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G.P.S.覚書〈その10:活力瓶〉




 赤毛猿がギャーギャーと騒ぎ立てるのに 一々反論をしておりますと キールさんが近寄ってらっしゃいます。



「痴話喧嘩で盛り上がってるとこ 悪いんだけどよぉ……。お嬢 だいぶ疲れてっだろ? これ 店長(マリノア)さんから 預かってきてるからよ」



 そう言いながら 腰のベルトから薄緑の液体の入った薬瓶を取り出されます。

 〈痴話喧嘩〉と言うのは〈恋人同士の他愛もない喧嘩〉という意味ですので (わたくし)とアホの赤毛猿の関係性について使用されるのは 明らかに誤用ですが ここはグッと言葉を飲み込みます。


 それよりも『緑色の薬瓶』です。

 大怪我をしたであるとか 生命の危機という事態でもないのに〈碧猫屋(あおねこや)〉の薬など飲める訳もございません。

 後で 高額の請求をされるに違いないのですから。



「そりゃ 確かにそうなんだけどよぉ……。でも お嬢 マジでフラフラだろ? さっき 魔法唱えた後から ヘタリ込んだままだしよぉ 顔色も(わり)ぃし…さ。次 もう 魔法 撃てねぇんじゃねぇの?」



 ……くっ。

 痛いところを突かれました。

 実は フィンと口喧嘩していた間も まだ立てておらぬのです。

 だいぶ 回復してきましたので もう立てるとは 思いますが。


 立ち上がろうとして 更なる不覚。


 足元がおぼつかず バランスを崩し フィンに抱き止められます。

 転びかけたところを助けてくれたのは ありがたかったのですが 口を衝いて出たのは お礼ではなく 別の言葉。



「どっ どこ 触ってんのよっ 死ねッ この変態っ!」


「はぁ? ジーナのガキっぽい身体なんて すき(この)んで触るワケねーだろが。オレは いつも言ってる通り オッパイのでっけぇお姉様が好みなの。つーか さっきの件もだけど 助けてもらって お礼も言えねぇの お子ちゃま過ぎだろ。だから カラダもアタマも ガキンチョだっつーの」



 殺す。

 絶対に殺します。


 土小鬼(ドグル)と相対した時よりも 激しい〈殺意〉が込み上げて参ります。

 大体 素直にお礼が言えないのも 胸の成長が遅いのも 大変にデリケートな乙女の悩みですのに 人前で大声で話すだなんて万死に値すると申せましょう。

 

 ですが キールさんの仰る通り 今の(わたくし)には魔法を組み上げるだけの気力が残っておらぬようなのです。



「お嬢 マジにフラフラじゃんよ……。これ 飲んだ方がいいぜ。店長が さ…『ジーナ ケチだし ビビりだから 持たせても 断ると思うし キール持っといて』って言われて この〈活力瓶(スタミナ)〉預かってたんだけどよぉ 店長は店長で お嬢のこと心配してたみてぇだし。薬代は割り勘でいいから よ」



 守銭奴の権化のようなマリノア(店長)様にケチ呼ばわりされるのは 心外です。

 (わたくし)は無駄なお金は銅貨1枚たりとも使いたくないだけなのです。 

 ……ですが 割り勘という言葉には 心惹かれます。

 1人で払わなくてよいのであれば なんとかなるかもしれません。

  

 キールさんから 薄緑の薬瓶(スタミナ)を受け取り 一気に飲み干します。

 胃にお薬が流れ込んだという感覚と共に 先程から感じておりました 軽い眩暈や頭痛が みるみる消えていくのが 分かります。

 数瞬の内に 朝起きたばかりのような清々しく充実した感覚が漲って参ります。

 今の(わたくし)なら アホでセクハラ魔王の赤毛猿を消し炭にすることも 難なくできそうな気分です。


 程よい呪文は無いかと 魔導書(グリモア)を紐解こうとしたところ

 討ち洩らしはないかと死体の確認をされた後 こちらに向けて歩いてらっしゃったシスター・フィーナから声が掛かります。



「ジーナさん フィンさん 痴話喧嘩の仲直りはできました? それはそうとジーナさん アイリスさんが ご用があるそうで呼んでらっしゃいますわ」



 〈痴話喧嘩〉というのは……。

 ……いえいえ。

 今は アイリスさんの ご用の方が大切です。

 慌てて 少し離れたところに しゃがんでらっしゃいますアイリスさんの所へと向かいます。



「ああ 魔術師殿 来てくれたの。もう痴話喧嘩 終わったんだ?」



 またもや〈痴話喧嘩〉呼ばわり……。

 先程の〈電撃柱(ライトニング・ピラー)〉は お仲間除外ではなく 自分だけ除外にすべきだったのでしょうか。

 母といい おば様といい お仲間の方々といい (わたくし)と赤毛猿が これ程までに仲が悪いと何故理解できないのでしょうか?

