Bead(s) 1章[なびくは砂か 逃げ水か]
1章です。序章の続きとなっているので、序章からお読みください。
大分遅れましたが、今回は戦闘が多めで、少し雰囲気が違って見えるかもしれません。
退屈じゃないことが、こんなに最悪だなんて、退屈じゃなくなって始めて気づいた。兵士である以上、これは職務だが、それでも最悪だとしか思えない。結局外に出てしまったら、力しか自分自身を守れないのだから。
Bead(s) 1章[なびくは砂か 逃げ水か]
ただ照りつける陽光と熱気でうねる砂漠は、一瞬にして砂埃で曇天のような薄暗さになった。私の視界の端の方には、[視界不良]やら[センサー切り替え]とかのフキだしたちが、しつこい程にうるさく警告してくる。その下には、[電探][音探]とかの項目が並び、私に選択を求めてくる。
とりあえず[センサー切り替]から、全センサーを受動状態に固定しておく。
相手の索敵手段が分からない状況では、下手にセンサーを能動させたりしたら、こちらの位置を教えるようなものだ。他の手はない。
一番近い味方は当然ジェド。やつがいるはずの方向に走ってみるしかない。
少し走っただけで倒れて砂に半分埋まった甲兵服が見えた。さっきまで見えなかったが、実際の距離は、ものの30メートルくらいでしかなかったようだ。
ジェドの手をとってから、私の左掌をジェドの右掌に合わせて、互いの指が交互になるように握った。掌の指向光学通信装置を直接向かい合わせにして、ジェドの機動甲服に強引に私の個人情態を送り込む。すると、相互通信状態になった。ジェドの情態が確認できる。
バイタルは異常無し、生きてるみたいだ。さっき遠くで爆発音が聞こえ、程無くして、一面砂煙になった。恐らく、ここから風上に、いくらか離れたところで、何かあったのだろう。この砂塵は砂嵐でも無さそうだから、さっきの爆発によるものと見るのが自然だ。とすると、こいつはちゃんと起きてる。
「聞こえてる?聞こえてるんでしょ。」
「……。」
「置いてくけど?」
「薄情だなぁ。イルザ」
「それで、これからどうする?電探?」
「いつでも電探は受動状態だぜ?」
「……それで、電波なんて何も拾えないからどうするかって聞いてるんだけど。」
きっとこいつは倒れている事について、何かしらの反応がほしいんだろうけど、ただの死んだふりなのは明確だ。奇襲を受けてしまって、かつそれでも敵を確認出来ないなら、死んだふりはいい選択だといっていい。
「少なくとも、大体のこちらの位置はバレてる。」
ジェドのやつは、やっと私が、死んだふりについては無視することを理解したようで、そう答えてから更に続ける。
「イルザも何も拾えてないよな、なら俺には到底無理だ。索敵手段はイルザ偵察兵のお任せでな。」
「それなら、好きにさせてもらうわ。」
どうしようものか、何にしろ能動的手段は危険そうだ、電波をこちらから発する能動電探ではこちらの場所がバレるのは確実だ。
それなら、とりあえず隠密行動のままで、本隊がいるはずの方向に行ってみる方が安全そうだ。
「ジェド、とりあえず有線通信だけを維持しながら本隊ほうへ向かうことにするわ。」
そう言いながら、左手で、生身の体でなら左肩の肩甲骨にあたるであろうところに手をまわす。「有線通信」と呟くと、そこからケーブルが飛びだしてきた。私はそれを手にとり、ジェドに向かって投げる。左手を離したことで、ジェドとの通信が途切れた。
ジェドが、受け取ったケーブルと、同じように取り出したケーブルを繋ぎ合わせたのを見届けると、本隊がいるはずの方向へと歩きだす。一歩踏み出す間に、ジェドとの有線通信の承認が、いつもの通り表示され、承認を終えると通信が回復する。
「イルザ」
「何?」
「今だから話しておくんだが……」
「……なんだか納得できないな、俺たちは結局、何と何故戦っているんだろうな。」
「何って、自由主義がなんとか言ってる反体制勢力でしょ? 」
