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霊華  作者: 雲雀-tyongdari-
能力
10/10

⑩ 三対三


「あの……」

 舗装もされていない田舎道を歩いている三人。

 紗雪が口を開く。

「疲れた? 少し休憩しようか」

 紗雪が何かを言いかけたが、その言葉が声となって出ることはなかった。

 那美がお茶を配る。

 そのお茶を志人が一気に飲み干す。

 紗雪は少し口をつけただけで、しばらくコップの中をジッと覗き込んでいた。

 〝霊華〟

 とは一体何なのか、

 〝銀の氏族〟

 と呼ばれる人たちはどういう存在なのか……

 紗雪はあの戦いを見てから、ずっと考えていた。

 そして、手が武器になることも……

 しかし、紗雪はそのことを那美や志人に聞くことが出来ないでいた。

 聞いても良いのか……

 紗雪は迷っていた。

「紗雪ちゃん、今は何も聞かないで」

 紗雪は反射的に頭を上げる。

 紗雪の目に入り込んできたのは那美と志人の少し困った笑顔だった。

「ごめんね。村につけばゆっくり説明してあげられるから、今は私たちを信じて、一緒に来てくれる?」

 那美はゆっくりと紗雪に向かって話す。

 紗雪は言葉にはしないでただ頷いた。

 二人の表情を見ていた紗雪には何も聞くことは出来なかった。

 紗雪が頷いた後、二人は少し悲しげで切ない表情を浮かべたから……




 三人は足早に林の中を歩いていた。

 少しでも早く村に着くこと。

 村につけばすべてから紗雪を〝霊華〟を守ることが出来る。

 那美と志人は前後左右に常に気を張っていた。

 この林は襲撃に適している。

 いつどんな風に襲ってくるか分からない敵に、油断はできない。

 と、先を歩いていた那美が歩みを止めた。

 紗雪は不思議に思って那美を見る。

 那美の表情は険しかった。

「志人、やっぱりいる……今回は三人。そのうち二人は〝銀の氏族〟だ」

 声のトーンを落とし、背中に紗雪を押しやる。

「らしいな……紗雪ちゃん、那美から離れるなよ」

 紗雪がコクリと頷いたのを確認して、志人は二人に背を向けた。

 紗雪は那美と志人に挟まれるようになる。

 辺りに張りつめた緊張感が漂う。

 紗雪は自分でも気が付かないうちに背が縮こまり、息も浅くなっていった。

 音もなく、那美のほうから航が現れる。

 そして、志人のほうからは瑛梨香、その後ろには川村都美枝が現れた。

 その姿を見て、紗雪は一瞬息が止まった。

「瑛梨香ちゃん……先生も……?」

 紗雪の口からは無意識に言葉が発せられた。

「こんなところまで来るなんて……私と一緒に帰りましょう。沢村さん」

 都美枝はニッコリと優しげに笑いかける。

「お前も紫吹の仲間だったのか……」

 志人の表情は険しさを増していた。

 都美枝は顔に笑顔を張り付けたまま、志人に向かう。

「私は紫吹さんの仲間ではありますが、沢村さんの担任でもあります。生徒が道を踏み外そうとしているのを黙って見過ごすわけにはいきませんから」

 都美枝はゆっくりと紗雪に向かい、歩き出した。

 

