第19話
うおー、久しぶりに投稿したー
「…あのさぁ、いいかげん離れようよ」
レイが「はあ」とため息をつきながら言った。
「俺に言われても困る」
そう、私は腰掛けに座っているハルに思いっきりしがみついていた。無理に離そうとすれば簡単にできるのだろうが、ハルはそれをしないで、私の頭を撫で続けてくれる。崖から落ちる以前のように、いや、それ以上にハルは私を甘やかしているように思えた。
化け物でもいい、そう言ってくれた。ハル優しい、大好きだ。
「あんなに拒絶されてたくせに、何を言ったら前よりラブラブになるのかね。セリアちゃ~ん、こっちおいで?」
レイが腕を広げて待ち構えている。しかし私は今、最近不足していたハル成分を摂取するのに忙しいのだ。
「…やっ」
プイッとそっぽを向いてハルに頬を擦り付けた。
「そんなに可愛く拒否されるなんて…ショックだ。若い女の子をハルンストに取られた…」
「人聞きの悪い事を言うな。セリア、そこの残念王子は無視していいぞ。それより、侍女を紹介しよう」
女の人達は“じじょ”というらしい。
ハルは、一番端にいた侍女の人に目配せした。
ハルの視線を受けた侍女さんたちは、端のほうから名乗りだした。
「それでは、僭越ながら自己紹介をいたいと思います。私はカノンでございます」
「ミルキヨと申します」
「リリノアです」
「私はチルファです」
先に名乗った順に30代、25歳、20歳、18歳だそうだ(カノンの年齢は何故かよく聞こえなかった)。また、チルファ以外は結婚をしており、カノンには6歳になる子供がいるそうだ。
「いいかセリア。この者たちはお前を傷つけない。信頼の置ける者を王太子殿下がご用意くださった者たちだ」
「…うん」
「いいか?この侍女たちは、セリアの世話をしてくれる」
「世話?」
「そうだ。服を着替えさせてくれたり、体を洗ってくれたりするんだ」
「分かった」
「よし、じゃあまずは旅の汚れを落としてもらえ」
「そうだね。セルヴィアへ連れて行った兵の中で女性なんていなかったから、セリアちゃんのそういう世話をあまりできなかったんだよね。女の子なのに、ごめんね」
レイは申し訳なさそうに謝ったが、私には彼がいったい何に謝っているのかよく分からなかった。ただ、侍女のみんなはそうではなかったようだ。4人は一斉にハルとレイを問いただした。
「レイモンド王子?世話をできなかったとはどういうことですか!?」
「まさか、セルヴィアからガインまで皇女様のお世話をしなかったというのですか!?」
「いや、それは兵に男しか…「そのような事は言い訳になりません!!」……」
「では何ですか!?行軍の間中、皇女様は体を清められてもいないという事なのですか!?」
「ち、ちがう、ちゃんと通り過ぎた村の女の人とかにやってもらってたよ」
「行軍中は野宿もあったでしょう!!その時はどうしていたのかと聞いているのです!!」
「女手が無いからといって、殿方だけ汗を流し、皇女様は放置ですか!?」
「問題ない。俺たちも水浴びなんてしていない」
「「「「…」」」」
「いや~、風呂に長時間入らないのは行軍中だったし問題なかったけど、やっぱりむさい男ばっかりだったから、臭かったんだよ。なっハル!」
「そうだな。しかし、そのおかげで体を清めていないセリアの体臭なんて気にならなかったな」
「というか、セリアちゃんの匂いって良い匂いだったよな」
「………」
何だろう。カノンたちの瞳が底なしに冷たく光っている気がする。彼女たちの心から「こいつら何?」と聞こえてくる気がする。
「これだから殿方というものは」
「いやだ、可哀相に見えてきたわ」
「頭沸いているんですかねえ」
「諦めましょう。同じ生き物ではないんですよ」
違った。心からではなかった。この人達口に出してる。すでに心から漏れ出てしまっている。そして、異常に辛辣だ。
「ささ皇女様、お体を清めましょう」
ミルキヨと名乗った侍女が手招いた。
「分かった。…ハル?」
「何だ?どうした?」
「ハル?行こ?」
なぜだろう?部屋の空気が凍りついたように感じる。
「…えっ?ま、まさか?」
「将軍様ったら、まさか…?」
「村の女の人とか言っていましたのに…まさか?」
「もしかして、すでに手を出されて…?」
「おい?ハルンスト?…おまえ」
レイと侍女たちがそれぞれハルを汚物でも見るかのような目で見据えている。
「ま、待て!誤解だ、セリアに手を出した覚えは無いぞ!?おいコラ、レイモンドお前は分かっているだろう!?その目をやめろ」
「ハル?お風呂、行こ?」
「…セリア、頼むから小首を傾げながらそんな事を言わないでくれ。いいか?年頃の女性は男と風呂には入らないんだ」
「?ハルもよごれてるから、きれいにする。どうせきれいにするなら、一緒にしたほうがはやい」
「セリアちゃん?その理論だと一緒に行軍してきた私とも一緒にお風呂に入ることになるね」
「…レイなら、いい、よ?」
「……ハルンスト、ごめんどうしよう?危ない扉を開きそうなんだけど…」
「開けきる前に俺が全力で閉じるから安心しろ。セリア、誰ならいいとかではなくて、一緒に入ってはいけないんだ。分かったな?」
「…わかった」
「いや、絶対分かってないよねセリアちゃん…」
「分かりましたわ」
突然声を上げたのは一番若いチルファだ。
「皇女様、よいですか?男女が一緒に湯を浴びてはならないのは言わば、お風呂界の暗黙のルールなのです。これを破った者にはお風呂の神、風呂神様からキツイ罰が下されてしまうのです。しかも風呂神様は女性には優しいので、この罰は殿方にしか下らないのです」
サーーー
全ての血が下に落ちていく気がした。
「じ、じゃあハルといっしょに入ったら、ハルだけ風呂神様から罰があるの?」
「左様でございます。殿下と将軍は皇女様を怖がらせないために言わずにいらっしゃったのですが、このままでは殿下と将軍に罰が受けてしまいます。それはお嫌でございましょう?」
「い、いや、です」
「では、セリア様お一人で先にお体を清めましょう、ね?」
「うん」
私はカノン、ミルキヨ、リリノアに連れられて風呂へと向かった。
「チルファ、ちなみに風呂神様の罰とはどんなものなんだい?」
「あら、殿下それは、○○○が□□□で△△△な×××になってしまうのでございますよ」
「「……」」
チルファはにこやかに笑いながらと風呂場へと向かった。
「…ハルンスト」
「…なんだ?」
「お風呂、一緒に入らなくて良かったな…」
「…そうだな」
「風呂神様…怖いな」
「………そうだな」
お風呂へ向かった後、彼らがこんな会話をしていた事を私は知らない。




