【短編小説】10代の魂みたいな匂い(you know it’s smells like a shit)
臭い。臭くて厭になる。
自身から発せられる饐えた臭い、それは洗ってどうにかなる腐臭みたいなものとは違う、根本的なものだ。
人生を煮沸すれば自分自身の、どうしようもなく発せられる臭さと言うのマシになるんだろうか?
花間借 臭太郎は鍋の中で煮えているラッシュガードを見ながら思った。
逃げ場を無くした空気がラッシュガードの中で膨らんでいる。箸でつつくと形を変えて空気は逃げた。
臭太郎はまるで自分の人生みたいだと思って大きなため息をついた。
そのため息はラッシュガードを煮ている湯気と混ざって換気扇から出ていく。
そう言うことだ。
この社会に於いて自分の存在は耐え難いほどに希薄で、自分の存在に対する必要性は考えるべくもない。
自分は死ぬべき存在である。
幸せになろうなどとは思ってもいけない。
男と言うのはそう言うものだから、その存在は唯一であってならない。
代替の効かない存在は、王になるか死ぬかなのだ。
臭太郎は王になれる器では無かった。
だから部品である事を選んだ。
それだと言うのに、自身の存在は、どうしようもなく腐臭がする。
自分自身にうんざりしながら、臭太郎は考えた。
過去には香水を試したこともある。
ドラッグストアで売っている安いスポーツコロンから、専門店の高い香水まで様々な匂いを嗅いでみた。
しかしどれも臭太郎の腐臭を打ち消すには至らない。
態とらしい甘ったるい匂いやエスニック料理店の様な匂い、火事の焼け残りみたいな匂い。
そう言った匂いが曖昧なポエムで糊塗されて高値で売られている。
臭太郎には信じられなかった。
味と匂いは密接な関係にあるのに、匂いに関してはその曖昧さがあまりにも許され過ぎている。
ワインソムリエの冗談みたいな売り文句が堂々と書かれているし、みんながそれを喜んでいるのだ。
結局、臭太郎は鼻を鳴らして何も買わずに店を出るのがいつもの事だった。
そして臭太郎の腐臭はやはりどうにもならなかった。
何度か、お金を払って身体を洗ってもらった事もあるが、石鹸の匂いも臭太郎の腐臭を消さなかったし、臭太郎の身体を洗った女の人の匂いも臭太郎の腐臭を消さなかった。
いっそ漂白剤でも湯船に溜めて入れば良いのだろうか?
どれくらいその中にいたら良いんだろうか?
熱湯の中にはいられない。
いや、だから自分は臭いのかも知れない。
換気扇の向こうにある、隣に建つマンションの駐車場から知らない家族の声が聴こえた。
子どもたちがはしゃぎ回って、母親がそれを嗜めている。
父親は鷹揚に笑っていた。
あの家族はきっと自分みたいに臭くない。
それは他人と擦れあっているからなのか?
臭太郎は自分自身の孤独を怨めしく思った。
しかし、臭太郎は自分自身の存在は耐え難いほど希薄だし、それ故に腐臭は留まる事を知らなかった。
仕方が無いので、臭太郎はネット通販でオキシドールをいつか注文したあと、ラッシュガードを煮ていたコンロの火を止めて、少し眠る事にした。
少なくとも、寝ている間は自分の腐臭を嗅がずに済むから。
おやすみ。




