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第21話

 王族の過ごし方とか、マナーとかルールとか、作者はそんなものまったく知りません。心のうちに感じる疑問や矛盾を乗り越えて(無視して)読める方のみお進みください。 どうもすみません*。:゜(´っω・*)゜・。+

「…うおっ」

「……まあ」

「………こ、これはこれはセリア姫、ようこそおいでくださいました。体調の優れない父王に代わり歓迎いたします」

「…………」

「セリア・ケイン・ゼルヴィア、です。おまねきにあずかり、光栄でございます」

「とんでもございません。…おっと、ご紹介が遅れました。こちらは私の婚約者のバスラン侯爵令嬢です」

「お初にお目にかかります、オリヴァ・ミシェル・バスランですわ。よろしくお願いいたしますわね」

「では、おかけください。今宵は無礼講とゆきましょう。セリア姫、固くならずに我がガイン国の王宮料理人の料理をお楽しみください」


 王族用の食堂には上座を空け、王太子殿下となにやら綺麗で優しそうな女の人が座っていたが、殿下の婚約者様だったようだ。王太子殿下の向かい側にはレイ、レイの隣の席が空いており、その次にはハルが座っていた。私は、何とか事前に教えてもらっていた挨拶をしたが、これでよかったようだ。殿下は無礼講と仰ったので、マナーは気にしなくても良いという事だ。殿下の配慮に感謝する。

 ハルは目を見開いて固まっていたが、慌てて立つとハルの隣の席の椅子を引いてくれた。私はそこに腰掛けるが、ハルの様子がおかしい。やはり、二色の瞳は醜いのだろうか。

 シュン、としていると、ハルはハッとした様子で慌てて言った。


「す、すまない、セリア。その、あんまり綺麗になっていたものだから…」

「目がきもちわるい?」

「そんな事はない!…きれいだよ」


 ハルはこちらを見ないで言ったのだが、言葉の感じから彼が本当にそう思っているのはなんとなく分かった。


「セリア姫、セルヴィア国ではオッド・アイは忌避の象徴とされてきたが、この国ではそんな事を気に掛ける者はほとんどいない。宮仕えの中にもオッド・アイを持つ者がいる。よろしければいずれご紹介いたしましょう」

「それは良い考えですわね殿下。セリア姫、貴方の瞳キラキラしていてとても綺麗で、羨ましいわ。何も恥じる事はありません事よ」

「オリヴァさま…」


 実はこのオリヴァ、食堂に入ってきたセリアに一目で心を奪われていた。その心の奪われ様は、後に彼女を溺愛するフリュート殿下をも脅かすものになるのだが、彼はそんな事とはつゆ知らず、友人の少ないオリヴァと、友人などいたこともなかっただろうセリアがお互いに歩み寄っているのを感じ、ただにこやかに二人の様子を眺めていた。


 オリヴァ様、きれいで、ニコニコしてて、好きだな。ハルの次に好きなクウェイトの次くらいに好きかも知れない。


 そんな事を考えつつも、食事会は和やかに進んだ。だが、それも殿下の言葉で終わりを告げた。


「…それで、セリア姫貴方の結婚相手についてお話したい」


 その言葉で、ピシッ!と何かに亀裂の入る音がした気がする。


「けっこん…」

「そう、私たちはなるべくなら貴女の望んだ者、貴女を望んだ者を添い遂げさせたいとは思っている。だが、貴女はこれまでの過酷な生活のせいで、ほとんど人との交流を持たなかった。なので、貴女にはこれからマナーや淑女の(たしな)みについて学んでいただく。もう人と会っても問題ないと私が判断したら、こちらで選抜した者と順に会っていただく。その中から貴女の結婚相手を選んでもらいたい。貴女が私の選んだ者とどんな駆け引きをするのかは干渉しない。お互いが心を決めたら、私のところへ報告に来ていただきたい。…っと、ここまで一気に離してしまったが大丈夫でしたかな」

「えっと…た、たぶん?」


 殿下の話す言葉は、難しいものが多くてよく分からない。ただ、これから私は礼儀作法を学び、何人かの男の人のなかから一人を選び、結婚相手を見つけるのだということは分かった。


「まあ、分からない事があれば私のところか…レイモンド、ハルンスト、オリヴァ誰でもいいから尋ねて欲しい。私とレイモンドは公務で忙しいかもしれないから、自然とハルンストかオリヴァのところになるとは思いますが」

「分かりました」




 私たちはどこか固い空気のまま食事会を終える事となった。オリヴァ様とレイは熱心に自分の所に相談に来るように言っていたが、ハルはどこか思いつめた表情だった。


 王族の人と別れ、私に与えられた部屋に戻るまでハルが送ろう、と言ってくれた。少しでもハルといられるのが嬉しい私は少し締まりのない顔をしてしまっていたと思う。だが、ハルは何だか厳しい顔をしていた。


 特に何かを話していたわけではないが、部屋へはあっという間についてしまった。来るときは恐ろしく苦痛だった高い靴やビラビラの服も全然気にならなかったことに、私はひそかに驚いた。


「…じゃあなセリア」


 そう言って、ハルは帰ろうとした。


 ハル!


 気がついたときには私の手がハルの服の裾を掴んでおり、ハルは帰ることができなかった。


「セリア?」


 とっさに引き止めてしまったが、何か用があったわけでもなかった私は引き止めてしまった事に私自身吃驚してしまった。


「あ…えっと、おやすみ、ハル」

「…」


 ちらりと顔を上げると、ハルは驚いたまま固まっていたが、やがてゆっくりと微笑んだ。


「…ああ、おやすみセリア」


 ちゅっ。


 そう言ってハルはグイッと私の頭を近づけると、額に唇を落とした。


「…良い夢を」


 パタン。


「…」


 扉が閉まり、ハルが行ってしまった。だが、今の私には何も考える事ができなかった。


「???」


 どこに隠れていたのか侍女たちが出てきて、ドレスを脱がせ、ビラビラしていない服を着せ、化粧を落とし、ベッドに入れた。その間、何か話しかけられたような気もするが、私の頭の中はハルでいっぱいだった。

 ハルの顔が近づいてくる様がスローモーションで再生されるのだ。ベッドに入ろうと眠れるはずもない。汗を掻き、顔が熱く、胸がキューと締まった。


 ハルのばか。眠れない。


 そうして私がやっと寝付けたのは、窓の外がほのかに明るくなってきた頃だった。









 ズルズルズル。


 自室に戻ってきた俺は部屋に入った途端、ドアを背にして座り込んでしまった。


「…何をやってるんだ俺は」


 服の裾を掴んできた小さな白い手、不安そうに見上げてくる金と銀の瞳、か細い声でおやすみと言う淡く色づいた唇…。滅茶苦茶に掻き抱いてしまいそうだった。制御の利かない体を何とか抑えて、額にキスするに止めた。

 食堂では随分と着飾っていたが、それよりも不安と期待の混じった瞳に胸が締め付けられた。


 可愛かった。


 美しかった。


 綺麗だった。


 愛おしかった。


 どうしようもできない激情が身の内を荒れ狂う。


「…馬鹿な、12も年下だぞ」


 自嘲気味に呟くが、そんな事どうでもいいと心のどこかで叫んでる自分がいることに気付いていた。

 今夜は眠れそうになかったが、明日も仕事がある。俺は酒を寝酒にして、布団へと潜り込んだ。




 その夜は夢も見ずに、深く眠り込んだ。

 目覚めたとき、激情はすっかり身の内に潜んでいて、俺は心底安堵すると共に言い知れない寂寞(せきばく)感を覚えるのだった。



















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