G.P.S.覚書〈その3:依頼〉
フィネル家の土間に置かれた分厚く広い樺材の作業机の横の丸太の椅子に腰掛けて待っておりますと フィネルおば様が 2人の女性を連れて戻ってらっしゃいます。
お一人は 濃紺髪の長髪を一つ括りにした 革鎧に中短剣を携えた方。
一目で衛士の方と判ります。
もうお一人は 更に判り易い服装。
黒い修道服とベールを身につけた かなり長身の女性。
フェイシア教会の修道女様です。
「初めまして。あたしは アイリス・デュンクル。リイン村駐在の衛士をしてるの。こちらは村の先生」
「はじめまして。わたしは フィーナ・ヒューガスと申します。リイン村のフェイシア教会で 子ども達に読み書きを教えておりますの」
こちらも自己紹介を。
「〈碧猫屋〉っていう薬種商で 外回りの仕事してます キールってもんです。けっこう器用だし 身軽な方なんで色々と お役に立てるかもしれねぇっす」
キールさんの自己紹介にアイリスさんは 少し値踏みするような表情。
キールさんの本当の職業について目星を付けられてるのかもしれません……。
その後 フィネルおば様の方を見て 微かに肩を竦められたようにも見えました。
続いて私も自己紹介を致します。
名前はジーナ・ダイヤモンドだということ。
魔導院の学生で専攻は博物学であること。
そして基礎的な〈真語魔法〉なら扱えること。
「あらま~ まだ小さいのに才媛ですのね」
〈小さい〉という言葉に少し引っ掛かりを感じますが 黙っておきます。
確かにシスター・フィーナに比べれば 私の方が20メルチは低いでしょうし 年齢も下なのは明らかです。
シスター・フィーナは20代前半 アイリスさんも同じくらいに見受けられます。
アイリスさんも シスター・フィーナよりは低いですが 私よりは高いご様子。
このメンバーの中では身長も年齢も一番下なので〈小さい〉も甘んじて受けねばならぬようです。
少々不本意では ございますが。
「それで お姉さん方〈碧猫屋〉への依頼ってぇのは?」
このメンバーでは フィネルおば様の次に年齢が高いと思われるキールさんが〈お姉さん方〉という言葉を使われることに 多少の疑問を感じなくはないのですが 口下手な私に代わり話を進めて頂けるのは 有り難いです。
急いで聞き耳を立てます。
「うん。その事なんだけど……」
「このリイン村から 森の奥へ1日半行程ぐらいの所なのですが」
「ラペリア帝国時代の遺跡があるの」
「その遺跡にですね…… 」
アイリスさんとシスター・フィーナが交互に話される内容を整理すると
村から少し離れた森の奥に森小鬼の集団が棲み着いたらしい。
しかもその群れには土小鬼の姿も見えるらしい。
土小鬼というのは 人間サイズの好戦的な大型の亜人で 場合によると 人間の村を襲うこともあるといいます。
「土小鬼って けっこうヤバいじゃねぇっすか。衛士隊とか 場合によっちゃ騎士団に討伐依頼するってハナシじゃねぇんすか?」
「……そこなの。実は その一帯は 王家領とユーイット勲爵士領 それに レギャン侯爵領の端境にあたるから管轄が微妙なのよ。その上森小鬼や土小鬼の群れがどの程度の群れなのか 把握ができてないわけ」
「村でキノコ採りをしてる方や 猟師の方が目撃してらっしゃるのですが 見かけられたら 即 お逃げになったので」
「正確な情報が得られてないの」
ここで 私が口を挟みます。
私の情報整理にアイリスさんは 頷いて下さいます。
「さすが魔術師殿 その通り。今回の依頼というのは 森の奥の遺跡まで あたし達に同行して 正確な情報収集を手伝って欲しいってことなの」
「土小鬼が出るということは ある程度大きな群れだとは思うのですが 20~30匹程度の群れでしたら わたし達で殲滅してしまいたいですし」
森小鬼とは 以前にも戦闘したことがございます。
緑色の肌をした小鬼。
おぞましい感じの乱杭歯。
錆びた小剣や棍棒を振り回していて 恐ろしくはありましたが 落ち着いて魔法を準備し〈魔法の矢〉で屠ったのでした。
ただ その時は 5匹ほどの小さな群れでした。
「もし 百匹近い大規模な群れだった場合や さらに大きな巨大な群れの先遣隊だった場合には 王都に討伐要請をしようと思うの」
「どちらの場合でも わたし達2人では 心許ないので お手伝いをお願いしたいのです」
何十匹という数になれば2人で挑むのは危険というのは よく分かります。
ましてや 土小鬼の姿も見えるとか。
少々恐ろしい気も致しますが あの冒険の後 実戦的な呪文の練習を繰り返して参りました。
その成果を試してみたいという気持ちもございます。
その様なことを考えておりますと キールさんが大事なことを聞いて下さいました。
「依頼内容は だいたい分かったんすけど 報酬は どうなるんすか?」
そうでした。
報酬の話は大事です。
私の試験後の生活が掛かっておるのでした。
「討伐した場合は 衛士隊から礼金が支払われるの。もし さらに大規模な群れだった場合は 過去の例では 報告者に騎士団から報償金が払われる筈よ」
「あと リイン村の村長さんに掛け合って 冒険中のテントや食料等は村の方で用意して頂くことになっておりますの」
「あと もう1つ質問っす。いつ出発すか?」
「出来れば 即にでも出たいけど 準備もあるだろうから。2日後で どう?」
………。
……。
…。
お2人のお話を伺った後 キールさんと並んでウェスティリアへの道を戻ります。
「なぁ お嬢… この依頼受ける?」
キールさんの問いかけに小さく頷きます。
土小鬼とは 戦ったことはありませんが 森小鬼とはありますし お世話になっておりますリイン村の方々や もしかしたら故郷ウェスティリアのお役に立てるかもしれません。
さらに言えば ラペリア帝国時代の遺跡を実地に見れるというのも魅力的です……遺跡としては 目ぼしいモノは残っていないというキールさんのお話なのですが 一学徒としては 大きな学びがあるような気が致します。
「了解。まぁ 俺も背に腹は代えられねぇし 受けようと思ってた」
キールさんは 薄茶色の髪をガリガリ掻きながら言葉を続けられます。
「じゃあよぉ フィンのヤツにも声掛けるか……」
え? 絶対 嫌なんですけど?
キールさんの口から出た天敵の名前に 思わず顔が痙攣ります……。
………。
……。
…。




