第20話
風呂場に連れて行かれた私は体中を擦られ、髪の毛を切られ、それから頭に良い香りのする油みたいなものを塗られた。湯船には名前は分からないが、赤い色をした花がプカプカ浮かんでいた。
一息ついて、風呂神様に感謝しながら湯船から出ると、今度は侍女のみんなにサラサラとした生地でできた服を着せられた。
「カノン」
「何でございましょう」
「これ、サラサラする」
「お気に召したましたか?とてもお似合いですよ」
「お美しゅうございますわ、ねえリリノア?」
「ええ、本当にお綺麗ですわ」
「御髪に隠れてお顔があまり見えませんでしたものね。とてもさっぱりされましたよ」
「うつくしくない、きれいじゃない」
4人は口々に私を褒め倒そうとするが、私には何故、彼女たちが見え透いた嘘を言うのかよく分からなかった。
『ほら、ご覧なさい!その汚らしい腕を!切り落としても切り落としても、また生えてくるじゃない!』
『ああ、汚らわしい!!こっちを向かないで!鼻が曲がってしまうわ!!』
『やっぱりお前は化け物ね!忌まわしい二色の瞳がその証拠だわ!』
ハルは私が化け物でも関係ないといってくれた。でも、彼は私の瞳をきちんと見たわけではない。まともに見れば、やっぱり気持ち悪いというのではないだろうか。
「大丈夫ですわ。将軍様もきっと今の皇女様の方がお好きだと思いますよ」
そう言うカノンの眉は悲しそうに少しでけよせらていた。
再び戻ってきた応接の間にハルもレイもいなかった。
「ハルは?」
「殿下と将軍様はそれぞれ身支度を整えにご自分のお部屋に戻られました」
とたんに機嫌が降下した私にチルファが慌てて言った。
「で、ですが、皇女様も今から身支度がございますよ。それが終わったら王太子殿下がごく内輪だけでお夕食を、とのことですわ」
「…ハルも?」
「ええ、将軍は此度の戦の功労者でございますから」
「分かった」
それから私はこの侍女たちにさっきせっかく着せてもらった服を剥ぎ取られ、体中を揉み解され、顔に何かを塗りたくられ、サラサラ具合は変わらないが、やたらと布の多い服を着せられた。
「カノン」
「何でございましょう」
「これ、ビラビラする」
「お気に召しませんでしたか?ですが、とてもお似合いですのでご辛抱くださいませ」
どこかデジャヴな感じのする会話をカノンと交えつつ、侍女たちは精力的に私の周りを動き回った。
「終わりましたわ」
ミルキヨが大きなため息をつきながらそう言った時には、もう何日も同じところに座っていたような気がした。
「もう、うごいてもいい?」
「はい、大丈夫ですよ」
着せられた“どれす”は動きづらかったが、サイズはぴったりだった。
凝り固まった腰を伸ばすようにして立ち上がると、さきほどのチルファとは違うため息が聞こえた。
「ほぅ、お美しゅうございますわ皇女様」
「私たちの傑作です」
「サイズが合ってよろしゅうございましたわ」
「これで将軍様もきっとイチコロ…いえ、お褒めくださいますわよ」
「ほんとう?」
「ええ、もちろんですわ」
侍女たちはニコニコしながら言った。
私はそこでふと気付いた。
疑問を正すべく、一番近くにいたリリノアに問いかけた
「リリノア?」
「はい?何でしょう」
「きもち悪くない?」
「は?」
「きもち悪くないの?」
「何がでございましょう」
「…私の目」
4人は思い出した。
そういえば、彼の隣国ではオッドアイは忌避の象徴であった、と。4人の侍女はなかなか表情を出さないこの皇女様が微かに不安の色を覗かせて問う様に心を打たれた。それぞれが、彼女を安心させるように大きく肯き、力強く言った。
「気持ち悪いなどという事は断じてありません。ご安心ください」
「皇女様はお綺麗ですよ。自身をお持ちください」
「そうですよ。姫様の瞳を気持ち悪いなどと言う輩が居りましたら、私にお申し付けくださいまし。僭越ながらコテンパンにやっつけさせていただきますわ」
「それに、皇女様の金と銀の瞳の何とお美しいこと!吸い込まれるかのようですわ」
正直、お世辞なのかもしれない、とまだ思っている。しかし、彼女たちの真っ直ぐな眼差しと力強い声音は私を微笑ませるのに十分だった。
「…ありがとう」
まだぎこちない笑顔を見せれば、彼女たちは何故か顔を赤らめた。だが、それすらもなんだか嬉しくて、私はもう少しだけ笑みを深めるのだった。
(まあ、皇女様の微笑みだわ。なんてお綺麗なのかしら)
(絵師、王宮専属絵師をすぐに呼んで!今すぐ!!)
(金銀の瞳に青銀の御髪が…もう何というか…神様!!)
(か、かっわいいーー///何!?この生き物!!??)
彼女たちの胸中もまた私は知らない。
話が全然進まないーorz




