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第7話

 レイの話によると、これからセルヴィア国は宰相であったクウェイトが管理人として統治するそうだ。統治といっても本国となるガイン国から政治的干渉は受ける。

 クウェイトが今まで王の代わりに老体に鞭打ち、何とかこの国を持ち直そうとしていたことは良識ある者なら誰でも知っている。監視人としてガイン国の者が何人か入って来るが、それでもクウェイトなら皆納得するだろうという理由でクウェイトに白羽の矢が立った。

 私の仕事をしてくれるのだ。頭を下げて、よろしくお願いします。と頼むと、クウェイトは白髪頭を振り乱して私に頭を上げさせようとオロオロしていた。



「んで、セリアちゃん。君にはここでもっと休んでいて欲しかったけど、そうもいかなくなったんだ」

「?」

「セリアちゃんの事を知ったのはここに来てからだから、本来なら王族は全員殺す予定だったけど、俺の独断で君を生かした。

 君を生かした方が絶対に我が国にとって都合がいいから、誰も反対はしないと思うけどね」

「それで、セリアを救出した後、ガイン国王のもとに簡単な報告書――ああ、手紙の事だ――を飛ばした」


 レイに付け加えるようにハルも話に加わった。


「親父はもちろんOKしてくれた。

 それで、俺たちはこっちでしばらくセリアちゃんを休ませてから連れて行くと言ったんだが、せっかちな大臣どもが急かしっちゃてサ。明後日には出立するんだけど…いいかな?」

「ん。だい、じょーぶ」

「ホントごめんな。かわりに行軍中はゆ~~~~っくり進むから。な、ハルンスト」

「ああ。誰か世話を見てくれる者もつけよう」

「ありが、とう」


 ハルは軍に在籍していることも影響しているのか、私が敬語や様付けを嫌がると、最初こそ戸惑っていたものの、すぐに慣れてしまった。

 ハルとの距離が縮まったようで、嬉しくて、嬉しくて仕様がない。


 まだぎこちない笑みで笑いかけたら、ハルも少し笑ってくれた。







 今日の早朝からついにガイン王国に向けて出発する。

 16年住んだ――といっても牢屋だが――とも今日でお別れだ。再びこの地を踏むことは残りの人生でそう何度もはないだろう。


 ガイン国の兵たちは居残り組と凱旋組に分かれる。ハルとレイはもちろん凱旋組だ。

 

 まだ、一人で歩くことのできない私はハルに支えてもらいながら体に負担が掛からないように、とクッションを敷き詰められた馬車に乗り込む。

 一緒に乗るのはレイとレイの侍従が一人と、私の世話係に任命された体の線が細い青年兵士――フロウ――が一人の計4人だ。本当は女性の方が良いのだそうだが、生憎、兵の中に女性はいなかった。だからなるべく怖く見えず、体の線が細く、腕が立ち、尚且つ面倒見がよく、そして少しでも面識がある者がいいということで、私がいた牢にハルと一緒に来た者の中から選ばれた。

 そこまでして選ばれた者だったが私にはハル以外はまだ怖い。しかし、ハルは色んな指示を出さなければならず、レイの警護もしなければならないので、馬車に乗ることはない。その代わり、私の座っている側の窓から見える所で馬を進めてくれるそうだ。私は馬車のカーテンを捲れば、ハルを見ることができる。




「それでは、お気を付けて…」



 馬車に乗り込み、窓を開けると外にいたクウェイトが別れのあいさつを言った。

 

 長年、私を気に掛けてくれた老人。私の代わりに私の責務を果たそうとしてくれていた老人。私に忠誠を誓ってくれた老人。彼ともこのセルヴィア国にまた訪れない限り、もう会うことはないかもしれない。


「セルヴィア、を、たのむ、ます」

「…はい。…お任せください」


 「さようなら」という前に馬車は動き出した。フロウが危ないですから、と言って窓を閉めたそうにしている。私は急いで別れの言葉を口にしようとしたが、すんでのところで止め、違う言葉を口にした。





「いって、きま、す」





 16年、苦しくないことなんてなかった。


 楽しいという感情も、嬉しいという感情もハルに出会って初めて知った。


 帰って来なくてもいいのだ、と誰もが言うだろう。


 だが、ここは紛れもなく私の家、故郷なのだ。


 故郷にさよならなどと言う者がいるだろうか。


 私はまたいつかここの土を踏みたい。


 ―――いや、踏むのだ。必ず。





 馬たちも進みだし、土煙が舞いだした。

 土が入ってしまう、とフロウが窓を閉めた。

 声はあまり出せないし、窓が閉まりかけていたので、クウェイトには届かなかったかもしれない。それでも、「さよなら」ではなく「行ってきます」と言えたことで私は満足した。




 フロウがカーテンを閉めてしまう一瞬の隙間からクウェイトの顔が見えた。

 声は届かなかったが、唇の動きが「いってらっしゃいませ」と言っているように見えた。

 もしかしたら、私の願望が見せた幻だったのかもしれない。


 それでも

 

 私は

 

 嬉しかった。





「…わた、しは、セリア・ケイン・セルヴィア。なか、よく、しよう……クウェイト…」





 私は人生で三回目の自己紹介をした。








 ご報告です。


 他の作者様の作品で本作品と同じく「安らぎの時」というタイトルの作品を見つけました。そちらの作品の方がこちらの初投稿よりも先に投稿されておりましたので、こちらの作品のタイトルの変更をしたいと思います。

 これだ!と思い、付けたタイトルですので、良いのが浮かぶまではこのままでいこうと思いますが、近いうちに変わります。

 突然変わったら混乱するだろうと思い、ご報告させていただきました。


 「安らぎの時」の作者様は大変申し訳ありませんでした。

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