敵は自由主義者、私たちとは違う。正しいとか間違ってるとかは知らないが、任務に個人の主張は要らない。
「私には興味は無いわ、たとえ殺す相手のことを知っても、結局殺すだけでしょ。」
「そう割りきってしまえばいいんだろうけどな。」
「それに、私たちと同じ人間とも限らないし。」
「まぁ全く同じではないだろうな、本隊の下っ端みたいに、愚鈍で制圧されるべき存在とか言われてて、ひっくるめて管理化に置かれるべきって決まりだ。」
「私にはどうでもいいわ。生きて帰れればそれでいい。」
「ま、結局はそこには落ち着くよな。」
「分かってるならとりあえず集中して。状況はほとんど不明なんだし。少なくとも、生きてこんなとこから帰りたいことは一致してるってことでしょ。」
「わかったわかった。」
…………
それからはしばらくは何も話さなかった、ただ砂煙の中を進み続けた。砂嵐とは違って、風はさほど強くなく、移動はスムーズだ。
「そろそろ本隊が近いはず。」
もう次の砂丘を越えれば本隊がいたはずの場所だ、本隊は、索敵がここまで機能してなければ、既に後退でもしてると考えていいだろう。
警戒しつつ砂丘の向こう側を覗き込む。脳拡張によって私の視覚、聴覚は大幅に強化されている。意識を集中し、砂塵の中、隙間隙間見える景色を紡ぎ合わせ、本隊の様子を確認すると、そこにあるのは装甲車両の残骸だけで、その他の車両は見当たらない、どうやら後退したようだ。砂丘を下り、とりあえず姿勢を低くする。
「ジェド、残念だけど予想通りみたい、攻撃を受けたのはやっばり本隊の方。」
「問題はどうやって攻撃を仕掛けたかだな。その言い方だと、その手段が不明なことも予想通りか?」
「うん、私たちに見つからずにここまでできる手段は、ルートを知っての待ち伏せくらいでしょうけど。」
「おいおい、情報が漏れてるとでも言うのか?」
「他に可能性がある?直前まであの機密レベルで、しかも、ここまでの索敵部隊を動員しての奇襲作戦が、いとも簡単に先読みされたなんて、他の手はないでしょ。」
「祈りの信仰の下で裏切り者探しなんて滑稽だよな。」
「そんなことばっかり言ってると憎まれ役になるわよ。」
「俺が容疑者か?」
「そうとは言ってないし、少なくとも、私はそう思ってはいないけど。ただ……。」
「ただ?」
「ジェドは疑われる。少なくともそう思う。」
「まぁ、そうだろうな。」
なんだかんだ言って、ジェドには自覚と覚悟があるみたいだ。
とりあえず、詮索はこれくらいにして、本隊の退路たどって後退するとしよう。
「さっさと行こ、ジェド。余計な心配は後回しに……。」
「イルザ!!」
私たちのいたあたりは、砂丘の間の谷間だったが、そこが爆破で抉れ、砂地獄のように砂が流れこんでいる。
私は強化された知覚で、ジェドも思考の簡略化を可能にした補助脳による高速反射で咄嗟に回避したようだ。
しかし、有線通信ケーブルは途切れてしまったようで、通信ができなくなった。
補助脳から機動甲兵服の各装備まで、あらゆる機器を戦闘状態へと移行させる。血中の酸素濃度が高くなるせいか、感覚が研ぎ澄まされててくる。
砲撃が来た方向には、こちらの本隊のものとは明らかに異なる、中型の装甲車両が見える。さきまで砂の中に潜んでいたのだろう。奇襲が外れたことを認識したようで、6本の脚を広げ、こちらに向かってくる。脚の一番先は履帯になっており、さながら脚の生えた戦車だ、頭のように見える砲搭には、見た目からして電磁式の投擲砲と、恐らく火薬式の同軸機関銃を備えている。
ジェドが敵前に躍り出たのが見えた。砲撃を回避できる距離を保ちつつ、敵の注意を惹きつけている。
その間に距離を開け、砂丘の稜線に半身を隠しつつ、敵を射線に捉えた。
私は背中に背負っている電磁式狙撃砲を右脇の下もくぐらせる様にして胸の前あたりに持ってきてから構える。
狙撃砲を構えると、照準が表示され、私の目線を追いかける様に連動する。また、照準の補正可能範囲を示す円形の枠も表示され、砲を動かすと、それに伴ってその円も移動する。
