厄災の箱
パンッ!
乾いた音が響く。例えば手を叩いた音。例えば昔チラシで作った紙鉄砲の音。
ただ、聴いたことがあるようでいて聴いたことが無いような違和感が付きまとう。それは実際に聴いたことがあるかどうかの問題では無く、視覚と聴覚で、認識に差があるから。
分かりやすく言えば、見たものと聴いたものが、ズレている。
見たもの。銅鑼を叩くところ。
聴いたもの。拍手みたいな音。
地味すぎて笑えない。
「はぁ?」
俺も、部長も、紀子も、同じ反応だ。
「え? いや……え?」
俺が戸惑っている間に、部長がバチを奪い取る。そして先ほどの俺と同じ動きを、すなわち銅鑼をバチで叩こうとする。
そして結果も、先ほどと同じ。
パンッ!
なんだこれ。
「なによこれ?」
何故か、紀子が俺に尋ねてくる。俺が知るか。
「え~~~?」
部長がなおも納得がいかないような表情で、バチを振り上げる。
大きく。先ほどよりも、強く。
パンッ!!
しかし、音質は変わらない。
「なんだぁ? 物理的におかしいだろ」
確かに。結局のところ、金属製の薄い板だ。叩けば振動が伝わり増幅され、空気中に発散されて音が鳴るはずだ。
ジャワーン、と。聞き慣れた音で。
部長が無表情で、何度も叩く。
パンッ、パンッ、パパンッ。
本当に拍手のように聞こえる。
……パンッと鳴る銅鑼?
「あ~」
「ん? 何よ」
僕の声に、紀子が反応する。
「あ、いや、何でも無い」
「何よ。何か分かったの?」
反応するな。やめろ。
後ろで部長がドラを叩き続けている。パパンッ。
「何でも無いって」
「気になるじゃない、教えなさいよ」
こうなると、女子はしつこい。
部長が徐々に楽しそうになってきた。パパパンッ。
「何でも無いって。忘れろよ」
「良いじゃない。何か思い付いたんでしょ?」
やめろ。やめてくれ。
「良いから! 本当に大した事じゃ無いから……!」
「あ~もう、イラついてるんだからさっさと言いなさい! 殴るわよ?」
明らかに、銅鑼からの混乱を発散したがっている。ただの八つ当たりじゃないか。
ついに部長が、リズムを付け出した。パパッパパッパッパンッ。
「いや、でも……うっ!」
振り上げられた腕にビクッとしてしまった。
「わ、分かったよ……ただ単に、“パンッて鳴る銅鑼”だから、パンドラかなぁって」
パパパンッ、パパパンッ、パパパンッ、ジャワ~ン。
「!?」
鳴った!
「鳴った!!」
「鳴ったぞ!!」
「駄洒落かよ!!」
最後に残るのは希望、とかなんとか。