奴
よろしくお願いします
「合格」
そう言われた。目の前の何かに。俺は死んだはずなのに。
ここが何処で、目の前の存在が何なのか一切分からない状況の中で、嫌に冷静な俺の心は死ぬ前の喚き散らしていた自分とは打って変わって起伏がない。
見渡してもないのに、空間全てが白一色であることが分かっていたし、目の前のモヤモヤとした何かが喋りかけてきたことにも驚きはなく、ただただ今の状況を受け入れていた。
「君は、ここでは随分と若く見えるね。大概の人間は外見に引っ張られて、ここでも年相応の見た目になるんだけどね。それだけ、自分をしっかり持てるなんて驚きだよ。寿命で死んだ人間とは思えないね。寿命で死んじゃった人間は基本的に選んだりしないんだけど、君は面白かったから合格だよ。あそこまで生にしがみつく様は、見ていて楽しかったからね。」
そこまで一息に言うと、何かは首を傾げながら聞いてくる。
「ちゃんと話聞いてるの。」
「ああ、聞いてるさ。まだ何に選ばれたのか教えて貰ってないがね。そこんとこはどうなんだよ。あれだろ。あんたは神様とか言う奴なんだろ。」
「ご名答。よく分かったじゃないか。まぁ、僕には自分がどう見えてるか分からないけど、神様っぽく見えてるのかな。どうだい、僕は威厳たっぷりで難しく言葉使いしてるかな。豪華な椅子にふんぞり返って髭でも弄んでるかな。それとも、ガリガリに痩せ細った神々しい男性に見えるかな。」
「人形の白い靄に見える。空間だって白一色だしな。」
「あははははは、本当にそう見えるの。凄いね、君は。ここまで笑わせてくれた人間は久しぶりだよ。そうか、白い靄か。君が心底、神を信じてなかったのが良く分かるよ。」
「そうか、自分の信じている神様っぽく見えるってやつか。」
「そうそう。それか、自分の中で一番偉く感じてる人物や恐れている存在に見えるかな。想像通りの神様ってやつさ。」
「なら、俺にとって恐いものも偉く感じてる奴もいなかったって事か。お前も随分フランクな喋り口だしな。」
「本当に珍しいね君は。神様を友達だとでも思ってたのかな。それか自分が神様だとでも思ってた感じかな。」
「そうだな。否定はしないさ。それで、まだ教えて貰ってないんだがね。何に選ばれたのか。是非、楽しげな事であってほしいものだが。」
「おっと、すまない。何に選んだのかだろ。一言で言ってしまうと、第二の人生ってやつかな。どうだい。嬉しいだろ。」
「勿論、嬉しいね。やっぱり神様は友達なんじゃないかってくらいに俺にとって嬉しい事だよ。それで、生まれ変わりってやつかい。俺は自分の記憶とか無くなると嫌なんだがな。無くなっちまったら、死んだことと変わらないだろ。」
「そういうことなら、今の君のままで新たな生を送らさせてあげるよ。ただ、それだと違う世界になっちゃうけど、大丈夫かな。君なら何とかしちゃいそうだけど。」
「俺の念願ってやつは知ってるんだろ。それが叶いそうなとこにしてくれよ。それなら何処でも大丈夫だ。」
「なるほどね。そういう事なら、僕のお気に入りの世界がいくつかあるし、その一つにしようかな。君の世界で言うゲームの様な世界さ。君がいた世界は僕が最初に作ったけれど、やっぱり最初ってだけで一番好きなのさ。それに先輩世界からの訪問者だからね。少しは融通して上げるよ。」
「へぇ、ありがとよ。でも地球が一番最初の世界ってのは驚いたな。100年近く生きてた割に、実感ないんだが。」
「そうかな。5000億年くらい君たちでいうところの歴史ってやつがあるんだけどね。」
「宇宙って140億年くらい前にできたんじゃなかったか。」
「そうだよ。君たちのいるところはね。でも、宇宙なんていくつもあるものだし、全ての宇宙で言ったら君の住んでた地球があった宇宙は中堅あたりかな。とっくに消えちゃった宇宙もあるし、生まれたての宇宙なんてのもたくさんあるよ。でも、見てて一番楽しいのは地球かな。いきなりだけど、そろそろお別れみたいだね。僕は君をずっと見てるから、前回みたいに楽しませて欲しいかな。じゃあ、一つアドバイスだ。その世界にいったらステータスって唱えてみるといい。君は自分の心の形を力として受け取ることになるはずだよ。平均的な人間よりは強いステータスになると思うし、そこからどれだけ強くなるかは君しだいかな。」
それから、たわいない会話をいくつかして異世界へと送られた。
お別れって言っときながら、けっこう長い時間離してしまったよ。やっぱり、あいつは友達なんじゃないかってくらいに会話が楽しかった。漫画やアニメなんかの話までできたのには、さすがに俺も驚いたがな。日本人の俺より詳しかったぞ、あの神様はよ。
最後にだいぶ調子を崩されたが、まぁやってみるかな、第二の人生ってのをさ。
読んで下さってありがとうございます。