ジェドを追いかけている敵の砲搭は、こちらには斜め前を向ける形になっている。ちょうど敵搭は真正面にくる角だけを伸ばした五角推の、頭を平らにしたような形になっていて、真正面からの攻撃を受け流しやすい様に急傾斜になっている。この形なら、斜め前から攻撃することで傾斜を打ち消し、確実に装甲を破れるはず。
引き金を引くと、極めて高速な、鉄針の様な徹甲弾が、馬面のように伸びた砲搭の、頬とでも言うべき当たりに命中し、装甲を貫いた。
内部の射撃装置を破壊したのか、一切の射撃行動をとらなくなる。
射撃を諦めたのか、ジェドに向かって6本脚の敵が突撃している。
6本ある脚のうち、後ろ4本で体格を支え、前2本を腕のように持ち上げ、ジェドに向かって振りかざす。それを、膝を曲げ、足にある姿勢制御用の補助推進装置と、背中の、腰の少し上の高さに2つある主推進装置を後ろ斜め上に向け、その全ての推力を使って一気に加速し、迫る敵の腕をすり抜け、敵の下の通り抜けていく。ジェドは、その間にも射撃を食らわしたようで、ジェドが通り抜けた後、敵機は力が抜けたように崩れた。
「……はぁ。」
まさか初実戦が、こんな孤立したものなるとは。
気付けば視界はずっと良くなっている。どうやら、戦闘しているうちに砂塵も収まったようだ。
しかしながら、結局のところは、敵がこちらの光学式の通信を分断するために、何かしらの装置か爆薬かを使って、砂を巻き上げたんだろう、という予測をする事くらいしか出来ない。そんな事態にしかならなかった。
状況を見るため、もう一度砂丘の上に頭を出してみる。
「……あれは?」
うねる砂丘の向こうに僅かな砂煙が登っているのがみえた。
再び意識を集中し、目視で確認を試みると、さっき倒した6本脚の砲搭が一瞬見えた。
少なくとも5機以上はいるだろうか、単独だとしたら強引すぎる。あんなに高速で突撃してくるってことは、明らかにこちらの場所と、多分数も把握してのことのばす。
「どうせ見つかってるなら……」
視界の端にある[センサー切り替え]から、電探を能動に設定し、パルスを発信する。受動センサーが跳ね返ってきたパルスを計測し、敵の位置と数を知らせてきた。
数は7機。私は、さらに救援要請の信号を発信し、即座に受動状態に戻した。そして、主推進装置を吹かして、一気に砂丘を下り、ジェドに向かって左手を伸ばす。ジェドもとうやら、私の意図を理解したようで、走り出して速度を近づけると、こちらに右手を伸ばしてきた。
その手を掴むと、さっさと認証を済ませて通信を繋いだ。
「急にどうした?」
「さっきの敵が7機、こっちに向かってる。」
「とりあえず逃げる他にない。」
「このまま通信も切るから、方向だけ決めておくわ。方位070に、相互援護できる距離を保って移動、いい?」
「了解、信じてるぜ、イルザ!」
手を離して散会する。
私は、拡張野要領を、さほど機動性関連には割り振っていない。
そもそも、機動甲兵養成所にいた頃から、あまり耐圧能力が高くなかった。その代わり知覚能力に長けていたから、こうして狙撃と偵察が主な訳だ。だから、こう言う状況になってしまうと、ジェドは逃げれても、私は逃げ切れないかも知れない。
機動甲兵の移動速度で、あの手の装甲者両から逃げ切るのは、少々無理がある。そもそも歩兵に装甲と、短時間飛行とは名ばかりのジャンプの延長ができるくらいで、さほど速く移動できない。長距離移動は車両の方がはるかに高速で、水素燃料の消費も少ない。機動性に特化したジェドの補助脳と、肉体強化による耐圧性をもってしても、真っ直ぐ競争して車両に勝つことはできない。まして私には不可能だ。
さらに、敵は偵察ドローンを使って追跡してきているようだ。先ほどから砂丘の尾根から、頭を出したり引っ込めたりしながら追いかけて来る。
撃ち落とそうとも思ったが、コンデンサに備蓄してある電力に余裕がない。推進装置を使ったり休めたりしてるだけで精一杯で、電磁式狙撃砲を使ったりしたら、逃げられなくなるのは明確だ。なら打ち落として追跡を振り切るには、もはや戦う他ない。
