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八七月短編集

寿命まで生きているのがつらくなったあなたは

作者: 八七月

『拝啓 我が永遠の恩師様

お久しぶりです先生。近頃桜は散り過ぎ雨風と強い日々が続いております。

お元気でいらっしゃいますでしょうか。

私が言うのもなんですが今年に入りもう4月、ですよ時が立つのは早いものですね。

先生との出会いから早10年の月日が経っているなどにわかには信じがたい。先生とお会いした日は昨日のことのようですが、既に10年と言う短くはない月日が流れているのです。

道理で私の顔も老けてきたわけですよ、10年もたてば少しは皺の数も増えようものです。


さて今回私がこうして筆をとったのは勿論ご老体である先生が心配だから、というのもありますが実は最後のご挨拶をしようかと思いこの手紙を出させてもらっています。

あっ誤解しないでください。私は大丈夫です、今すぐに死ぬとか生きるとかそういうお話では多分ございませんので。

しかし何というか人生とは何かということを教わった先生には大変申し訳ないのですが、私の胸の心境を少しを聞いてはもらえませんでしょうか。

いいえ「だめだ」と言われても話します、だってそれだけ私には先生にこのことをお話ししたいのですから。


私と先生との出会いはいつの頃でしたか、丁度私が高校に上がったころだったでしょうか。

当時の私はやんちゃばかりで人の話を聞かない悪ガキでした。

ええ今ではあんなことを何故していたのか分からないほど幼稚で下劣な子供でしたね。

そんな私を変えてくれたのはそう先生、あなたです。

私を叱ってくれました、時には味方になって庇ってくれました。

当時の私はそれをウザったく思って、邪険にしていました。

今更ではありますがあの時は申し訳ございませんでした。


さてそれからの私は心を入れ替える、まではいきませんでしたがまあそこそこに頑張って大学へと進みそして何の変哲もない中小企業へと勤めました。

毎日毎日パソコンの前で残業も夜遅くまでやり、終電を逃すこともしばしばありました。

そして最近私は思ったのです、このまま生きていてもいいのかと。

昨今の日本は先行き不透明でとても老いることが怖いのです。

自らの体がどんどん動かなくなってついにはベッドから一歩も出れなくなってしまう夢を毎晩見るようになりました。

怖くて怖くて還暦をこえても働き続けている人はごまんといますが、私にはその自信がない。

体も大して強くない、こんな私が年老いてボケて当り散らして人様に迷惑をかけるのはとても嫌です。

ならばどうするか、その時の私ならば即死を選んだことでしょう。

しかし幸いにしてそのような事態にはならずに済みました。私には奇跡が訪れたのです。

「自分の寿命を分け与える」私にはそれが出来るようになりました。

どうせ死ぬのならと、神様が授けてくれた大きな奇跡を私は今明日のない子供たちのために費やしています。

明日死ぬ運命にあった未来ある子供たちを救う――――それは先生も同じことではないでしょうか。

私は多大なる恩義を感じていた先生とこうして肩を並べられた、それだけでとても嬉しいのです。

最後となりますが、私はこの人生はっきり言ってはずれではないかと思っていました。

平凡でありある意味残酷であり起伏の乏しい人生、張り合いのない日々は地獄と同等に感じました。

だから嬉しいのです初めて人の役に立てた、奇跡をこの手で起こしたのだととても嬉しくこうして筆をとらせてもらいました。

私の人生は後何年でしょう。相当奇跡は使ってしまったはずですのでもしかしたら1年とせず死んでしまうかもしれない。

でも心は満足しています、これも全て先生のおかげです。

先生今まで本当にありがとうございました、そしてさようなら。

敬具 あなたの教え子より』



その後教え子が亡くなったのは手紙が届いてから約一週間後、医者からもう助からないとされた見知らぬ子供の元で静かに息を引き取っていたという。



神「なんで子供たちに使ったんだろうねぇあの子。うまく使えば権力だってとれたかもしれないのに。。。馬鹿だねぇ」


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