「……せん……せ……」

 紗雪は都美枝から目を離すことが出来なかった。

 都美枝はゆっくりゆっくり確実に紗雪に近づいて来る。

 急に紗雪の目の前が真っ暗になった。

 紗雪の前に志人が立ちはだかる。

「志人君、あなた、私の邪魔をするの?」

「紗雪ちゃんは渡さない。もちろん二つの〝霊華〟も」

「志人君……」

「大丈夫、紗雪ちゃんは俺たちがきっと守るから」

 志人は振り返り、優しい声を紗雪にかけた。

「しょうがない子ね。志人君、まずあなたからね……黒桜発動」

 都美枝は小さなため息とともに、力を発動させた。

 都美枝の手はあっという間に先ほど見た航の手と同じように武器に変化していた。

 違うのは武器の形状。

 都美枝の武器は鞭。

 黒い鞭が都美枝の手の部分から、地面に向かい新体操のリボンがたまるように、真下に円を描いて落ちた。

 都美枝はその鞭を振るった。

 ヒュンという鋭く空気を引き裂く音とともに、鞭が柔らかくしなり、志人に向かって走る。

「危ないっ!!」

 紗雪が叫び、目を瞑った。

 鞭が何かにぶつかった音が辺り一面に鳴り響いた。

 紗雪が恐る恐る目を開けた。

志人の目の前で、止まっている都美枝の鞭が見えた。

「夜叉丸発動」

 志人の手が大剣に変わっていく。

 その剣を勢いよく鞭に向かって振り下ろした。

 剣が触れるか触れないかギリギリのところで、鞭は都美枝の足もとへ戻る。

 その動きはまるで鞭自体が意思を持った生き物のようにも見えた。

「それがうわさに聞く大剣〝夜叉丸〟なのね」

 都美枝の声が上ずる。

 志人は都美枝に向かって剣を振りかざした。

 その剣を都美枝はフワッとバク天をしながらよける。

 それと同時に鞭を振り下ろした。

 志人はその鞭を剣で受け止め、跳ね返す。

 都美枝が空中から地面に降り立ち、少し後ずさった。

「なんて重いの。夜叉丸は力の剣。普通の剣と違い、ただ触れるだけでは切れることはない。夜叉丸に必要なのは重力。その重みを使ってものを切る。それが夜叉丸」

「……紫吹から聞いたのか……あいつは仲間になんでも話すんだな」

 都美枝はニッコリと笑う。

「紫吹さんは私たちを大切に思ってくれています。だから私たちが不利にならないようにそちらの情報を隠すようなことはしないわ。私たちは紫吹さんに共感して集まったのだから」

