第12話
読みにくいかもデス…。
ある時、セルヴィア帝国に第一皇女が生まれた。
しかし、皇女誕生の報を国民に知らせる間もなく皇女を生んだ皇妃は帰らぬ人となってしまった。
皇妃を愛していた皇帝は深く嘆いた。
皇帝は皇妃の命を奪った皇女を憎もうとした。
だが、彼女と己の愛の結晶である皇女を愛した。
数日後、皇女には異能が備わっていたことが明らかになった。
皇女に愛と敬意をもって接する者は体の不調を訴えなくなったのだ。
逆に、皇女に負の感情を持って接する者は次々と倒れてしまった。
さらに、ようやく瞼を開けた皇女の瞳は銀と金で、二色の瞳を持つ者であることが分かった。
セルヴィアでは幸運を呼ぶ金の瞳はともかく、銀の瞳と二色の瞳は忌まわしきものとされてきた。
一部の皇女の力と瞳の事を知った城の使用人たちは、
銀の瞳を『死』、金の瞳を『生』とし、
彼女の事を畏れをもってこう呼んだ。
“死と生の女神”と。
皇女の異能を知った皇帝の心は乱れた。
なぜ、
なぜ、
そのような力があるのならなぜ、
皇妃を死なせたのか、
皇妃を蘇らせてはくれないのだ。
彼女を殺したのはお前なのに。
皇帝は心中で激しく皇女を責めた。
皇女を愛そうと決めたことなど忘れ果て。
そこにあるのは愛しい妻を奪われた男の例えようもない怒りだけだった。
皇帝は国一番の暗殺者をよび、命じた。
「皇女を殺せ」と。
国一番の者を選んだのは、僅か数日でも愛した娘への情けだったのだろう。
せめて、苦しむ事のないように。
暗殺者を送り込んでから数時間後、皇帝は皇女の部屋へと向かった。
仕事が完了したら報告に来るはずの暗殺者が未だ戻らぬのだ。
言いようのない不安を感じた皇帝は、足を速めた。
この前まで何とも思わなかった扉がやけに重々しい。
何を不安がる事があろうか。
扉の先にあるのは、小さな娘の骸ではないか。
皇帝は扉を開き、中へ入った。
しかし、そこに皇帝が想像していたものはなかった。
代わりに部屋の床には人の形をした砂の塊が一つだけ。
暗殺者はその砂と同じくらいの丈であったと思うのは皇帝の思い違いだろうか。
部屋の中央に位置する揺り籠に皇帝が近付こうとした時、
皇帝の右腕が水分を吸い取られるようにボロボロと崩れ落ちた。
皇帝は恐怖のあまり小さく悲鳴を上げた。
その声で悲鳴を上げた人物が皇帝であると気がついたのか、
砂となる勢いが衰えた。
逆に、今度は皇帝の失われたはずの腕が猛スピードで再生しだすではないか。
皇帝の脳裏に“死と生の女神”という言葉が蘇った。
この腕は一度死に、そして蘇ったのだ。
皇帝は揺り籠の中を恐る恐る覗いた。
そこには泣くでもなく、笑うでもなく、ただ皇帝を見つめる金と銀の瞳があった。
このとき、既に皇帝は狂ってしまっていたのだろう。
皇帝は生まれて間もない皇女を
代々終身刑の大罪人を繋いでおくための地下牢に放り込んだ。
相手は死と生の女神だ。
人を遣って殺そうとしようものならば、返り討ちに遭ってしまうだろう。
国民はこの子供の存在を知らない。
関わった使用人は殺せばいい。
生まれて間もない赤子だ。
放っておけば勝手に餓死するだろう。
しかし、二日経っても、三日経っても、一か月経っても皇女は死ななかった。
皇帝は恐ろしくなった。
皇帝はあらゆる方法で皇女を殺そうとした。
囚人に命じ、皇女を熱湯につけさせた。
腹を裂かせた。
首を落とさせた。
されど、皇女が死ぬことはなかった。
否、皇女は何度も死んだ。
そして何度も蘇るのだ。
皇女は死と生を繰り返した。
何年も、何年も皇帝は皇女を殺した。
しかし、皇女は何度も蘇り、皇女を殺した囚人はことごとく死んだ。
皇帝は皇女を殺すことを諦めた。
代わりに日に一度だけ食事を与え、地下の牢獄で皇女を飼うことにしたのだ。
皇女はひどい悪環境の中でも死なずにしぶとく生きた。
だが、皇女の異能は最低限の力しか与えなかった。
皇女の体はほとんど成長しなかったし、牢獄を抜け出すだけの力を与えなかった。
皇女は死ぬ事も、逃げる事も出来ずに地下の牢獄につながれる事になったのだ。
そうして、皇女は国民にその存在を知られる事もなく、
実父からは憎まれ、恐れられ。
城の地下深くに生きた。
ただただ生きた。
誰に知られる事もなく。
ただただ無意味に…。




