駅でジェドと落ち合って、そこから1時間かけて新市街に行く予定だったが、もはや時間変更は避けられない。
「昨日のこともそうだが、もっと前からのこともだ。」
「前からのこと?」
朝、目が覚めたらするとこは、まず、情報表示モードの設定を変えることだ。寝るときはオフにしておくのが基本。そうしないと、色々と通知されて落ち着けない。オフにすれば、通知されるのは重要な事だけ。でもジェドは、通話を私にかけることによって、私を叩き起こしたのだ。もちろん重要通知としてだ。そうでもしなければ、寝ている人間は起こせない。
「……まぁな、……そんなことより、早く支度してこいよ。10時に駅だからな。」
「わかったわ、それじゃ。」
「おぅ、またな。」
そういうと、すぐに通話は切れた。
ジェドの声も、髄分と疲れた感じがした。私も、今日はまだ疲れが抜けていない。
昨日は疲れたが、そのせいでジェドにも負担をかけている気がする。
朝食は後にしよう。最悪無しでもいい。
とりあえず何を着て行こうか。クローゼットを開けると、その扉が、私の右隣に食い込んで、くの字に畳まりきるその前、がさっと何かが倒れた。
紙袋だ。
昨日、どうして知られていたのかは分からないが、アヴローラも今日の事を知っていた。そして、彼女に紙袋をひとつ貰ったことを思い出した。
紙袋に手を突っ込むと、さらさらとした感触がした。そして、中の物を引き出してみれば、真っ白な中に、ほんの少し水色の線の入った布が、掴んでいる所だけを支えにして、他は、滑り落ちるところまで落ちて止まった。
「え……。」
まだ中に何か入っているが、ひとまずそちらは後にする。紙袋を下に置いて、右手に持っていたものを、両手に持って広げてみると、1枚の服だというこは分かった。肩にかける部分であろう2本の紐から、一番下まで見ると、膝くらいまでの長さはある。確か、こういう服をワンピースって呼ぶはずだ。
「……明らかに私の柄じゃない。」
思わず言葉に出てしまったようだ。なんでこれをわざわざ渡したのか。こんなスカート穿いたとこもないし穿きたいとも思わない。
丁度柔らかに山折りと谷折りを繰り返しているスカートの、平行する折り目たちの直線上、それらが床と交わる辺りには、薄ピンクの紙切れがあった。さっきこの服を出したときに落ちたのだろう。手にとってひっくり返すと、丸めの線で手書きされた文字の集合があった。アブローラがわざわざ紙でメッセージを書いて入れておいたのだろう。
"ささやかなプレゼント! 印象かえてみたら?きっと喜んでもらえるよXD がんばれイルザちゃん!"とある。
思ってた通り、今日の為の服としてくれた訳だ。XDとか使うところも彼女らしい。顔文字って言うやつだ。
「騙されたとでも思って着てみるか。」
そういえば、もうひとつ何かが入っていた。それも見ておかないといけない。
とりあえずワンピースは、床につかないように、椅子の背もたれに、腰のところで2つ折りになるように引っ掛けておく。
そして、紙袋を開け、もうひとつの物を引き出すと、黒い服が出てきた。感触は少し固く、丈は短い。上着だろうか。
今一度時間を見ると、まだ10分くらいだ。シャワーだけ浴びて、この服を着てみて……、あとはまた考えよう。
上着をとりあえず机に置いてから、タオルとか諸々を取り出す為に、もう一度クローゼットの前に戻った。
Bead(s)第2章 [魂は 心であるか 器であるか]
昨日から始めた、機動甲服との疑似接続訓練、仮想空間で機動甲服を使う訓練。
きっと去年の同じ時期に、ジェドも経験したはずの訓練だ。
とにかく、あれは疲れる。なんといっても、機動甲服は、手足が元の体よりも少し長い。丁度元の手足を覆ってから、さらにその先に代わりの手なら手先、足なら足先がくっついているような長さ。その感覚が、自分の体が急に違うものになった感じで、どうにも疲れる。その結果、昨日の夜、私はこの、白色と群青色であらかた説明出来そうな部屋に運び込まれた。
