第4話 『代行者の審判』
“森の都”に響く鐘の音が止んだとき、空気はまるで凍りついたように静まり返っていた。
人間たちは広場に集められ、代行者エルナの前に立たされている。
彼女の背後には、巨大な木――まるで城のような大樹がそびえ立ち、その幹の奥からは、かつて“進撃の熊”が放った咆哮のような響きが微かに聞こえていた。
「あなたたち人間は、この地を焼き、奪い、壊し続けた。
その果てに、“熊”を造り出した。力にすがり、恐怖を植えつけ、そして――自ら滅びを招いた」
エルナの声は風のように静かだった。
しかし、その一言一言が、胸の奥を刃のように突き刺す。
沈黙を破ったのは、カイだった。
「……けど、俺たちは生きるために戦った。あのときは、それしか道がなかった!」
「道?」
エルナの瞳が、ゆっくりと細まる。
「あなたたちが“道”と呼んだものは、命の選別です。
強き者が弱きを支配する。
あなたたちは“進撃の熊”を恐れながらも、同じ思想を抱いていたのですよ」
ミナが震える声で問いかけた。
「じゃあ……どうすればいいの? 私たちに、何を望むの?」
エルナはその問いに、迷いなく答えた。
「選択を与えましょう。――“生きる”か、“変わる”か」
その瞬間、広場の中心の地面が割れ、根のようなものが蠢き始めた。
それは人々の足元に絡みつき、温かくも冷たい脈動を伝えてくる。
「“生きる”者は、この森を出なさい。
だが、あなたたちの時代は終わった。
どこへ逃げても、緑は追うでしょう」
そして、もうひとつの道を指し示す。
「“変わる”者は、ここに残りなさい。
森と同化し、人であることを捨て、自然の一部として再び息をするのです」
どちらも“救い”ではなかった。
ただ、“終わり”の形が違うだけ。
カイはミナの手を握りしめた。
「……俺たちは、まだ終われない」
彼の瞳に宿るのは、諦めではなく――“人間の意思”だった。
その小さな炎を見て、エルナの表情がわずかに揺れる。
「……ならば、見せていただきましょう。
あなたたちの“生”が、どこまで抗えるのかを」
風が吹き、森が唸る。
大地の鼓動が響く中、最後の審判が始まろうとしていた。




