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北の山地




「……はぁ しんど。なんで こんな山道 えっちら おっちら歩かなアカンねん……」


「仕事だからに決まってんでしょ? 今回は ちゃんと経費別にして残りを5:4:3って最初に決めたんだしキッチリ払うわよッ。ぶつくさ言ってないで キリキリ歩きなさいよッ」



 王都から 徒歩で3日。

 王領の北辺の護りとなるマーガル山地の街道を行く水碧髪(アクア・マリン)の薬師一行。

 

 先頭は 硬革の各所を金属片で強化した全身鎧に身を固めたアリシア。

 背中には 紋章無しの騎士盾と実戦的な片手半剣を背負っている。

 

 中央には 荷運び用のヤクを左手で引いたマリノア。

 綿製のスカート付き作業着の上から白い軟革の胸当てを着込み 例によって肩掛け鞄2つをたすき掛けにし 大きな背負い袋。

 そして右手には 糸杉(シプレ)製の長杖。


 最後尾は 愛用の細身の長太刀(切り裂き小町)を背負った紅瑠石(ガーネット)

 暗褐色の硬革と軟革を巧みに組み合わせた全身鎧で身を包み 不満気な表情を浮かべ 頭の後ろで両手を組んだ姿勢で ブツブツと不平を呟いている。



「……いや (カネ)のハナシやのーてさ。なんで歩いてんの?ってハナシ。これでもウチさ 闇ギルド(うちの組)でゆーたら 客分とは言え 大幹部やで? アリシアかて 王国の親衛騎士様やん? 馬乗れる身分や思うねんけど? なぁ アリシア?」


「ハァ? 馬なんて乗ったら お金 掛かんでしょーが。馬の借り賃に エサ代も掛かんのよ? それにこっから 馬の入れない山道に入んの。アタシ達が山ん中にいる間 誰が 馬の番すんのよ? お金 稼ぎたかったら 歩いて野宿して移動すんのが 一番安上がりなの。アンタ達が荷物背負うの嫌だってゆーから 妥協して ヤク借りてんのよ? 出血大サービスなんだから 文句言わずに歩きなさいよねッ」



 苦笑いを浮かべる艶橙髪(カッパー・ブロンド)の女騎士に代わり返答に割り込んで 闇エルフを(なじ)る薬師。

 一行の現在地は街道沿いとはいえ 樹木も疎らになり ゴツゴツとした岩肌が周囲の景観を作っている。

 王都ウェスティリアと王国第三の都市ハイリシアを繋ぐ街道とはいえ 標高の高いこの辺りは石畳の舗装は無く 踏み固められた土の上り坂が続く。

 

 もう少し進んだところの峠を越え街道を下るとユーイット勲爵士領。

 そこから2日で レギャン候領との境。

 更に2日の行程で 候都ハイリシアへと街道は続いていく。



「なぁ アリシアかて 馬乗って 宿屋 泊まりたいやんなぁ?」


「確かに鎧を着てのテント泊は辛いが 軍営の気分が味わえるのは 悪くはない。変に身分が上がると どうしても こういう経験が少なくなってしまうからな」


「……本気(マジ)かいな」


紅瑠石(ガーネット)の言う通り柔らかなベッドが 恋しいとは思う。早めに依頼を片付けて 王都に戻るとしようじゃないか」


「そーそー。暖かいベッドが待ってるわよ。キリキリ働きなさいね」


「へいへい。わかった わかった。で 何したら ええんやっけ?」



 不貞腐れた様子で 街道に転がる小石を蹴っ飛ばしながら白銀髪(プラチナ・ブロンド)の魔法剣士が尋ねる。



「今回の狙いは2つ。1つ目は コウト山の登山道に生えてるコウト百合の花の蜜を集めること。この蜜を精製すると ちょっと特別な変身薬の原材料になんのよ」


「胸 大きくするのは諦めたん?」


「ほっといても 大っきくなるわよッ。それに あの薬の素材になるジャイン牝蠣は 夏から秋が身が肥えるの。採りに行くなら その時期ね。今は コウト百合」


()こう売れんの?」


「まーね。やんごとなき御身分の方からの依頼だしね」



 〈碧猫屋〉には 市井の人々 ちょっとした注文から 騎士団のような大口の顧客 そして 上流階級からの内密の案件など 様々な依頼が舞い込んでくる。

 


