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G.P.S.覚書〈その7:森小鬼〉




 灌木の茂みから飛び出してきた緑色の肌の森小鬼(モグル)3匹。

 片手半剣を抜き放ったフィンと2人で対峙致します。


 フィンは 構えた剣を左右に牽制するように繰り出し (わたくし)の方へ森小鬼(モグル)達が向かわないようにしておりますが 要らぬお世話です。

 魔導書(ノート)は テントのところに置いて参りましたが〈魔力の矢(マジック・ボルト)〉ぐらいなら 暗謡で発動できるのです。

 その為に 修練を積んで参ったのでございます。


 精神を集中し (わたくし)の周りに漂う〈魔素〉を意識致します。

 


「Hyi res relz……」

 


 キーワードを唱え 集めた〈魔素〉を魔方陣の形に固定致します。

 (わたくし)の右手の前の中空に浮かぶ 小型盾(スモールシールド)ほどの大きさの黄色の淡い燐光を放つ魔方陣。

 この状態でも〈魔力の矢(マジック・ボルト)〉を放つことはできますが 必中と必殺を狙うのであれば 魔方陣のパラメーターを書き換えねばなりません。

 魔法効果の確実性 個別化 柔軟性こそが〈真語魔法〉の真骨頂。


 3匹の森小鬼(モグル)全部を仕留めれるように 右手の指先で魔方陣に触れ 必要な文字と紋様に書き換えて参ります。


 と 1匹の森小鬼が(モグル)棍棒を振り上げ フィンに襲い掛かります。

 その棍棒を片手半剣で 跳ね上げ 返す刀で斬り伏せる真紅髪(ピジョン・ブラッド)


 一撃で倒したのは 良いのですが 3匹とも狙っていた魔方陣の調整は狂ってしまいます。

 更には 剣を振り下ろしたその隙を狙って もう1匹の森小鬼(モグル)が棍棒でフィンの胴を強打致します。

 激痛が走ったのでしょう 短い叫び声をあげ 膝を着く幼馴染み。



「お兄ちゃんっ! 大丈夫!?」



 思わず叫んでしまい さらに集中が乱れます。

 ですが ここで(わたくし)が呪文を失敗すれば いよいよ窮地に陥ります。

 もう一度 念を練り魔法に集中し直します。



「──ッ痛ッてぇな この野郎ッ」



 追撃しようと 棍棒を振りかぶった森小鬼(モグル)の胴をフィンの片手半剣が払いました。

 仲間2匹を斃され 不利を悟った最後の森小鬼(モグル)は 背中を向けて逃亡を開始します。



「ジーナッ! 逃がすなッ。──チッ ちくしょうッ 痛ッてぇッ」



 フィンは片手半剣を杖に立ち上がりますが 負傷した脇腹が痛むらしく 走れる様子ではございません。

 その間にも 森小鬼(モグル)は 森の奥へと走り去ろうとしております。

 戦意を失っている敵を討つのは……と 一瞬の迷いが生じますが 群れに(わたくし)達の存在を報告されてしまうと 大変な危険を招きます。


 魔方陣に集中しますが もうパラメーターを書き換えている時間はございません。

 右手動かし 燐光を放つ魔方陣を森小鬼(モグル)へと向けます。

 

 

「あまねく満ちる魔素よ純なる霊子を導き 我が敵を撃て! 当たれっ!〈魔力の矢(マジック・ボルト)〉!」



 中空に浮かぶ魔方陣の黄色い燐光が一瞬輝きを強くして収束し霊子の矢となって 真っ直ぐに森小鬼へ(モグル)と飛び 緑色の背中に命中致します。



 ……ああ。

 

 ですが… なんと言うことでしょう。

 私の放った〈魔力の矢(マジック・ボルト)〉は 逃げる森小鬼(モグル)を仕留めきることができなかったのです。


 もんどりうって 前のめりに倒れた森小鬼(モグル)は ヨロヨロと立ち上がると さらに森の奥へと逃走を続けます。

 慌てて放ったので 急所を外してしまったのでしょう。

 今から もう一度〈魔力の矢(マジック・ボルト)〉を準備していては 射程外へ逃げられてしまいますし 走って追うにしても この森の中で 見失わずに魔法の射程内に捉えきる自信もございません。

 

 万事休すとは この事です。


 このままでは (わたくし)の覚悟の無さ 読みの浅さが お仲間全員の足を引っ張ってしまいます。

 どうしたら 良いのか?

