第3話 「森の都」
霧に包まれた谷を抜けたとき、そこには――信じられない光景が広がっていた。
高層ビルの骨組みが樹木に飲み込まれ、舗装道路の上には花が咲き乱れている。
かつて「東京」と呼ばれた都市は、いまや巨大な森と化していた。
「……ここが、“森の都”か」
青年・カイが息をのむ。
彼の隣では、少女・ミナが壊れかけの双眼鏡を覗き込みながら呟いた。
「人間の街だったはずなのに……。まるで、森そのものが“都市を模して”るみたい」
風が吹く。木々がざわめき、その奥から何かの“視線”を感じた。
動物ではない。
もっと――“意志”のある何か。
「来たな……」
カイが銃を構えるよりも早く、緑の中からひとつの影が歩み出た。
人のようで、人ではない。
肌は樹皮のように硬く、髪は蔦と花弁でできていた。
その存在は、美しくも恐ろしい“自然の化身”のようだった。
「あなたたち……人間の生き残りですね」
柔らかな声が響く。
だが、その瞳には慈悲も感情も宿っていなかった。
「我は、“王の代行者”エルナ」
彼女は淡々と名乗りを上げる。
「かつてあなたたちの“王”――進撃の熊を生み出した種族に問います。
再び、同じ過ちを繰り返すおつもりですか?」
その問いに、誰も答えられなかった。
沈黙の中、遠くで木々がざわめき、どこかで巨大な咆哮が響いた。
――森が、目を覚まし始めていた。




