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悪い管理者の悩みと六連星(編集中)

公道レースという言葉があるが、昨今でそれは、夜間に峠で行われる非合法レースを指すものとなった。それはもはや趣味の領域を越え、スポンサーや客がつく本物のレースだ。

それが表に出せないのは、公道での違法走行というだけではなく、闇賭博の対象となっているからだ。とはいえ、県警のエライ連中までもがこれにハマっているのだから、笑い草だ。もっとも、積極的に彼らをハメたのはこの私なのだが。

そう、賭け事は胴元がいるし、レースには主催者がいる。この場では、私がそれを兼ねている。

「はぁ〜」

ため息と共に、ピース・インフィニティの香しい煙を吐き出した。ちらりと横を見れば、そこには私の愛車である、ZZT231前期のトヨタ・セリカが静かに佇んでいた。

いや、静かという表現は適切ではないかもしれない。ホワイトのボディに純正フルエアロ、カーボン製のボンネットはボディ同色に塗られ、ボンピンがそれを小さく主張するのみだ。社外品のエアロミラー、ノーマルのアンテナは除去済み、車高は下げられ、そこに履いている白い五本スポークのホイールは、OZクロノの本物のよりははるかに軽いレプリカだ。そこまでは普通だろう。しかし、我が愛車はそこにとどまらず、ボディ全体に、赤と緑のカストロールカラーのシートが貼られ、ラリーカーそのもののという雰囲気を醸し出している。流石に内装を剥がしてはいないが、ロールバーが張り巡らせられ、リアシートは除去、フロントの二脚はフルバケ、そしてステアリングはもちろん、MOMOのディープコーンタイプだ。ルーフの上には、ベンチレーターが乗り、これがレースカーではなくラリーカーを目指していることを示していた。

エンジンをかけなくとも賑やかな車だが、少なくとも今の私には、静かに出番を待っている様に見えた。

この車をこんな風にしたのは、他ならぬ、オーナードライバーである私だ。こんな商売をしているので、当然傘下にはチューニングショップも抱えている。そこのあらゆる物や技術やコネを使い、話題になる様な車を作ったのだ。ZZT231で架空のレプリカ車にしたのは、私がこの車を愛し、その歴史を哀れんだからだ。マーケットやボディサイズの問題もあったのだろうが、トヨタ社も、セリカの雪辱はセリカで返して欲しかったものだ。

もし、トヨタがセリカでWRCへの参戦を続け、サインツが、ランエボとマキネンの組み合わせを破っていたとしたら、セリカや、トヨタのモータースポーツ参戦の歴史は変わっていたかもしれない。

このセリカには、派手な外見以外にも抱えている業があった。それは、オーナーの名前だ。

カノ・セリカという名前。漢字はどうでもいい。問題は下の名前だ。こんな名前だからこそ、今の愛車と出会うことになったのだが、それでも、相手に舐められたら立ち行かない商売が故、愛車と名前が被っているなんて恥ずかしい話を公にすることはできなかった。ただでさえ、私が若くて背が低い女というだけでも、舐められやすい要素が詰まっている。

それで、私はこの業界で、下の名を一切名乗らないことにした。

カノ。わざと一文字目にアクセントを置くことで、周囲の連中にはそれが下の名前に聞こえているだろう。走り屋仲間で、下の名前でしか呼ばないなんてのはザラだから、あまり違和感もない。

今では私の周りので、私をセリカと呼ぶ人間はいない。変わりに、カノンと呼ばれることが多い。私の苛烈な走りや、その性格の表現に、砲という武器を求めたのだそうな。最初に名付けた奴は、231ミリ・カノンとか言っていたが、長い名前は流行らない。よって、カノンとだけ呼ばれることが、気づけば習慣になってしまっていたのだ。

今の私は、本業である悪企みに関係することで、本を開きながら、ため息と煙草の煙を吐き出していた。手にしているのは、ムック本で、世にも珍しい、三菱製のFTOというスポーツカーを取り上げたものだった。

私はレースの主催と賭けの胴元をやるだけではなく、その両方を満たすため、走り屋チームのリーダーにもなっていた。むろん、チームの奴が公道レースに出るのも毎度のことだ。

で、そのチームの中でも指折りの男が、最近、山道でFTOにブチ抜かれたのだという。

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