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霊華  作者: 雲雀-tyongdari-
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第1章 銀の支族  ①転校初日

 綺麗な大きい満月の夜。

 真っ暗な地上に、明るい光が届く夜。


 ……昔から満月の夜には何かが起こる……


 腰まで届いている長い髪。

 それが満月の光を浴びて、艶やかに風になびいている。

 閉じていた瞳がゆっくりと開く。

 その瞳は満月の光を受けて、銀色に輝いている。

 胸元の手には満月の光を反射して、

 キラキラ輝く、漆黒の短刀がしっかりと握られていた……







「あっ、それ、も~らいっ!」

 那美(なみ)志人(ゆきと)のお弁当から卵巻を奪う。

「あ゛~!! 俺の大好きな卵巻がぁ~~」

 志人ががっくり肩を落とす。

 奪った卵巻を美味しそうに頬張りながら、

「卵巻くらいで……大人気ないなぁ~~」

 その言葉に志人がキッと那美を睨む。

「そっくりそのまま、そのセリフ返す……」

「今は中学生だも~ん」

 そう言ってベッと舌を出さす。


 今はお昼休み。

 那美と志人は学校の屋上にいた。


「そうなんだよなぁ~~何が悲しくて今頃中学生……成長が遅くなったとはいえ、さすがにちょっと無理があるだろ……」

「しょうがないでしょ、仕事だもん……それに中学生ができるなんてそれこそ最後だよ……たぶん……楽しまなきゃ、損、損」

 ニッと那美が笑う。

「まっ、そうかもなぁ~~」

 志人は立ち上がって、雲ひとつない真っ青な空に向かって伸びをした。

「おっ!」

 立ち上がった志人が下を見ている。

「どうしたの?」

「ターゲットがいる……村沢(さわむら) 紗雪(さゆき)だっけ……」

 那美が立ち上がり、志人の視線を追っていく。

 大きな木の木陰で一人、お弁当を食べている女子生徒……村沢 紗雪がいた。

「……一人だね……」

「あの子、午前中もずっと一人だったな……自分で避けているのか、避けられているのか……」

「……たぶん、両方だろうね……」

 しばらく二人は紗雪を観察していた。

 お弁当を食べ終わった紗雪が制服のスカートのポケットから何かを取り出す。

「わぉ……」

「なんであれ(・・)持ってるの? そんな情報聞いてる?」

 志人は首をブンブン横に振る。

「簡単に終わる仕事だと思ったけど、ちょっと厄介なことになりそうだな……あれ(・・)の出どころも気になる……」

 那美が頷きながら、自分のカバンをまさぐる。

「これ、持ってきて良かった……」

 そういった那美の手のひらにのっていたのは、小さいまん丸の水晶玉だった。

「あっ……それ……取ってきたのか……?」

「人聞きの悪いっ! ちょっと借りてきただけっ」

「今頃……ばあちゃん、ご立腹だぞ……」

 志人がニヤリと笑う。

「まあ、しばらくこれで様子を見ましょう。何が起こるかわからないから、気は抜けないし……」

「そうだな……あんなことは一度で十分だ……」

 二人は視線を合わせ、悲しそうに笑った……







「どうして呼ばれたかわかるよね?」

 担任の先生……川村(かわむら) 都美枝(とみえ)

 見た感じ受ける印象は、少し頼りなさそうな、優しいだけの空気を身にまとった女性だ。

「すみません。ついつい寝てしまって……」

 結局あれからずっと水晶玉越しに紗雪を見ていて、授業をさぼってしまった……

 それの理由が……寝てしまった……二人で考えた結果、これしか理由が思いつかなかった……

「あのねぇ、分かっているとは思うけど、お昼休みはお昼寝の時間じゃないのよ。予鈴も鳴ったし、始まりのチャイムも鳴ったでしょう? それも聞こえなかったの? あなたたち、転校初日でこんなことでは困るわ……お家には今回は連絡しませんけど、でもね……」

 止むことを知らないお説教が延々続く……

 ……一時間ほどたっても口をつぐむ気配はなかった。

 先生の口からはとめどなく、お説教という言葉があふれ出てくる。

 那美は先生に気づかれないように、小さなため息をつき、視線を窓の外へやった。

 大勢の生徒たちが部活に励んでいる。

(……元気だなぁ……あら、あれは……)

 那美が志人を肘でつつき、窓の外へ視線をやるように促す。

「あなたたち、きちんと聞いてるの?」

「先生! 続きは明日聞きます!」

『失礼します!』

 二人の声が綺麗に重なる。

 二人は先生の返事を聞く間もなく、一目散に外へ駈け出した。

 先生は……

 あっという間の出来事に、口を開けてポカンとしているだけだった……




「さっきの言葉撤回するわ。中学生やるのも辛いねぇ……」

「全くだ……」

 二人はどうでもいい話をしながら、歩いていた。

 ただその視線は紗雪から外れることはなかった。

「それにしてもあの子、本当に力があると思う?」

「そうだなぁ……今日はずっと一人でいたし、今だってみんな避けて通ってる。何かあったから、こういうことになってるんだと思うけど……あれ(・・)も持ってたし……」

「そうね……それにしても最近組織の情報収集能力、落ちてない? 今回に至っては、能力があるかも分からないときたもんだ……」

「そうだな……確かに最近ちょっとひどいよな……情報はあるけど、正確には掴んでない……というより掴みにくくなってるのかも……」

「あっ……そういうことか……」

 二人の間にしばらく沈黙が流れる。

「最近あちらさんも急に力をつけてきたみたいだし……」

「今は表立ったことはしてないみたいだけど……あの子の持ってるあれ(・・)あちらさんからの送りものだとしたら……」

「……いよいよ、本格的に動き出したってこと? そうだとしたら、あいつが最後に言った言葉が気になるわね」

「……組織は常に一体ではない……」

 二人の間にまた沈黙が流れる……

 紗雪が家の中に入っていく。

「今は仕事に集中しよう。その話はこの仕事が終わってからだ」

 那美が頷く。

「……それにしても立派な家ね……」

 洋風の可愛らし外観。周りの家よりも大きな敷地に紗雪の家は建っていた。

「……とりあえず、続きは帰って水晶玉にお願いしよう」

「そうね……」

 二人は踵を返して、元来た道を歩き出した……







 ソファに居心地が悪そうに座っている、那美と志人。

 ソファの前、机の横に座っている女性。

 手のひらに顔を埋めて、声を上げて泣いている……

小百合(さゆり)さん、そんなに泣かなくても……」

 小百合の泣き声に耐えきれなくなって、志人が口を開く。

「そうだよ、私たち仕事で潜入してるだけなんだし、授業は大切じゃないでしょ……そもそも中学生じゃないんだし……」

 那美の言葉に、小百合が顔を上げる。

 カッと見開いた目が怖い……

 先生のお説教をあんな形で中断したのがよほど頭に来たのか、小百合に授業をさぼったことの連絡が入っていた。

 そして、小百合のお説教が始まる……

「お二人とも! 何を言ってるんですか! 仕事とはいえ、中学生は中学生。潜入してるというなら、完璧になさってください! 学校の先生から連絡をいただいたときは恥ずかしいやら情けないやらで……もう、三十になったというのにと思うとますます情けなくて……」

 小百合はまた手のひらに顔を埋め、大声で泣き出した。

 那美と志人は顔を見合わせて、小百合に気づかれないように小さなため息をついた。




 いかがでしたでしょうか?

 初めての連載です。

 拙いところも多々あると思いますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。



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