 都美枝が再び鞭を振るい始めた。

 空気を切り裂きながら何度も何度も志人に襲いかかる。

 志人もそれを夜叉丸で受け止め跳ね返し、壊そうと試みていた。

 しかし、都美枝の志人に対する攻撃はやむどころか回数を重ねるごとに威力を増していった。

 紗雪はその戦いをまともに見てられず、目をそむけた。

 紗雪を背に那美は航と対峙している。

「都美枝お姉ちゃん、張り切ってるなぁ~ 久しぶりの実戦だからね」

那美は航に鋭い視線を送る。

「お姉ちゃん、また会ったね……そんな睨まないでよ」

「何度来ても同じ。〝霊華〟と紗雪ちゃんは絶対に渡さない」

 力強い声。

 紗雪はその声を聞いて、少し安心していた。

 力強いその声は紗雪の心の中に暖かい光となって浸透していった。

「修羅丸発動」

「黒姫発動」

 二人が同時に武器を構える。

 漆黒の武器。

「お姉ちゃん、行くよ」

 航が那美にブーメラン刀を振り下ろした。

 高い音を辺りに響かせて那美が受け止める。

 二人同時に後ろに飛びのく。

 そして、すぐに地面を蹴り、刀を振り下ろす。

 一進一退の攻防が続いているように紗雪には見える。

 しかし、那美も志人も本気は出していない。

 相手の力に合わせ戦っていた。

 相手もそれが分かるのか、決着をつけることが出来ず苛立ちを見せていた。

 突然、紗雪の耳に笑い声が聞こえた。

 紗雪は反射的に辺りを見回した。

「あの二人は駄目ね~、遊ばれてるじゃない。せっかく紫吹さんに力をもらってもあれじゃぁね~」

 聞こえてきたのは瑛梨香の楽しそうな声。

 瑛梨香が四人の戦いを見ながら、ゆっくりと木の陰から姿を現した。

「瑛梨香ちゃん……」

「久しぶり……っていっても二日くらいだっけ?」

 コロコロと笑う。

「ねぇ、紗雪ちゃん、私たちも遊ばない? 見てるだけじゃ退屈だもの」

 紗雪は首を横に振る。

「あら、どうして? 私とは一緒に遊びたくないの?」

 瑛梨香は不思議そうに首をかしげる。

 しかし、それは本気で言っているとは思えないしぐさだった。

「……瑛梨香ちゃん……やめよう? こんなこと……」

 瑛梨香の視線は四人の方向を向いたまま、無邪気な笑顔を張り付けている。

「私は……初めて自分であの人たちについて行こうと思ったの。今まで出会った人とは違う……あの人たちなら私は信じることが出来ると思ったの……瑛梨香ちゃんも私と同じだよね? 一緒に……」

「一緒にしないでっ!!」

 紗雪の言葉を遮り、瑛梨香が大声で叫んだ。

「一緒にしないでくれる? 今まで甘えきった生活を送っていたあんたと一緒にされたくないわ」

 瑛梨香の顔から笑顔が消えた。

「瑛梨香ちゃ……」

「ねぇ、紗雪ちゃん。私のこと何か知ってるの? 私がこれまでどんな風に生きてきたか知ってるの? 私がどんな気持ちでヌクヌクと親の元で暮らしていたあんたを見てきたか知ってる? 何も知らないわよね。自分が一番不幸だって顔して生きてきたんだもの、ねぇ、紗雪ちゃん」

 言葉の最後に瑛梨香はそれまで向けたことのない憎しみに満ちた笑顔を紗雪に向けた。

 紗雪の背中に冷たいものが走る。

 いつの間にか瑛梨香の手には漆黒の短剣が握られていた。

 瑛梨香はそれを見せびらかすかのように、顔の傍へ持ってくると、刃の部分を指で愛おしそうに撫でる。

「あなたも持ってるでしょう。一緒に遊ぼうよ」

 紗雪は再度首を横に振った。

「私は瑛梨香ちゃんと戦いたくないっ!」

「何言ってるの? 紗雪ちゃん、教室で私にしたこと忘れたの? あなた私に向かって短剣を振り下ろしたじゃない。今更何を言ってるの? あれの続き、やりましょう?」

 紗雪は何も言えなくなってしまった。

 錯乱気味だったとはいえ、あの時確かに瑛梨香に向かって短剣を振り下ろした。

 幸い、那美が止めてくれたが……

「あれはっ!!」

「いいじゃない。どんな理由でも。私はあなたと戦いたいの。遊びたいの」

 瑛梨香が紗雪に向かい、ゆっくりと歩きだす。

 紗雪は同じだけ、後ずさっていく。

「逃げないでよ、紗雪ちゃん。私たち、友達じゃない」

 瑛梨香の無邪気な笑顔に、紗雪は恐怖を覚える。

 少しも崩れないその笑顔。

 無邪気なはずの笑顔に、冷たささえ感じる。

 後ずさっていた紗雪の背中を木が遮った。

「あら残念、行き止まり。それ以上は下がれないわね」

 瑛梨香の歩みは止まらない。

 それどころか、速さを増していた。

「短剣は出さないの?」

 紗雪は瑛梨香をじっと見つめたまま、何も話さなかった。

「ふうん。そう。仕方ないわね。紫吹さんには無傷でとは言われてないから」

 ニッコリ笑う瑛梨香。

「なんかムカつく」

 瑛梨香が紗雪に向かって短剣を振り上げた。

 紗雪は何もせず、自分に振り下ろされる短剣をただ見つめていた。

 紗雪にはその動作がコマ送りのようにゆっくりと見えた。










 いかがでしょうか?

 今回、以前に出てきた先生をやっと登場させることができました。


 感想などいただけると、嬉しいです(^^)




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