表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

再び〈碧猫屋〉




 カランッ カラン… カラン……



「あ~ あの顔は アカンかった感じやな」



 〈碧猫屋〉に帰ってきた マリノアの顔を見てカウンターで店番をするバイトに向けて紅瑠石(ガーネット)が目配せ。

 機嫌の悪そうな雇い主の目を盗むように小さく肯くバイトの少女。



「ダメよ ダメダメッ。ロクサーヌのヤツ ホント お話になんないわッ。翼鷲獅(グリフォン)退治の危険手当どころか 爆炎瓶2本も経費と認めないって どーゆーことよッ? アッタマ固すぎんのよッ!」



 夕暮れ迫る時間帯。

 ランプの灯りに揺らめく 天井まで続く薬箪笥の引出しの影。

 水薬(ポーション)類の薬瓶が 所狭しと並べられた左側の戸棚。

 右側の鍵付き棚には 希少な幻獣の角や牙が厳重に保管されている。

 薬箪笥に もたれて立つ闇エルフに対して 厚いオーク材のカウンターを 叩きながら 薬師がまくし立てる。

 バイトの少女は カウンター横の帳簿机で マリノアの声を頭上でやり過ごそうと 首を縮めて 今日の売上を整理中。

 


「ああ。〈氷の〉ロクサーヌやもんな。そりゃ 似た者同士やし 相性悪いやろ……」


「ハァ!? アタシのどこが あのトンガリ眼鏡に似てるってゆーのよッ!?」



 王都騎士団の(アークナイツ)出納係 ロクサーヌ・ヘルバン。

 騎士団の物品管理 金銭管理を一手に引き受ける 名物事務員。



「1回契約したら 銅貨1枚たりとも 追加報酬 絶対 払わへんとこ。『契約は契約 それも含めての契約』ってゆーやろ?」


「そーなのよッ。『騎士団が 発注したのは 回復薬25本で それ以上でも それ以下でもありません。契約は契約です』ってさッ。でも 騎士団の不始末 手助けしてやったんだから ちょっとぐらい 色つけてくれても いーと思わない?」



 小首を傾げ 思案顔の闇エルフ。



「あのさ 今回の依頼 急ぎの仕事で 騎士団相手やったんやし ホンマは 銀貨100枚の仕事やったんやろ?」


「…………違うし」



 しばらくの沈黙の後 目を逸らしながらの〈碧猫屋〉店主の回答。

 


「相場から ゆーたらそーやろ。今回に限って マリノアが安値で受けるとは 思えへんねんけど?」


「……だとしたら 何よ?」



 憮然とした表情を浮かべながら 水碧髪(アクア・マリン)の薬師が聞き返す。

 


「はじめ 折半ってハナシやったんやし 50枚(はら)ぃーさ」


「ハァ? アンタ37枚で受けたでしょ? 契約は契約よッ」

 

「ほ~ら出た『契約は契約』。 マリノアの言い分が通るなら ウチも危険手当 欲しいわ」



 一本取って 勝ち誇ったニヤニヤ笑いを浮かべる闇エルフ。

 苦虫を噛み潰したようなマリノア。



「お金もらうのは好きだけど 払うのは 嫌いなのよッ」


「へいへい。知ってる 知ってる。冗談やし37で かまへんで」


「……でも アンタに デカイ顔されんのも 癪に障んのよ」


「ほな カラダで払っとく?」



 さらにニヤニヤ笑いの紅瑠石(ガーネット)



「ハンッ 別に減るもんじゃないし 構わないけどね。ただ アタシ ()()ですけど? そこは大丈夫?」

 

 

 痙攣(ひき)つった笑みを浮かべながら マリノアが聞き返す。 

 2人のやり取りに聞き耳を立て 顔を赤くしているバイト。

 


「あー そうやったわ。ホンマにペチャパイやもんな~。やっぱ 遠慮しとくわ」



 大仰な言い方をしながら紅瑠石(ガーネット)が わざとらしく豊満な自分の胸を揺すってみせる。

 鼻を鳴らして ジト目でマリノアが反論する。

 


「今は バカにしてるけど アタシだって 10年くらい経てば アンタに負けないサイズに育つんだからねッ」


「ホンマに~? 17のマリノア 何回か見てるけど 今までで1番小さい気がすんで?」 


「むぅーっ。それさーっ アンタも やっぱ そう思う? なんかアタシも そんな気がすんのよね。次は 胸 大きくなる薬でも作ろうかしら……」



 事務作業するフリをしながら聞き耳を立てていた13歳が思わず 2人の方を見てしまう。



「なーに? ジーナも興味あるの?」



 耳まで真っ赤になり大きく首を横に振り 机に向き直るバイト少女。



「まー 真面目の塊 勉強一筋みたいなジーナも ()うても お年頃やモンな~。どーしたん 落としたい男でも できたん?」


「やめなさいよねッ。『落としたい』とか そんな下品なのじゃないわよね? もっと純粋(ピュア)な恋なのよね? お姉さん 相談に乗ってあげるわよ~」



 優しい言葉とは裏腹に 好奇心いっぱいの笑みを湛えた海碧の瞳(ディープ・マリン)

