第4話
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「さて、国の代表として話しをしましょうか。分からないことがありましたら、遠慮なくお聞きください」
レイモンド様は真剣な表情で話し始めた。
「単刀直入に言いますと、あなたの国は我が国との戦争に負けました」
「?あ、の」
「はい?」
「せ、んそう?ってな、にです、か?」
レイモンド様との話し合いにさっそく分からない言葉が出てきたので、とりあえず聞いてみると、レイモンド様は硬い表情をした。
「…ハルンスト。姫の監禁はそんなに酷かったのか?」
自国と他国が戦をしていたのも知らないほどに、と言いたいのだろう。
「…監禁というより、投獄です。姫がいらしたのは地下深くの牢でした」
その言葉にレイモンド様は絶句した。
「牢!?セルヴィア国の王は自分の娘を牢獄に入れていたのか!?」
レイモンド様こちらを見て、呆れたように呟いた。
「よく、今まで生きてこられたものだ」
「…本当に」
ハルも同意し、二人でこちらを見る。…なんだか居心地が悪い。
レイモンド様はしばらく私を見て、ハッとしたように現実に戻ってきた。
「ゴホン、それでだ。弱っているあなたに言うことではないのかもしれませんが…。あなたはセルヴィア国最後の王族です」
「…え?」
「酷いようですが言います。セルヴィアの皇帝も、皇妃も、皇太子も、その他王族は全て私たちガイン国軍が殺しました。残るはあなたのみです」
父も、義母も顔も見たことのない異母弟妹も…みんな死んだ?死ぬというのは、もう会えなくなるということ。もう話せなくなるということ。それは父に恐れられることも、義母に殴られることもないということだろう。
「し?み、んな?」
「そうです。私たちを恨んでくださっても構わない。ただ、敗戦国の姫であるあなたに拒否権はないと思ってください。また、復讐しようなんて考えませんように。もしそれをなさるのなら、私たちはあなたを殺さなければならなくなる。まあ、そんなことは考えもしないかもしれませんが…」
「わた、しも?」
私も殺すの?
「はい。しかし、我々にとってあなたは利用価値があります。どうか殺させないでください」
「りよう、か、ち…」
「ええっと…。ハルンストの役に立つということです」
「ハルの?」
ハルの役に立てるの?
「ええ」
「ハル、うれしい?」
ハルが喜ぶの?
「ええ」
「わかった」
ハルに喜んでもらえる。
ただそれだけで、私には十分だった。ハルに喜んでもらえるのなら、たとえ、親族を全て殺されようとも、国を占領されようとも構わない。…一国の皇女としては失格かもしれないが、ハルがいれば、今の私には十分だった。
「おい、こら、レイモンド。勝手なこと言うな」
「勝手なこと?お前は姫に復讐を望ませたいのか?他でもないお前が皇帝の首を取ったのに?」
「そうではなく…」
「勘違いするな。たとえ、相手が16年間監禁されていた皇女様だろうと、この国に皇族は一人しかいないんだ。彼女も俺も国の代表。これは国と国との駆け引きだ」
「……」
「…ふっ、“氷狼”がなんて顔をしている」
「その名で呼ぶな」
ハルは怖い顔で、レイモンド様は楽しそうな顔で何か話している。その様子はなんだか楽しそうだ。…いいな、レイモンド様。ハルと仲がいいんだ。
「…お、はなし」
「ああ、そうだ。すいません」
羨んでいるのを押し隠すように、少し低めの声で続きを促した。
「取り敢えずは事の発端からお話ししましょう。
しばらく前からセルヴィアの王…あなたの父君はおかしくなっていたそうです。その結果、国は疲弊し、隣国である我が国に流れてくる者が多く出ました。普通に入国してくれればいいのですが、中には我が国で盗みを働く盗賊団なども出る始末。ほとほとに困って苦情など申し立てましたら、セルヴィア皇帝は怒り狂っていきなり我が国に兵を向けてきました。突然兵を差し向けられ、死人も出てしまったからには、こちらも黙ってはいられない、と戦争になったのです。そして、我々は勝ち、そちらは負けた。
簡単にはこのような感じです」
ずっと牢の中で生きてきて、常識を知らなくても分かることはある。両国に様々な思惑はあっただろうが、それでもこの話をすべて信じるなら、今回の戦はこちらが悪い、と私でも理解できる。
「せ、んそう、まける、どう、な、る?」
国民はどうなってしまうのだろう。悪いことしたから皆殺しだろうか?でも、悪いのは私たち王族や国を動かしていた者だ。国民が殺されるいわれはないはず。
「まあ、一般にはそうですね…。多額の賠償金を払っていただいたり、我が国で取れる農産物などを通常より安い価格で買っていただいたり、こちらで集めた税を数割いただいたり…まあ、そんな感じです」
よかった。殺されるわけではないのだ。それに、この人は頭が良さそうだ。ガイン国にはハルもいる。ハルが仕えている国の君主が無駄に命を取るようなまねはしないだろう。
「そして、あなたのことですが。私たちもこちらが攻めてきたから攻め返したというのでは、セルヴィア国民の反感の買いやすいのではないかと危惧していたのです。どうしようかと思案していたところにあなたの存在を知った」
「わたし?」
「そうです。セルヴィア皇帝は何の罪のない実の娘を16年もの間、城の牢に幽閉していた。我々は哀れな皇女様を救うために立ち上がったのだ、とこういう筋書きを立てるのです。それから、あなたは自分を救ってくれた国の者と恋に落ち、ガイン国籍になる予定です。…この意味が分かりますか?」
私はゆっくりと首を縦に振った。
「あなたを旗印に反乱を起こされても困りますからね」
つまりはそういうことだろう。
「ただ、ご安心ください。あなたと結婚する相手はこちらで慎重に選びますので、ガイン国での暮らしは過ごしづらいものではないと思いますよ」
…この国ならばきっと大丈夫だろう。
セルヴィア国が豊かになって力をつけ過ぎることはさせないだろうが、貧しくなることもないはずだ。きっと上手いこと舵取りをするだろう。
「わ、かりました」
「セルヴィア、こくは、ただいまを、もって、きこくの、属国と、なり、ます。」
初めての皇女としての発言は喉の使い過ぎで少し、掠れていた。
終わり方って難しい…。