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霊華  作者: 雲雀-tyongdari-
能力
3/10

③ 証

 夜、まばゆい街の明かりの中にそびえ立つ、いくつものビル。

 街の明かりの届かない、その高層ビルの間を飛ぶように二つの影が移動している。

 

 二つの影が一つの高層ビルの屋上に舞い降りた。

 ……と思った瞬間、二つの影はいずこかへ消えていた……







 キィ……

 扉のきしむ音に、机に向かっていた女性が顔を上げる。

「誰?」

 開いた扉からは誰も入ってこない。

 不思議さと、少しの不気味さを覚えつつ、女性は席を立って扉を閉めに行く。

 その時、女性は一度、廊下に顔を出し、人がいないか確認する……が、そこには誰もいない。

 扉を閉め、小さなため息を漏らす。

 後ろを振り向きながら、顔を上げる。

「ヒッ!!」

 女性がおびえた声を上げる。

 女性の視線の先には、いるはずのない人影があった。

 無意識に扉の取っ手に手をかけ、その場から逃げよとする……が、扉は開かない。

 女性は恐怖に駆られながら、何度も何度も扉の取っ手をまわしたり、とびらを引いたり、押したりを繰り返す。

 鍵がかかっていない扉は、どうやっても開かなかった……

 女性は小さく震えながら恐る恐る窓のほうに振り返る。

「あなた、この姿を知ってるよね?」

 黒い影の一つが女性に問う。

「俺たちはあんたに危害を加えるつもりはない」

 その言葉に、女性は視線をつま先から頭の天辺へと動かす。

 女性の視線が胸元で止まった。

「……その石は……」

 真っ黒な影かと思われた二人の胸元には、幾何学的な装飾を施された銀の石がつけられていた。

「そう……この石は〝銀の支族〟である証。あなたの旦那さんも同じものを持っていましたよね? その石、今はどこにありますか?」

 女性は身を震わせる。

「私は何も知りません。あの人は数年前に亡くなりました……私はそんなもの知りません……」

 そういった声は少し震えていた。

「……そうですか……では質問を変えます。あなたにはその人との間に産まれた娘さんがいますね? その娘さんは人とは違う、不思議な力、ありますよね?」

 ……不思議な力……

 この言葉を聞いた女性の態度が一変する。

 それまでは、怯えながらも会話が成り立っていた。しかし……

 女性が突然落ち着きなくその場を動き回る。

「……おい、なんか様子が変だぞ」

「……何も知らないわ。あの子に不思議な力なんて……私が産んだ子じゃないわ……あんな力を持ってるなんて……私の子は……普通だもの……違うわ……私は何も知らないわ……あの人はどこ? あの人は……? 宝物……私たちの宝物……違う……あの人にとっての宝物……私にとっては……?」

 女性が意味不明の言葉を呟き続ける。

 そんな女性の肩を影が掴む。

 その拍子に、かぶっていたマントのフードが取れた……

 出てきたのは那美だった。もちろん、もう一人は志人である。

「私たちはっ! 私たちは娘さんを保護しに来たの! そして、あなたもよ」

 女性の呟きがピタリと止まる。

「娘を保護……? 私も……?」

 言葉を繰り返し、女性は理解しようとする……困惑した表情を浮かべる……一転……

「何を言ってるの! 私の娘よ! 私は娘を手放す気はありません! あの子は普通の子です! 保護するなんて……私の娘です……私とあの人の宝物……あの子は普通の子よ……普通の子なの……」

 語尾がどんどん小さくなり、最後のほうは嗚咽交じりの声になっていた。

 女性は崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。

 那美が女性のそばに立膝をつく。

「大丈夫、落ち着いて、安心して……私たちはあなたの味方よ」

 志人の胸元の石が小さく輝いた。

 女性が嗚咽をもらしながら那美を見上げる。

「何があったのか、ゆっくりでいいから私たちに話して……ね……」

 女性は小さく頷いた。








「ただいま」

「お帰りなさい。お疲れ様でしたね」

 着ている黒いフード付きマントを脱いで、小百合に渡す。

 小百合はそれを受け取り、腕にかける。

「今、温かいお茶を入れますから」

 そう言って、パタパタとスリッパを鳴らしながら、台所に向かった。

「はぁ~……」

 大きなため息をつきながら、志人がソファに腰を下ろす。

 その横に那美も静かに座った。

 二人の間に流れる、沈黙。

 どのくらいそうしていたのか、いつの間にか小百合が置いていった温かいお茶は、冷たくなっていた。

 志人がおもむろにそのお茶を一気に飲み干した。

「やっぱり……だったな」

 志人が沈黙を破る。

 那美が小さく頷く。

「自分の子供にあんなこと、させるなんて……あの子がどれだけ傷ついて、悩んだか……ううん、今だって苦しんでる……母親も……自分の子を恐れて避けているなんて……紗雪ちゃんはあんなにお母さんを求めてるのに……」

 那美の視線が小さな水晶に向く。

 その水晶には泣き疲れて眠ってしまった、紗雪が映し出されていた……






 いかがだったでしょうか?

 今回は少し〝銀の支族〟関係のお話も入れてみました。


 これから、〝銀の支族〟について、少しずつ書いていきたいと思ってます。

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