「逃げるのも終わりかな……。」
覚悟するしかない。コンデンサの残量はもうあまりないが、うまく隠れて時間を稼げればまた蓄電できる。まだ水素の残量はある。多少の無駄遣いにはなるが、なんとかなるかもしれない。
ジェド、あんたに選ばせてあげるわ。
どんな知識を与えられても、人には選ぶ力がある。
記憶を継ぐか、継がすまいと抗うか。 私はあんたがどちらを選んでも、決して心残りは無い。
あんたがあんたの答えを選べばそれでいい。
だから、私も私の答えを選ぶ。最後になるかもしれないなら、お互いを人間として証明しよう。だから、人間に与えられた、選択と責任という権利を、今ここに示す。
声に出すこともなく、ただそう心に念じた。
言葉に出すと、なんでも認識されてしまうなら、私の秘められた部分、プライベートというある種の自由は、言葉にしない部分にあるのだから。
私は推進装置の水蒸気噴射機能を有効にした。
さらに水素循環動力を最大出力にし、電力を確保する。
ごちゃごちゃ警告が出てきたが、さっさと了承し、いつもの認証を済ます。簡単に言えば、水素を大幅に失うってことを警告してきていることは、言われなくてもわかってる。
敵からは直接見えないであろう位置で急停止しつつ、電磁式狙撃砲の弾種を榴弾に切り替え、近接信管機能を有効にした。
追跡のために、ドローンが砂丘の影から顔を出してきた。
そこに素早く撃ち込むと、一瞬にしてドローンのいた場所に到達した砲弾が、空中で炸裂し、逃げようとするドローンを、飛び散る破片によって穴だらけにする。
直ぐに次弾を徹甲弾にし、少し位置を変えてから攻撃の準備に入った。まず、砂丘の頭だけ出すようにして半身を隠しつつ、敵がたてている砂埃から、どこから敵が来るかを推測する。
「はぁ……。」
意識を集中し、電磁式狙撃砲を構える。補正範囲を示す円と照準点が表示される。
7機の敵のうち2機が並走している。狙うならあの2機のどちらかを狙うのがいいだろうか。
胴体部分は装甲もありそうで、また、球体を前後に引き延ばし、上下に潰したような流線型をしていて正面からでは弾かれそうだ。
脚も6本あるなら1つ無くとも何ともなさそうだ。
とすると、これはもはや1つしか手はないか……
砲搭の下の方ならいけるかもしれない。
「すぅ… はぁ………」
大袈裟に深呼吸をし、脈を抑える。冷静に、一撃で。狙撃は最初の一撃こそが重要だ。
これが、ジェドが前に言っていたことか。神だの加護だの言っても、結局は、あるいは良くも悪くも、守られているのは精神的な人間性の証明。肉体的な命など、戦場では保証しようもない。
引き金を引いた。
放たれた砲弾が、敵の砲搭下部の球形した装甲に弾かれ、胴体の主装甲に対して、垂直に近い角度で命中したようだ。私の狙い通り、敵胴体に深刻な損傷を与え、一撃で敵をスクラップに変えた。さらに並走していたもう1機もまた、残骸を避けようと急停止しようとしたようだが、間に合わず躓き前向きに転倒した。
「流石に2機撃破とはいかないか……。」
少し期待はしたが、転んだくらいでは少しの時間稼ぎ程度だ。
そもそも多脚型っていう構造は、地形踏破性能を重視した構造だから、転倒程度の地形接触で壊れていては使い物にはならない。
発見されたら移動するのは鉄則だ、すぐさま砂丘の影に入り、狙撃場所を変える必要がある。
「!」
走り出した直後に、私が元いた場所に、少し前、ジェドと共に遭遇した最初の爆発の、数倍はある爆発が起きた。比較的損傷は少ないようだが、音探装置の一部が少々狂ったようだ。
少なくとも5機以上は撃てる訳だからこれくらいは当然だ。次は、転んだやつも立て直して来るだろうからもっと激しいものになるはずだ。
次弾は、榴弾を装填しておく。まだドローンがいるようだ。さっき撃墜した以上、予備機を何機か出して来るだろう。
