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"普通"

初投稿ですよろしくお願いします

朝、教室の空気はいつも通りだった。

笑い声も、机の音も、全部ちょうどいい。

俺はそれに合わせて、同じくらいの温度で笑う。


――浮かないように。


「今日さ、朝事故っててさ…道すっごい混んでて焦った…遅刻するかと思った…」


クラスメイトが愚痴る。

俺は相槌を打つ。


「お前、日数やばいもんな」


「おはよう」


隣の席から声がした。


猫羅 悠。

特に目立つわけでもない、ただのクラスメイト。


「さっきの事故、見た?」


「いや、見てないけど」


「そっか。じゃあよかった」


「見てたら、ちょっと嫌な気分になると思うから」


「あ」


「どうした?」


「弁当忘れた…」


「また?」


悠は苦笑いして、肩をすくめた。


「うん。気づいたら家に置いてきてた」


「気づいたらって……お前、昨日もだろ」


「昨日は気づいたら財布がなかった」


「それはもっとやばいだろ」


「でもなんとかなったよ。鹿がパンくれたし」


「……あれは余ってただけだ」


本当は、余ってなんかいなかった。

俺が食わなかっただけだ。

肉の匂いが強くて、無理だった。


悠は机に頬を乗せて、のんびり笑う。


「鹿って優しいよなあ」


「別に普通だろ」


「普通っていいよね」


「どういうときにそう言うのか、わかるし」


そう言う悠の声は、どこかふわふわしている。


俺は柘榴の入った袋を机に置いた。

今日も三つ。


これがないと、落ち着かない。

余計なことを、考えなくて済む。



悠がそれを見て、目を丸くする。


「今日も?それなんなの?」


「……あーざくろ…」


「へえ、そういう状態でも売ってるんだ」


「意外とすっぱい」


「へえ。俺、柘榴ってあんまり食べたことないな」


「……美味くないよ」


「なんで食べてるの?」


「……うーん…美味しいから?」


悠は首を傾げる。

その仕草が妙に無防備で、俺は視線を逸らした。


飢えとは違う。

でも、似ている気もする。


それでも――


「鹿、今日も一緒に帰ろうね」


悠が笑うと、

そのざわつきが、少しだけ静まる。

理由は、よくわからないまま。


「……ああ。いいよ」




昼休み。

結局、弁当は鞄の底にあった。


柘榴の粒を噛み潰す。

甘さと渋さが喉を通るたび――


向かいで悠が、のんびり

箸を動かしているというより……“遊ばせている”に近い。


「鹿は食べるのが早いね」


「悠が遅いんだよ」


「そんな早く歯を動かせない。できない」


「……歯?」


「うん。歯をこう、シャッシャッって動かすやつ」


「それ、噛むって言うんだよ」


「あ、そっか…」


悠は本気で驚いた顔をした。

わざとじゃない。


「ていうか、お前まだ半分も食ってないじゃん」


「だって、食べ物って逃げないし」


「……いや、逃げないけど」


「だから急がなくていいでしょ?」


「普通はもうちょい早く食うんだよ」


悠は笑った。

その笑顔は柔らかいのに、空っぽみたいに見える。


「悠、お前さ……」


「ん?」


「……やっぱ…なんでもない」


言いかけて、飲み込む。

口に出すと、何かが崩れそうで。


悠は、また箸を動かし始める。


さっきより、少しだけ遅く。



夕方の風が、少し冷たい。

俺たちの影が、長く伸びている。


「鹿、授業中寝てたね」


「国語は眠い。子守唄じゃん」


「なんで子守唄って書くんだろうね」


「子の夢を守る歌だからだろ」


「歌で守れるの?」


「……まあ、多分」


悠は歩きながら、首をかしげる。

その仕草が妙に子どもっぽい。


「夢って守られるものなの?」


「守られるだろ。悪夢とかあるし」


「悪夢は悪い夢でしょ?」


「まあ、そうだけど」


「じゃあ、悪夢は守られないの?」


「……知らねえよ」


悠は「ふーん」と納得したようなしないような声を出す。


噛み合わない。

どこか、少しだけ変だ。


でも不思議と、嫌じゃない。


「鹿はさ、夢見る?」


「見るけど」


「どんな?」


「……普通のやつ」


「普通ってどんなやつ?」


「……普通は普通だろ」


悠は

よくわかってなさそうに笑った


「鹿の普通って、鹿だけの普通だよね」


「当たり前だろ」


「でも、俺の普通とは違うよ」


「そりゃそうだ」


「でも、鹿の普通は好きだよ」


「……なんだよそれ」


悠はまた笑う。

またざわつく笑顔


「鹿、今日も柘榴買うの?」


「……ああ」


「じゃあ一緒に行く」


「お前、柘榴食わねえだろ」


「食べないけど着いてく」


「……変なやつ」


「鹿も変だよ」


「俺は普通だって」


「うん。鹿は鹿の普通だね」


悠はそう言って、前を歩く。


夕陽に照らされている。

影だけが、少し先に進んでいた。


「鹿、危ない」


そんなに緊迫してない、

ゆるい声だった。


なのに、袖を引っ張られた力だけは妙に強い。


次の瞬間、

風が顔の横を荒く通り抜けた。


かすめていく。

ほんの少しでも遅れていたら――


ブレーキ音が響き、

トラックはそのまま電柱にぶつかって止まった。


俺は、しばらく動けなかった。


「……鹿、大丈夫?」


息も乱れていない。

ただ、転びそうになったのを支えるみたいに。


「……お前、なんで気づいた」


「ん? なんとなく」


「なんとなくって……」


「鹿、よくぼーっと歩くから。危ないよ」


悠は袖を離して、にこっと笑う。


その笑顔は、

さっきの出来事と、繋がらない。


心臓だけが、まだ落ち着かない。


「……悠、お前……」


言いかけて、言葉が止まる。


悠の目が、夕陽を反射して赤く見えた。


それが、一瞬だけ――


でも悠は、いつも通りの声で言う。


「鹿、柘榴買いに行くんでしょ? 行こ」


「……ああ」


歩き出す悠の背中は軽い。

さっきの危機をまるで気にしていない。


胸の奥のざわつきを、必死に抑える。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

初めてのなろう投稿です。


pixivでも作品を投稿しています。

よければそちらも覗いていただけると嬉しいです。

https://www.pixiv.net/users/119907085




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