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出会いは突然に3

 このとかげが龍・・・・・・初めて見たわ。

 そもそも龍はわが国にはいないので、その姿は本でしか見たことがなかったし。


 北方のサリューデル、中心部のバニラ、東のレイランノード、南方のオンテーム、この大陸は大きく分けて4つに分かれている。我が国オンテームと北方の強国サリューデルはこの百年ほど冷戦状態にあり、貿易、文化の断絶は途方もなく長い。最近この均衡が崩れかけているのか、国の重鎮たちによる話し合いは国民の関心を引くトップニュースとして街の人々の口に上っているようだ。

 それぞれの国には、国獣が存在する。

 自国の国獣は蒼いオオカミの姿をした『蒼狼』であり、私のローブに縫い付けてあるエンブレムはこれを示している。気性は清廉、その脚は俊敏で風のごとく駆け、その牙は岩をも一噛みで粉々にできる強靭さを持つと言われていて、王家に寄り添い、一般の国民がその姿をまみえることが出来るのは年に一度の国典のときのみである。

 対するサリューデルの国獣は『龍』だ。断絶状態のため情報は乏しいのだが、私がお師様より譲り受けた書物によると、その姿は見る者を圧倒する山のような体躯を持ち、王者の風格漂う矜持の高い獣である、と書かれてあった。


「いやいやいや。龍ってもっと立派なもんでしょう?どうみてもとかげにしか見えないんだけど。

 それとも赤ちゃんの龍ってこんなのなのかな。」

「だーかーら、とかげってまた言うなぁ!こうなったのはお前のせいなんだぞ!」

 よっぽど怒りが治まらないのか、しゃべるたびに口から小さな炎がちろちろと見え隠れしている。

 もう少し距離をとっておこう・・・・・

「私のせいってどういうことよ?」

「お前が一番無防備な時に攻撃なんてしてくるから防御ゼロだったの。絶対大丈夫と思って気ぃ抜いてた僕も悪いかもしれないけど、許しがたいよ。力ほとんど奪われて空中に散っちゃった・・・

 こんな情けない姿に変わっちゃった・・・」

 しょぼーんと尾をうなだれる姿は哀れで私はちょっと焦った。


「わっ、悪かったわよ。でもこっちも殺される前に何とかしなくちゃって思って。

 でも、そういうこと言うからには最初に出てきたときの大きいほうが本当の姿なのね?なんか頭だけ出てなくて今思えばちょっと間抜けな姿だったけど。」

「最後まで待ってないお前が悪いんだろーが!」

 だってねぇ、空中で宙ぶらりんだよ。もっと素早くさっと出てくれたりすればよかったのに、ゆっくり下りてきたから恐怖効果、倍増してましたよ。


「まぁ大きいといっても僕はまだ若い龍のせいかちょっと安定に欠ける部分はあるけどね。」

「へー、若い龍なんだ。どのくらい生きてるの?」

「えーと、だいたい150年くらい?」

・・・・・・・・龍にとっては若いんだね。龍の平均寿命はいくつなんだろ。

 国を守護できるくらいの獣なのだからさぞかし長命なんだろうなぁ。


「君も魔女というからには見た目と年は比例しないよね?人間として生きて何年目?もう50年くらいは生きているの?」

「いや、20年目。」

「・・・・・・・・・・見た目通りだね。君はまだ魔女になって日が浅いんだな。」

 私が魔女になったのは10年前のことであるので、龍から見て日が浅いと言われればまさにその通りなのだろう。私のお師様は、亡くなったとき世間的にみれば子孫がたくさんいてもおかしくない年齢であったけど、その容貌はまるで少女のようだったから。

「ええ。その通りの未熟な魔女よ。満足に魔法を使うこともできないし、薬の調合だってよく失敗するし。」

 すべてを教えてくれる前にお師匠様は旅立ってしまったので、私は自分で学ばざるをえない。




「ところでさ、・・・・・もう僕だめ。力無くなっちゃからろくに動くこともできないよ。

 食べてもいい?そうすれば少しは回復すると思うんだー。大丈夫。

 ちょっとかじるだけ、ほんのちょっとかじるだけ・・・」


「-------は?」


 私もとっくに限界を突破してそのまま眠ってしまいそうだったが一気に血の気が引いた。

 じりじりと距離を詰めてにっこり笑顔?で牙を剥きだしながら迫ってくる龍。改めて生命の危機だ。

 私にはもはや撃退できるような魔力は残っていないので逃走しか道はない。

 私は回れ右をして、涙目になりながらずりずりと這うように逃げ出したが、龍は羽を広げ飛びかかってきた。


「食べちゃだめぇええええええ!」



 死を覚悟し、頭を抱えて自身を守るようにしゃがみこむ。背中にぶつかる感触がした。


 ガツガツガツ、ガツガツガツ


 私・・・かじられてない。


「何これ?おいしーい!!すごいよ、この食べ物ーー!!」

龍に向き直ると私のリュックが荒らされていて辺りに中身が散乱している。

その中心で一心不乱に口に頬張っているのは-----------チョコレート。

 器用に長い爪に挟み込み、どんどん食べ進めていく。

 あまりの勢いに茫然とした私は、最後の一つが無くなるまで動くことはできなかった。


 そして-------------


『ぼんっ!』

 と音を立てて人が現れた。---------いや、龍が消え、人に変化したのだ。


「あ、変化できた。よかった。これ食べたらちょっと魔力復活したみたいだ。」

「・・・・・・・・・・」

「その驚いた顔、変な顔!目尻に涙浮かんでいるけど、ひょっとして自分が食べられちゃうって思ってたのかな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 にやりと口をゆがめて嗤う姿を見て思った。

 こいつは確信犯だと。


 その年のころ14,5の少年は、類まれなる麗しい美貌をもってそこに存在していた。

 



 

 

 



 

 

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