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第14話

 セリアに語らしてしまった。


 セリアは語った。


 歌うように。



 喉が治っても言葉を多く知らないセリアは滑らかにものを話せない…はずだった。中には自分自身を貶めるような言葉もあるのに、セリアは流暢に話した。


 少しの間、ボーとしていた。セリアの生きた時に思いを馳せて。セリアは語らなかったが、彼女の生きてきた16年はもっと酷かったはずだ。全ての人から愛されるべき皇族に対するこの所業は何なのだろう。セリアの受けてきた屈辱的な行為に俺は嫌悪の念さえ抱いた。それをセリアがなんともないように語るものだから、俺は不安に思った。セリアの心の内は今、どうなっている? 

 お前が悪いんじゃない、そう言ってやろうとして、俺はふと思い出した。…思い出してしまった。



 あの崖から落ちた恐怖を。



 あの崖から落ちてなお、生きているという恐怖を。



 戦場では殺されればそれで終わりだ。

 ピンッと糸を張ったような緊張に包まれる戦場で16の頃から生きてきた。死んだはずなのに生きているという事実が俺に恐怖をもたらした。

 

 セリアは庇護すべき対象として俺の中ですでに認識されてしまった。だから、セリアに対して恐怖を感じたわけではない。

 しかし、セリアはどう思っただろう。

 彼女は実の父親に憎まれ、恐れられた。牢獄での生活はまだほんの一部分しか知らないが、話しぶりからも、あのクソバ…皇妃に鞭振られた記憶よりも皇帝に恐れられていた事のほうがキツかったように思える。

 

 自分で言うのもなんだが、どう過小評価したとしてもセリアは俺のことを嫌いではないはずだ。そして、セリアは俺にも恐れられることを覚悟で今の話をしたのではないだろうか。


 それなのに俺はあいつに何と言った?

 「俺に何をした?」だと?

 ふざけんな!

 盗賊から守ってやる事も出来なかった奴が文句垂れてんじゃねえよ。

 少し前の自分を思いっきり殴りたい!


 セリアがどう思っているか不安だったが、周りも暗くなってきていたので、とにかくどこかで休もう、と言ってみたが、セリアが笑う事はなかった。

 いつまでたっても無表情なセリアの顔を見て初めて、自分がどれだけセリアの心を抉ったかを知った。


 お願いだから「ハルが好き」といつものように言って、笑ってくれ。


 随分と身勝手な願いをしている事は十分承知していた。数時間前にそう言う事を大っぴらに言うな、と言ったのは俺ではないか。それに口下手な自分では、セリアにどう話したら笑ってもらえるのかも分からない。

 戦での働きを認められ、周囲に『氷狼』の名で呼ばれようとも、ここに居る男は、女の子一人笑顔に出来ないただの役立たずだ。




 俺だって普通の人々が送るような平穏な一生を過ごしてきたわけではない。

 ただ、セリアは16にして俺の一生分も二生分も三生分も穏やかではない生涯を送ってきた。




 やっと牢獄から解放されたセリアは、幸せな人生を送らなければならない。




 その幸せな人生の邪魔をしているのは他でもない俺だった。



 俺の胸がズシリと重くなったような気がした。








 すれ違いってやつですね。

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