この状況で生きて帰る唯一の方法は、相手の索敵能力を奪っていくことだ。さっき救援要請は出したから、運良く動ける味方が居れば助かるかもしれないし、隠密性ならこちらが上なら各個撃破で勝てる可能性もある。
電探は電波だから、地形やらに影響されて、正確な位置まではわからない場合が多い。実際のところ、敵が7機以上の可能性もあるわけだ。そのときは諦めるしかないのだけれど。
「最悪だ……。」
誰とも通信も繋いでないし、生身の声でもないから、声をだしてるつもりでも、敵に聞こえたりしない。そもそも実際に声が出ていたりもしない。それなのに何故か言葉を発してしまうのは苛立ちのせいなのかよく分からない。ただ分かることは、その苛立ちを敵に向けて砲弾撃撃ち込めることだけだ。どうせ撃つ他ない。
推進装置を駆使して生身では出来ないような大股で走る最中、少し全身捻りつつ、強めに砂を蹴る。すると、私の体は、空中で調度いいほどに後ろ向きになる。
そのまま素早く敵ドローンに向けて近接信管榴弾を撃ち込んだ。
反動でもう半周体を捻って、両足と左腕の外側の補助推進装置を使って姿勢を整える、ドローンを補助カメラで見ると、こちらの射線に入らぬように隠れようと動きを変えるが、正確な動体センサーを備えた近接信管榴弾から、放射線状に広がる金属片の群れを凌ぐほどの装甲はなく、ただ機体のあちこちを貫かれて、バランスを崩して墜落していくのが見えた。
着地後は直ぐに方向を変え、さらに直ぐに移動する。撃っては逃げる、ただそれを繰り返すことになるだろう。
「‼‼」
山なりに飛んできた砲弾が垂直に近い角度で落下してくるのが見えた。大体の着弾位置を予測するが、適度にバラけてくる3発に対する回避は、もはや着弾点から離れ、体を丸くして衝撃に備えることしかない。
目の前に見えているのは自らの腕のように感じられるが、どう見ても機械にしか見えない腕と、抱えている電磁式狙撃砲。それらで最も重要な頭を庇いつつ3回の衝撃を凌ごうと試みたが、もはやどうなっているのか、いやどうなったのか分からない。ただ、痛いとは感じていないのに痛いような、喪失感のようなものが、たったの一瞬だけ私の感覚を埋めた。
「はぁ…… はぁ……。」
気付けば視界は真っ暗だ。
[視界機能低下:主視界複合センサー使用不能][肉眼視界モード切り替え]と警告のフキだしが並んでいるのだけが見える。どうやらセンサーが機能を失ったようだ。
肉眼に切り替えるしかないようだ、認証を済ませると、視界は1度、完全な暗闇になり、それから肉眼での景色、ただ暗く、警告やらがわめくスクリーンが見えてきた。これでは意味がないから、ヘルメットの前を開ける。
顔に当たってくる砂粒の感じ、生の風の感覚だ、戦場で感じたのははじめてだ。不思議と悪くはない。
上から砂が降ってきている。さっきの砲撃によって巻き上げられた砂だ。生の肌で感じると気持ち良くて綺麗だが、この偶発的に私を隠している目眩ましは直ぐに消える。今は動くしかない。
「もしかして……。」
さっきの砲撃は3発だけだった。連続で撃ってきてもいない。味方がいるのかもしれない。ジェドが私と一瞬に足掻く方を選んだのかも知れない。
「ちっ!」
またドローンだ、1回撃ち込ませてから反撃した方がいいか悩むところだ。どうしてもこちらから撃つと反動制御コンデンサの貯蓄量的な問題で隙になる。
「‼‼」
近づく砲弾を直前で見つけたが速すぎてどうなったかわからなかった。直射で撃ち込んで来たようだが、敵ドローンは見当たらない。
どうやら、味方が敵ドローン、あるいは多脚車両を撃ったのだ。しかし、ジェドなら狙撃砲を使えないから、別の誰かだろうか。
「あの装備はジェドとは違う、なら誰だ?」
砂丘を越えた先で、私のものより大きそうな狙撃砲を構えている機動甲兵は、左手を少し上げ、"こちらに来い"という合図を送ってきたのだった。
読んで頂いた方、ありがとうございます。
忙しくなるかもしれないので、更新は未定ですが、1ヵ月に1、2回出す目安で書こうと思います。