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鹿がいると、わかるね

これは、普通の話です。

ただ、その「普通」は、少しだけ違います。

「おはよう」


ただ淡々とした挨拶。


「……あぁ。おはよう」


鹿は少し間を置いて返す。


昨日のことが頭に残っていて、声が重い。


「どうしたの? 寝不足?」


「……いや。別に」


「そっか。じゃあ寝不足じゃないんだ」


「……まあ」


席に座って、筆箱を開けようとして――止まる。


「鹿いないと、鹿の普通がわかんないからね」


当たり前みたいに言う。


「……は?」


「ん? あ、ペン忘れた」


「またかよ」


「うん。昨日は弁当で、今日はペン。明日は何かな」


「忘れ物の予告すんな」


「予告じゃないよ。予感」


「……どっちでもいいだろ」


悠は鹿のペンを借りながら、


特に気にした様子もなくノートを開く。





バスケットボールが飛び交う体育館。


鹿は周りに合わせて動きながら、


悠がちゃんとついてきてるか横目で確認していた。


その瞬間だった。


バンッ!


ボールが勢いよく悠の顔面に直撃した。


「……あ」


先生が慌てて駆け寄る。


「大丈夫か!?」


悠は口元を押さえたまま、


少しだけ眉を寄せている。


「……」


床に“コトン”と白いものが落ちた。


先生がそれを見て固まる。



「……歯!?」

 


悠は落ちた歯を見つめ、


まるで“消しゴムを落とした”くらいの軽さで言った。


「大丈夫ですよ……子供の頃も抜けてたんで……」


「それ乳歯だよ!それは永久歯!」


悠はきょとんとした顔で鹿を見る。


「……えいきゅうし?」


「そうだよ!もう生えてこねえやつ!」


「そっか……じゃあ、なくなっちゃったね」


「“なくなっちゃったね”じゃねえよ!」


悠は口元を押さえながら、


ぽつりと呟く。


「……これ、痛いってやつ?」


「…は?」


「そっか……じゃあ、痛いんだね」


悠は自分の感覚を確認するように、


ゆっくりと頷いた。


鹿はタオルを掴んで悠に押しつける。


「ほら、これで押さえろ!」


「押さえるって……どれくらい?」


「痛いくらい!」


「……痛いの基準がまだよくわかんない」


「もういい、俺がやる!」


鹿は悠の手をそっと押さえ、


代わりにタオルを強めに当てた。


悠は鹿を見上げて、笑った


「鹿がいると、わかるね」


鹿は言葉を失った。


「……保健室行くぞ」


「……歩けるか」


「うん、多分」





悠はベッドに座り、


タオルを口元に当てたまま、ぽつりと言った。


「……ほれたこるどうしよう」


鹿は眉をひそめる。


「……あ?なんて?」


悠はタオルを少しずらして、


にこっと笑った。


「汚れちゃったけど大丈夫?」


タオルには赤い水がじわりと広がっていた。


心臓が跳ねる。


鼓動が一気に速くなる。


喉の奥が熱くなる。


呼吸が浅くなる。


悠が首を傾げる。


「……鹿?」


「いいから……気にするな……」


悠は不思議そうに鹿を見つめる。


「鹿、顔赤いよ?」


「……うるさい。黙ってろ」


「なんで?」


「……いいから」


鹿は悠から視線を逸らす。


ぽつりと。


「鹿、怒ってる?」


「怒ってねぇよ……」





悠はタオルを押さえたまま、

ぽつりと呟いた。


「これくっつく?」


「しらねぇよ」


「怒ってるじゃん」


「怒ってねぇよ!」


「じゃあいいや」


悠はタオルを見つめながら、

少しだけ不安そうに言った。


「これ、帰れるのかな?」


鹿は肩をすくめる。


「まぁ……お前がそう言うならそうじゃねぇのか?」


悠はゆっくり頷いた。


「そっか……じゃあ、一緒に早退してね」


「なんでだよ」


「一人だと暇」


「……」


「……お前なぁ……」


悠は鹿の顔をじっと見て、

少しだけ笑った。


「鹿がいると、暇しないから」


「……勝手にしろよ」


「うん。鹿も勝手にしていいよ」


「……そういう意味じゃねぇよ」


悠はタオルを押さえたまま、

また首を傾げる。


「じゃあ、どういう意味?」



初めての投稿です。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


pixivでも投稿しているので、よければそちらも見ていただけると嬉しいです。

https://www.pixiv.net/users/119907085

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