シャワールームの前には、洗面所とも呼べる、狭い部屋がある。
そこにある洗面台の鏡が、私がいかに疲れた顔をしているか見せつけている。まさに鏡の鏡、鏡の存在意義を体現している。
「はぁ…………。」
髪の毛は薄目の黄土色で、ただでさえ癖があるのに、寝癖であちこち反り返っているものだから、朝にはシャワーでも浴びないと収拾がつかない。瞳は少し緑の混じった水色だ。メラニン色素が少なめな色合い。目の奥まで見えてしまう色。
私は、鏡で見るこの目があまり好きではない。この目は、私の目だけで出来ている訳ではないのだ。
遺伝子に細工を施し、少しだが機械も入っている。だから、私の視力で私の目を見ると、目の奥でそれらが動いているのが見えてしまう。
これがどうしても馴れない。
洗面台の横に、群青色の洗濯かごが置かれ、そのなかには、機動甲服用の真っ黒なインナーが、畳まれることなく投げ込まれてある。
その上から、それらが投げ込まれた瞬間を再現するが如く、ゆったりとした、柔らかさのある寝巻きを投げ込み、他の着ていたものも続けて投げ込んだ。
…………
外から中に、外側からまん中に。
シャワーから髪の毛に当たって落ちる水滴というのは、下を向くと、髪の毛を伝ってから、外側からまん中に向かっていく様に見えるけど、実際は上から下に、さらに、垂直に落ちている。人間は、空間を考えると、どうしても立方体の形を基準に考えてしまう所がある。でも人間の視界は扇状であるから、時に平行に進むものも、視点を変えただけで、平行に進んでる様に見えたり見えなかったりする。そんな水の流れで、体を洗おうと背中に手を回すと、ウエストの辺り、丁度肝臓の後ろに1つ、肩甲骨の間辺りに2つ、全部で3つの接続端子の硬い感触がある。機動甲兵の証しともいえるものだ。
水が顔に当たるから、目を閉じると、シャワーの音は結構うるさく聞こえる。でも言葉のような、意味を持つ音とは違って、変化の無い音の連続でしかない。そういう音を聞いていると、色々思い出したり、考えが頭をぐるぐる回ったりしてくる。
そして、ついつい水を使い過ぎるのだ。節水には気を付けないといけない。そろそろ出ることにしよう。
水気を取ってから、さっさと下着だけは着て、鏡を改めて見てみると、髪の毛はしっかり抑えつけられていた。乾かしてから暫く経つと、また癖が出てくるのは知っているが、それはどうにもできない。
「あ……。」
服の心配がまだあった。椅子の背によって2つ折りになっているあのワンピース、あれが下着と合わせれるかどうかだ。
頭から着ればいいか、足から着ればいいか、正解は分からないが、結果は同じだろう。頭からにしてみたが、特に問題は無かった。
そう、着ることには問題はなかった。胸回りは伸縮性があるが、少し緩めに感じる。これの前の持ち主との体型差だろう。それもさほどの問題ではなかった。
もうひとつの問題、それは肩の紐が全部で4本見えてしまうこと。内側の2本が見えるのは少々恥ずかしい。
「あ……。」
思い出した。上着もあったのだった。アヴローラの先見性に感謝しよう。この問題は想定の範囲内ということか。
上着を着ると、丁度いいくらいに肩の辺りが隠れた。
もうすぐ支度も終わるし、ジェドに音声メッセージでも送っておこう。
「10時よりも早く行けるかも知れないけど、今どうしてる?」
返事が来るまでは、とりあえずできる支度をしておこう。
机の引き出しから、数珠を取り出す。基本的には持ち歩くことが決まりとなっているものだ。1つだけ大きい珠があり、その中には、3次元のコードによって、持ち主の識別情報が記録されている。他の珠はただの飾りだ。私のものは、これを支給されたときのままの、一切の柄が無い、透明な珠たちがただ連なっている。
確か、ジェドと新市街に行った時に飾り珠を買って貰ったんだったか。ただの透明な珠じゃ殺風景とか言われたんだったかな。
そう、あの日だ。柄じゃないワンピースを貰って、それを着て……。
……!