 ジーナと呼ばれた少女は真っ赤な顔のまま俯き帳簿に数値を書き入れていく。

 弱冠13歳(ローティーン)の初々しい反応に 微苦笑を禁じ得ない 長い時を生きてきた2人。

 



 カランッ カラン… カラン…… 

 

 

「マリノア 邪魔する」



 ウインドチャイムの音と共に〈碧猫屋〉に入ってきた 長身の艶橙髪(カッパー・ブランド)

 久々に店に顔を見せた 馴染みに歓迎の意を表する水碧髪(アクア・マリン)の店主。



「あら アリシア。いらっしゃい」


「ああ。紅瑠石(ガーネット)もいたのか。ジーナも…」



 女騎士は ぐるりと店内を見回し いつものメンバーに声を掛ける。

 消え入るほど小さな声で 挨拶を返し 美貌の麗人から 身を隠すように 体を縮めて 机に向かうジーナ。

 軽く右手を上げて 会釈する紅瑠石(ガーネット)

 


「よお アリシア 珍しいやん。休み取れたん?」

   

「ああ。久しぶりに 休暇と鍛練期間が取れたんだ。何か私の剣が必要となる冒険話は入っているか?」


「それなんだけど 今 ちょっと いい話があって……」


「アリシアも ウチも 今のままで 充分満足やし ジーナは これからやし 困ってんの マリノアだけ……」


(かね)の話か? 私は別に 報酬は少なくても大丈夫だ。ただ 強い相手とは 戦いたい……」


「……いや (カネ)やのーて」



 紅瑠石(ガーネット)が わざとらしく もう一度 豊満な自分の胸を揺すってみせる。 


 

紅瑠石(ガーネット) アンタ うっさいのよッ 少し黙っててッ」



 おどけた表情で肩を竦めてみせる闇エルフを無視して 痩身の薬師は アリシアに冒険の提案準備。



「面白そうな話があるのだな? 是非とも聞かせて欲しい」



 淡麗な容貌に 喜色を浮かべる女騎士。

 落ち着いた立ち居振舞いの奥に隠された闘争への渇望。

 アリシアの目標は 父親の武勲(赤竜殺し)を越える 難敵を倒し 更なる誉れを手に入れること。



「ああ そう言えば…だ。昼間 ロクサーヌとやり合って追い返されたらしいじゃないか。埋め合わせとしては 細やかかもしれないが 騎士団長室から ワインを2本ほど拝借してきた。これでも飲みながら詳しい話を聞かせて欲しい」



 そう言いながら 手に下げた袋から アリシアがワインボトルを取り出す。

 


「カストラ・トラキアーナの776年物やん! 1本 銀貨25枚は下らない銘酒やで!?」


「まぁ 騎士団の不始末を民草に被害が出る前に 処理してくれたんだ。団長殿も文句ないだろうし もし補充したければ 団長殿がロクサーヌと 直接やり合うが いいのさ」



 喉を鳴らして クックッと笑う筆頭騎士。



「悪い娘よね~」


「アリシア 真面目そうな顔してるけど けっこう陰では エゲツナイ不良やもんな」


「なんとでも言うが良いさ。それよりワインを開けよう。ジーナ! グラスを3つ用意してくれ。せっかくだし ジーナも飲みたければ 小さなグラスを用意するといい。なんにせよ 明日から 休暇だ。少し飲みたい気分なんだ 付き合ってくれ」


「ええ酒が飲めるんやったら 喜んで」


「ワイン飲みながら 打ち合わせってのも 乙なもんよね。アタシも付き合うわ」


「ふふっ。ジーナも付き合ってくれるのか? あまり無理はしないようにな? だが 一緒に飲めて嬉しいよ」


 

 商談用のテーブルの周りに集まり グラスに思い思いの量を注ぐ。

 艶橙髪(カッパー・ブランド)の女騎士と白銀髪(プラチナ・ブロンド)の闇エルフは並々と。

 水碧髪(アクア・マリン)の薬師は 半分程度。

 琥珀髪(ライト・アンバー)のバイト少女はショットグラスで。


 ――チィィィン――


 今日の報酬と明日の冒険へと 想いを馳せてグラスを合わせる。

 

 王都ウェスティリア(星降る街)大市場(グランバザール) (ひがし)大通(おおどお)冬宿木(アイシャングラド)小路下ル。

 【秘石妙草 各種取扱い】薬種商〈碧猫屋〉。

 

 ……本日は これにて閉店。


 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