「もう1つ目標(ターゲット)は 何だ?」


「それが 厄介なんだけど コウト百合の生息地ってゆーのが 岩猩々(ロックバブーン)の縄張りと重なってるのよね」



 岩猩々(ロックバブーン)というのは マーガル山地に生息する大型の牙猿の仲間。

 縄張り意識が強く テリトリーに不用意に侵入すると数十頭の群れからの無数の投石を受け 為す術なく命を落とすこともあるという。



「数十頭の群れだろう? 私と紅瑠石(ガーネット)の腕なら 全て倒すことも 不可能ではないだろうが……」


「ウチは (カネ)さえ ()ろてくれるなら 命 奪うことに躊躇(ちゅうちょ)ないけど……アリシアは なぁ?」


「そうだな。獣とはいえ 民草に被害を与えた訳でもない 生き物を無下に(あや)めることは したくない」


「お金の為なんだから 甘っちょろいこと言ってんじゃないわよ!……って 言いたいところだけど アリシアが そう言うのも分かってる。それに コウト百合の生育には 岩猩々(ロックバブーン)の糞尿が肥料になってるって話もあるワケ。今年 採って 来年 全くとか効率悪いし。せっかくの貴重な採集場所は大事にしないとね」



 街道の上り坂を登りきり峠へと差し掛かる。

 ここから 東南へと進めばコウト山への険しい山道。

 眼下には 盆地状になった緑のユーイット勲爵士領。

 そして遥か遠くに聳えるユノス山と その下に拡がるレギャン侯爵領。

 闇エルフの卓越した視力は 霞の向こう侯都ハイリシアの姿をも捉える。


 

「こないだの翼鷲獅(グリフォン)って やっぱ ハイリシアのヤツらやったん?」


「ん? ああ あれか……。翼獅子騎士団(グリフォナイツ)の特務だろうな。マーガル駐屯の1個小隊が半壊させられた上に 騎乗用の翼鷲獅(グリフォン)1頭 討ち洩らした」



 峠に立つ道標の前に腰を下ろし一息入れる3人。

 アリシアは王都の方角を 紅瑠石(ガーネット)は 遠くハイリシア(レヴァン侯都)の方を見やりながら 会話を続ける。

 ヤクに水を飲ませながら 海碧瞳(ディープ・マリン)の薬師が 呆れ声を出す。

 

 

「特務? 何でそんなの侵入してんのよ。レヴァン侯爵って アレクサンドラの又従兄(またいとこ)でしょ?」


「……マリノア。陛下って付けてくれ 不敬に当たるぞ。父方では又従兄 母方の血統で言うと 大叔父御に当たるな。まぁ 上級貴族なんて みんな親戚同士みたいなものだが」


「で 親戚同士で足の引っ張り合いと 殺し合いってワケね。ご精が出ますこと」


「そんで 今回は 何が理由なん? サンディー(アレクサンドラ3世)に逆らおうってのは 今の感じやと ちょっと無謀やろ? いくらアイツが アホ君主や()うても」


「おいっ 陛下のことを愛称で呼ぶなっ 不敬過ぎるだろ! あと アレクサンドラ3世陛下は 不世出の英主(歴代屈指の名君)であらせられる。少なくとも 表向きは…な。……私生活が ()()()()()ことを知ってるのは ごく一部の人間だけだ。無闇に口外するのは 控えてくれ」



 自分が近侍する女君主の奔放過ぎる言動を思い出し 軽い頭痛を感じて額に左手を当てる親衛騎士。

 調合難度が高い稀少な薬剤ばかりを発注してくるが 金払いは最高に良い顧客リスト筆頭……今回も 厄介な依頼を回してきたと思い(こうべ)を横に小さく振る薬師。

 市井の人々の崇拝にも近い敬愛の情と 自らの知る頭のネジが抜け落ちているとしか思えない奇矯な発言との格差に 軽く首を竦める闇エルフ。

 

 3人は 同時にタメ息を吐くと話題を元に戻す。



「で 何で 翼獅子騎士団(グリフォナイツ)がおったん?」 

 

「侯爵家内の揉め事かもしれんが 確証は無い。小隊の騎士達も任務から駐屯地へ帰る途中に 休息中の翼獅子騎士(グリフォナイト)達に出会って 成り行きで遭遇戦になったらしい。何にせよ 生かして尋問することができなかった。私か ケルビン卿あたりが指揮を取っていれば 殺さずに無力化できたんだろうが……」


「ああ。ソレよ それ。アリシア アンタのその力が 今回の依頼達成に必要になるってワケ。今回の2つ目の狙いなんだけどさ……」



 マリノアが 手に持った木杖で地面に辺りの略図を描き 今回の依頼達成のための作戦伝達を開始する。

 アリシアと紅瑠石(ガーネット)の2人も 地図を覗き込み 自らの役割に耳を傾ける。

 バカ話をしていた時とは違う 一流だけが持つ緊張感。

 2人から的確な質問が 1つ2つ飛び 作戦会議は短時間の内に終了したのだった……。

 ………。

 ……。

 …。




 



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