目が覚めたのがわかった。それでも目の前は真っ暗、何も見えない。今までのは夢か、それにしては昔の事を正確に再現し過ぎのように思える。まるでその時の自分を、心の中のもう一人の自分として見ていたのかとも思える。
この暗闇の正体は分かる。神経接続時の緩衝状態。緩衝状態は、機動甲服や、神経接続を使う仮想現実では必ず搭載されている機能だ。これを挟むことで、接続による体の感覚の差を緩和する。それがこの暗闇の目的。
…………何も起きない。誰も居ない。私の主観だけがあり、それでも真っ暗で何も見えず。上下も概念ごと認識できないような浮遊感。
けど、声だけは違う。私は思考できる。それはつまり、言葉が存在すると言うことだ。言葉は思考を形作る情報のシステムだ。声が音として出るわけではないが、言葉を放とうとしている感覚だけは、この暗闇でもちゃんとある。言葉はいつも頭の中にあって、言葉を放てる。それは音でなくとも、表そうとすれば、接続されているどこかに伝わるはずだ。
「誰かが、私を何かに繋いでいるのは分かってるわ。」
「返事するなり、何か見せるなりしなさい!」
…………
少し強めに言ってやったが、何もなかった。だが、その少し後、辺りは急に明るくなった。
下を向くと私の体ではなく、機動甲服だった。けど、これは訓練用の仮想現実のようだ。
……
「暗闇で無干渉にされることは、やはり恐いもののようだな。」
声がした。しかし誰もいない。ただ、特に特徴のない、白い町並、背景の空は雲のない空だ。仮想現実で再現された、味気ない景色。
訓練生の頃から見慣れた景色だ。声は誰か分からない、声は合成かもしれない。
背中に手を回すと、装備もちゃんとあった。狙撃砲の延長砲身を外し、それを背中に戻してから、砲を両手に構える。
「これが仮想現実でも、なんの許しもなく引き金を引きたくはないわ。でも、声をかけれるのに隠れて、いきなり飛び出して来たら躊躇はしない。話があるなら、意思表示を済ませてから出てくるものだと思うけど。」
きっと、この仮想空間は、さっきの声の主か誰かの手の内だろう。
なら逃げ隠れしても無駄か。
……
「なら少し手合わせをしよう。そなたの察した通り、訓練用の仮想現実であるのだからな。」
少し間をあけて、そう返事をしてきた。誰だか知らないが、少し相手をする他無さそうだ。
補助カメラからも含む、全視覚情報と、音をはじめとする振動、周囲のあらゆる変化に集中する。
「……!」
すぐ近くの建物の影から飛び出してきたのは1人の機動甲兵だった。極めて高い出力の推進装置を使って一気に近づいてくる。
その右手は、近接戦型の装備、火薬式の短小砲を持っている。
敵が私の目の前までくる直前、狙撃砲を敵に向けて構え、最低出力で1発撃つと、予想通り、こちらが撃つ直前敵は姿勢を低くして、射線の下に潜り込んできた。だが、反動を減らすために最低出力にした砲撃の結果、まさに私の左手は砲身に添えているだけだ。その手を離し、姿勢を低くした敵の、頭めがけて降りおろした。
当てた衝撃を左腕の外側から感じた。あまり丈夫とはいえない手先が、敵に当たらないように出来たのは幸いだ。とはいえ、ひとまず距離を置いて再び砲を構えた。
しかし、手合わせは、もう終わりのようで、開いた掌2つをこちらに向けて、それらを頭より少し上くらいまで持ち上げている。
「お見事、そなたは狙撃手だとお見受けしたが、格闘の駆け引きもお上手なようで。」
「相方のおかげ様でね、これくらいは慣れてるわ。それで、さっきとしゃべり方も変わった気がするけど、あんた誰?」
「そなたら、しかし、そなたは例外かもしれないが、神と呼んでいるものの1つの姿と言わせて頂こう。」
神?神も仮想現実に入れたりするらしい。むしろ、元より仮想現実の中にいるものだったりするのだろうか。
「あら、それは失礼いたしましたわ。我らが神よ、どうかこの無礼を許したまえ。」
わざとらしいくらいに、神前の雰囲気を被る。なにせ神前だ。
「そなたも、話し方が変わったようだな、しかし、かしこまる相手でもないぞ。」
「それはどうも。神ってこんなに気軽にお話しするタイプだったのね。」
「それは、そなたは、そなたに見える神を見ているからであり、神がそのようなものである、とはいえない。ただ、そなたにはそう見えるのだ。」
「ん?なんだか、そう見えるだけで、実際はそうではない。でもそういう風にしか見えない、って感じね。矛盾してるようで矛盾してないわね。」
「とりあえず、今のところはその解釈でよいだろう。頃合いだ、そなたを現実に戻そうか。ここでの事は他言しないことだ。」
そう聞こえたのを最後に、視界が一気に暗くなり、暫しの闇の後、また明るくなった。
今回も読んで頂いた方々には感謝の限りです。
自己とか、私の存在というのは、誰かに見られてこそ分かるものに思えます。
今回は、初めて恋愛的な内容が出てくる章になる、と言うより、そうする予定です。でもシリアス展開になることはほぼ見えてます。これは勝手にそうなるのです。