翼鷲獅
「ちょっと ヤバかったわね」
「……いや ホンマに」
「何で こんなところに 翼鷲獅なんて いるのよ?」
マリノアが 辺りを警戒しながら 紅瑠石の傍に歩いてくる。
幻獣の死骸から柳葉刀を回収しながらの闇エルフの返答。
「分からへん。翼鷲獅なんて 王都の近所にいるような生き物ちゃうで? ハイリシアの辺りなら ともかく……」
「牙猪は 翼鷲獅に追われて 怯えて 気が立ってのかな?」
「……かもな」
「あの1頭だけかな? 北の山地にしかいないハズなのに……」
頭上を 少し不安そうに警戒しながら 海碧瞳の薬師が言う。
「さすがに もうおらんと思うけど 早めに撤収しよーや。並みの片刃刀で無茶したから 刃に脂回ってしもて 切れ味ガタ落ちや。もしかしたら ちょっと刃こぼれしてるかもやし……。マリノアも薬瓶2個 使こて 残り少ないんちゃうの?」
鞘に仕舞った片刃刀の柄を左手で確かめながらの紅瑠石の問い。
「火炎系は残り1瓶。酸系とかは まだあるけど ちょっと心許ないわね……」
マリノアも肩掛け鞄を撫でて 中の薬瓶の数を思い返す。
「……爆炎瓶2本とか 想定外やんな」
「こんなことなら業焔瓶とか用意しとけばよかった」
ジト目で マリノアを見詰め返す紅瑠石。
「……いや。業焔瓶なんか使こたら ウチも一緒に焼け死ぬやん……。ってゆーか 2本目の爆炎瓶 ウチも巻き込まれそうやってんけど? 2本目 飛んでくんの見て 慌てて 翼鷲獅の影に隠れてんで?」
「ああ アレ? 人のこと 貧乳とか言った罰よ。一発目で巻き込んでやろうか 悩んだんだけど あんまり可哀想だから 二発目にしといたの。優しいでしょ?」
「気づかへんかったら どないすんねんっ!」
「……どーせ アンタ そんなヘマしないでしょ。巻き込まれりゃよかったのに」
お互い罵り合いながら 森を抜け リイン村へと続く小道へと出る。
そのタイミングで闇エルフの長耳が 微かに揺れ 端整な美貌が仄かに痙攣つる。
「紅瑠石 どうかした? また ヤバい感じ?」
「……いや。ヤバい訳や あらへんけど…。いや まー ヤバいちゅーか…」
白銀髪のエルフが 言い終わらない内に 飛んでくる甲高い声。
「ししょ~っ! ししょ~じゃないっすか!? 何でこんなところに!?」
視界の先に 軽装金属鎧を装備した濃緑髪の少女が見えたかと思うと 後ろを振り向き 大きく手を振る。
「分隊長~っ! 分隊長っ! 紅瑠石ししょ~とマリノアさんを 発見したでありますっ!」
そして もう一度こちらを振り向くと 子犬のように駆け寄ってくる。
その後に続いて視界に入る 全身金属鎧の青年と 革鎧の衛士の一団。
軽装金属鎧の少女を含めて 全員が弓で武装している。
「リアンじゃない。アンタこそ どーしたのよ こんなとこで。フォージとデート?」
「ちっ 違うっすよっ! 自分と分隊長は そーゆー関係じゃないっすっ! 任務中っすよ。任務中っ!」
「何の任務なん?」
「そっ それは ししょ~相手でも 言えないっす。極秘任務なんで……」
少女の名前はリアン・ペイジ。
王都の騎士団に勤務する騎士見習い。
細身の長剣と小型盾 金属片で補強された革鎧。
濃緑色のショートヘア。
年齢は 17歳。
「おい リアンッ。任務に関すること喋るなよ?」
追い付いてきた金属鎧の青年が 少女に釘を刺す。
衛士隊の分隊長を勤める青年はフォージ・ヒューガス。
柔和な表情ながら かなりの高身長で 重装の金属鎧と相俟って 近くに立つだけで 一定の威圧感を放っている。
「大丈夫っすよ。分隊長」
「こんにちは マリノアさん。あと 紅瑠石も。今日は アリシア様は 御一緒では ないのですね」
「こんにちは フォージ。今日は アリシアは来てないわ」
「そう言えば アリシア様は王都訪問中の賓客の護衛任務中だった筈です。失礼いたしました」
「……アリシア来てたら あんな苦労せんで済んだのに……」
ボソッと呟く 白銀髪の闇エルフ。
アリシア・アダマンティ。
マリノアや紅瑠石と よく行動を共にする女性騎士。
リアンやフォージの上官筋にあたる人物でもある。
「それで 王都の衛士隊が こんなとこで 何してるの?」
水碧髪の薬師の質問に 焦茶色の短髪の青年は 真面目そうな表情を崩さず 淡々と答える。
「任務に関することには お答え出来ません」
「どうせ 翼鷲獅狩りやろ?」
「ぶっ 分隊長 自分 まだ何も喋ってませんっ」
慌てた顔で 上官の顔を見上げて 釈明を始めるリアン。
その様子に無言で 目を見合わせ 肩を竦める紅瑠石とマリノア。
「なぁ フォージ。コイツ 致命的に斥候向いてへんで?」
「ホントよね…。どうして こんな娘 斥候にしようと思ったワケ?」
「……知らないですよ。騎士団長が 眼が良くて 脚が速いなら斥候向きだと仰ったと聞いてます」
焦茶色の短髪を横に振りながら 小さくタメ息を吐く21歳。
「なっ なんでありますか? ししょ~達まで……。じっ 自分 本当に 何も喋ってないのでありますっ」
………。
……。
…。