 (わたくし)が心の内に沸々と怒りを溜めておることには気付かぬご様子で アイリスさんが お話を続けられます。



「あのさ この森小鬼(モグル)なんだけど 魔術師殿が言ってたみたいに 本当に森小鬼の巫術師(モグル・シャーマン)?」



 アイリスさんの膝元には 先程 機械式弩(クロスボウ)で仕留められた森小鬼(モグル)の死骸が。

 少し恐ろしいですが (わたくし)も検分致します。

 他の森小鬼(モグル)共は下半身のみをボロ布で覆っております中 この個体は上半身も覆っているようですし ビーズや獣骨を組み合わせたネックレスに 棍棒より長く細い杖とおぼしき装備。

 確かに森小鬼(モグル)の中でも地位の高い個体と見受けられます。

 森小鬼(モグル)の中でも 特に知力が高く邪術や精霊魔法を使うという森小鬼の巫術師(モグル・シャーマン)と見て間違いはないと思われます。



「あたしの知識が間違ってなきゃ 森小鬼の巫術師(モグル・シャーマン)って かなり大きな群れじゃないと 居ないんじゃなかったっけ……合ってるかな?」



 アイリスさんの問い掛けに 静かに頷きます。

 一昨日に学院の図書室で慌てて調べただけで数冊の本の知識ではございますが 森小鬼の巫術師(モグル・シャーマン)は百匹を越えるような大規模な群れでしか確認されないそうでございます。

 


「じゃあよぉ…… まだ あと80匹近くいるってことか?」

 


 キールさんが 引き笑いのような表情を浮かべて尋ねられた質問にも 頷いてお答えします。

 森小鬼首長(モグル・チーフ)と呼ばれる強力な個体の補佐役であることが多く 場合によっては群れを率いていることもあるのだとか……。

 この森小鬼の巫術師(モグル・シャーマン)が何故 20匹程度の群れと外に出ておったのか?

 目指す遺跡に あと何匹の森小鬼が残っておるのか さらには 強力な森小鬼首長(モグル・チーフ)の姿はあるのか?



「大規模な群れである可能性が 上がってきた訳だけど あたしとしては やっぱり確証を目で見て確認しておきたいと思う」


「わたしも その方が良いと思います。ジーナさんの見立てを疑うわけではありませんけど この死骸だけでは 証拠として弱いと思いますの」


「依頼人の2人の意向は 大事にするつもりだけどよぉ 20匹弱でも 苦戦したワケだろ…… いや まぁ 俺が弱ぇのが悪いんだけどよ。フィンとジーナは どう思う? ちゃんと意見言っといた方がいいぜ?」



 そう言って キールさんは 年若い(わたくし)とフィンにも 意思表明の機会を下さいます。


 

「あの……オレは 引き返した方が いいかなって思います」



 あれ?

 強気で 威勢のいいことばかり言っている フィンにしては殊勝なセリフ。

 怖じ気づいたりするタイプでは 無い筈なのですが……。



「さっき ジーナが魔力切れ起こしてたじゃないっすか。オレは いいんですけど ジーナが心配なんで」



 カチーンと来ます。

 言うに事欠いて (わたくし)をダシに使うとか 不愉快にも程があります。

 怖いなら怖いと正直に言えばいいのです。

 (わたくし)だって 怖いと思う部分もあるのですから。

 それを(わたくし)を理由にするなんて……。


 皆様に(わたくし)の意思を お伝えさせて頂きます。

 魔力については 先程の〈活力瓶(スタミナ)〉で万全であること。

 森小鬼(モグル)の探索については まだ前進を続けるべきだと思っておること。



「みんなの考えは分かった。もう少し遺跡に近づいて 森小鬼の動向を探ろう。ただ キールや剣士君が言ってくれたことも大事なことだよね。危険な兆候があったら引き返す。そこの見極めは しっかりやろう。それで いいかな?」



 アイリスさんの取りまとめに 皆が頷きます……。

 ………。

 ……。

 …。





 

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