⑥ 微風
閉じている瞳から、柔らかな日差しが感じられる。
紗雪はゆっくりと瞳を開けた。
窓にかかっている、薄いカーテンがさわやかな風に揺らいでいる。
窓から差し込む眩しすぎない日差しが紗雪を通して部屋に降り注いでいた。
紗雪は体を起こし、ベッドから下りた。
さわやかな風が入ってくる窓から外を覗き込む。
鮮やかな緑が目に飛び込んできた。
花壇には色とりどりの綺麗な花が植えられている。
紗雪の視線がその前にしゃがみ込んでいる人間に注がれる。
真っ白なパンツにシャツを身に着けている男。
紗雪にはそれが誰なのかすぐに分かった。
「お……?」
お父さん……
そう呼ぼうとした紗雪の喉からは声が出ることはなかった。
何度も何度も喉が痛くなるまで声を出そうとするが、その声帯は震えてはくれなかった。
紗雪の父が立ち上がる。
そして、ゆっくりと振り向き、紗雪を見上げる。
その顔は穏やかに微笑んでいた。
「お父さん!!」
自分の声に目が覚めた。
紗雪の目から一筋の涙が零れ落ちた。
紗雪は零れ落ちた涙をそのままに、辺りを見渡した。
その時、初めてその場が自分の家だということに気が付く。
扉が開く。
「どうして……」
紗雪の視線の先には志人が立っていた。
志人はその質問には答えず……
「気が付いたんだね」
志人は紗雪に微笑みかける。
「私……どうして……? いつ家に……?」
「お母さんが心配してるよ……今呼んでくるからね」
志人は今入ってきたばかりの扉から出て行った。
「……お母さん……?」
紗雪、三夜子、那美がコノ字型に置いてあるソファに腰かけていた。
志人は大きな窓にもたれかかり、外を見ていた。
三人の視線は机の上の白い封筒に注がれていた。
しばらく流れていた沈黙を破ったのは以外にも三夜子だった。
「この中にはお父さんも気持ちが詰まってた。紗雪、読んで……あなたはこれを読まなくちゃ……」
その声は弱弱しくも聞こえたが、はっきりとした意思を紗雪に伝えていた。
紗雪はその言葉を待っていたかのように、恐る恐る封筒に手を伸ばした。
ゆっくりと白い封筒を開ける。
中からはやはり白い便箋が数枚出てきた。
紗雪はそれを手に取ったまま、三夜子に視線を移す。
三夜子は声と同様、弱弱しくも見える笑顔を紗雪に向けた。
紗雪の細い指が折りたたまれていた便箋をゆっくりと開いていった。
いかがだったでしょうか。
今回は完全に話の途中ですね……
感想いただけたら嬉しいです。