② 紗雪の友人
次の日、先生に待ち伏せされ、那美と志人は早速昨日の続きのお説教へと突入した。
それは一時間目が始まる直前まで続いた……
「はぁ……朝からなんかドッと疲れが……」
「やめてよ……じじくさいこと言わないでよ。私達今、元気はつらつ中学生だよっ!」
志人のジトッとした視線が那美にまとわりつく。
「……元気はつらつって……」
那美はちょっと恥ずかしそうに志人から視線を外す。
「……まっ、ともかくあの先生は意外と根に持つタイプのようだね……これから気を付けよう。中学生活もしっかりと……」
「……俺は普通に仕事がしたいよ……」
二人の間にはちょっとした悲壮感が漂っていた……
またまたお昼休み。
午前中の間、那美と志人は紗雪から目を離すことはなかったが、さすがに昼食くらいは静かに食べたいと、恒例になるであろう、屋上を陣取っていた。
―― 二人で同じクラスに転校生が入るというのは珍しいこと。
それに加えて、その二人が知り合いで、とっても仲がいいとくれば……年頃のクラスメートは興味津々で話しかけてくる。しばらくは我慢してた二人だったが、さすがに休み時間ごととなると、嫌気がさしてもおかしくない状況である。二人は外見はどうあれ、年頃ではないのだから ――
「見て、志人。またあの子だよ。やっぱり友達なのかな?」
那美は小さな水晶を志人の目の前に差し出す。
「昨日休んでた子だろ。友達がいたんだな……」
サラリと失礼なことを言う。
ちょっと冷たい目で志人を見る。
「……でも紗雪ちゃん、ちょっと困ってない?」
「ん……困ってるにもいろんな種類があるだろう。これはたぶん、どう接していいか分からないって顔だな。今までこうやって接してくれる人、いなかったんじゃないか……」
「そうだね……」
「那美、あまり深入りするなよ……能力者にはどうしても同情的になるからな……」
志人に向かって、少し寂しそうな笑みを向ける那美。
「分かってるつもりなんだけど……」
しばらく二人の間に沈黙が流れる。
那美と志人が何かを感じて、屋上の入り口に目を向けた。
鈍い音とともに扉が開いた。
そこから現れたのは、紗雪とそのお友達であろう子だった。
そのお友達は二人を見つけると、ニッコリと笑いかけてきた。
二人もつられて笑みを返す。
「探したよ~。
初めまして。
私、木村 瑛梨香って言います。
君たち、ずっとみんなに囲まれてたから、今まで機会がなかったんだよね。
昨日は体調が悪くて、学校を休んでたんだけど、その間に転校生が来たって聞いたから、挨拶をと思って探してたの」
ニコニコした顔で、那美と志人にそう告げる。
「……初めまして。私は鈴守 那美といいます……」
「……俺は柊 志人……」
二人は突然のことと、瑛梨香の人懐っこさに少し圧倒されながら自己紹介を終えた。
同じく、自己紹介を終えた瑛梨香は二人のそばに腰を下ろす。
紗雪はしばらく躊躇していたが、瑛梨香がせかすので、しぶしぶ瑛梨香の横に控えめに腰を下ろした。
那美と志人は顔を見合わせ、目で会話。
(今から何が始まるの……?)
(俺に分かるわけないだろ……)
瑛梨香はニコニコした表情を崩さない。
「どうして、二人一緒に転校してきたの? 親戚でもなんでもないんでしょう?」
那美と志人が休み時間中にさんざん聞かれて、うんざりしていた質問をズバリ聞いてきた。
那美と志人は笑うしかない。
那美と志人の組織はこういう潜入捜査や、人を守る仕事を主に生業としてるため、色んなところにつてがあり、顔が利くのである。
今回のことも組織の上層部がうまいこと手をまわして、二人仲良く同じ時期に同じクラスの転校と相成ったのだ。
だが、二人にしてみれば、こういう厄介な質問をされるくらいなら、多少不便でも、別々クラスのほうが楽だった……なんて思っていたり、いなかったり……である。
「私たちにも分からないよ。こういうこともたまにあるんじゃない?」
「ふぅ~ん」
瑛梨香は何か面白くなさそうに返事をした。
「まあ、私はそんな細かいこと気にしないわ。これからよろしくね……あ、そうだ!」
瑛梨香が紗雪のほうを向く。
「この子、沢村 紗雪っていうの……昨日自己紹介した?」
紗雪は首を横に振る。
「この子、見ての通り、内気でなかなか人と打ち解けようとしないの。でも、なんかあなたたちとならうまくやっていけそうな気がするわ」
瑛梨香は初めに見せた、極上の笑みを顔に浮かべて、屋上から去って行った。
それを追うように、紗雪も一礼をして、小走りで瑛梨香の後をついて行った。
それを見届けてから、二人は会話を始める。
「なんか、変わってるね……瑛梨香ちゃんって」
志人はコックリと首を縦に振る。
「紗雪もあの強引さに押されてる感じだな……まあ、あの子にはあのくらいの子がそばにいたほうがいいのかもしれないけど……」
「……知ってるのかしら……瑛梨香ちゃんは紗雪ちゃんの能力云々」
「どうかな。知ってればいくらあの子だってあんな態度はとらないと思うぞ。何しろ、感情で力が左右されるらしいからなぁ~」
那美が軽いため息をつく。
「やっぱり、はっきりさせないとこれからの行動が決められないわ」
「そうだなぁ……とりあえず、これから一か月様子を見てからでも遅くないんじゃないか?」
「そうねぇ~」
那美はそういいながら、真っ青に晴れ渡った空を仰いだ……
紗雪の友人
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