 必死に考える間にも 森小鬼(モグル)は離れてしまいます。

 焦る(わたくし)の耳に飛び込んでくる声。

 そして 風切りの音。


─── ビュンッ ───


「剣士君 魔術師殿 大丈夫!?」



 森小鬼(モグル)の背中を貫く太い弩矢(クォレル)

 振り向くと機械式弩(クロスボウ)を構えたアイリスさんと シスター・フィーナとが こちらへと走って来てらっしゃいます。

 その後ろには キールさんの姿も。



「フィンさん 傷の手当てを」

 


 シスター・フィーナは フィンの傍に膝をつき 祈りの言葉を紡がれます。

 すると手にされた 丸盾の聖印が白く淡い燐光を放ち その光がシスター・フィーナの右手を介してフィンの身体を包みます。



「シスター・フィーナ ありがとうございます。もう 痛く無いですッ」



 先ほどまで 歯を食い縛り 脂汗を流していた赤毛猿に 不愉快なニヤケ顔が戻って参ります。

 知性の低い猿なので 歳上の美人と会話すると 直ぐ鼻の下を伸ばすのです。

 その間抜け面を見ていると 言い様の無いイライラ感が湧いて参ります。


 アリシア様に対する意味不明な解釈を聞くと殺意を感じるのですが だらしないニヤケ顔を女性に向けているところを見ても最近は殺意を覚えます。

 兎にも角にも 極めて相性の悪い男としか 申し様がありません。

 何をしているところを見ても イライラするのですから……。



「……遺跡から まだ かなり距離がある筈なんだけどな……」



 フィンが斃した森小鬼(モグル)を検分されながら アイリスさんが呟かれます。



「それだけ 群れがデカいってことじゃねぇっすか?」


「そうかも…… 大きな範囲に食料調達員を出してる可能性があるよね」



 同じく森小鬼の(モグル)横にしゃがみ込んだキールさんと何やら話し合ってらっしゃいます。



「みんな 聞いて欲しいの」



 立ち上がったアイリスさんが 皆に話し掛けられます。



「慎重にことを運んだつもりだったけど あたし達が目標にしている群れは 予想より大きいかもしれない。……もしかしたら百匹を超える大規模な群れの可能性も考えなきゃならないのかもしれない」


「これから 夜営するワケなんだけどよ… 他の獣は獣で怖ぇし 火は焚かなきゃなんねぇ」



 キールさんも 立ち上がり頭をガリガリ掻きながら捕捉されます。

 


「だけど その火を森小鬼(モグル)の斥候に見られてしまう可能性は捨てきれないと思う」


「巣を急襲して制圧ってのが 理想形だったワケなんだけどよ… 既に警戒されてる ヘタしたら待ち伏せってのも あり得るかもしれねぇ……」


「なんにせよ 安全第一で慎重に進めたいの。妙だな 異常かもと思ったら できるだけお互いに声掛け合っていこ」



 なんとなくピクニック気分 アルバイトの延長線上でおりました(わたくし)ですが 改めて〈命懸けの冒険〉に参加しているのだと 空恐ろしくなって参ります。

 周りの皆様も 深刻そうな表情を浮かべてらっしゃいます……赤毛猿(フィン)でさえも。



「大丈夫ですわ 神は正義の徒を お見捨てにはなりませんよ。それより 昼食の用意をいたしましょう。フィネルさんから 干し肉を 沢山頂いてますの。シチューにしますから しばらく待っていて下さいね~」 



 1人 平生と変わらず にこやかな笑みを浮かべてらっしゃるシスター・フィーナの声が 静かな森に響くのでした。


 



 

 




 

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