第二話
突如あらわれた新たな婚約者候補に、我が家はもちろん大騒ぎである。お父様とお母様はもちろん、兄様のアロイスに、妹のフェリシエンヌまでリビングに勢揃いだ。
兄様は落ち着いた色合いの金髪に優しい緑色の瞳の持ち主だ。
フェリシエンヌは明るい金髪に、少し灰色がかった青い瞳を持つかわいい子だ。姉のひいき目を抜きにしても、フェリシエンヌの容姿は美しい。かわいくて優しい、私の自慢の妹である。
ちなみに私は銀髪に紫の瞳を持っている。名前のヴィオレットも、生まれたときにこの瞳を見たお母様がつけてくれたものだ。
テーブルの上に置かれたデュトワ伯爵からの求婚状を囲む形で、みんなソファーに腰掛けた。部屋の隅には家令のアランが静かに佇んでいる。
「デュトワ伯爵って、どんな方なのかしら?」
これまで交流のなかった方から突然求婚されたので一番気になるところだ。名前はどこかで聞いたことがあるような気がするけれど……。
首を傾げる私にお父様が答えてくれた。
「二十一歳でデュトワ家の当主を務めていらっしゃる方だ。お忙しい方でな、社交界にはあまり顔を出していないそうだから、お前たちもよく知らないだろう」
「二十一歳で? ずいぶんお若いのに……」
兄様と同い年だし、私と二つしか変わらない。その年で伯爵家当主とは、どれ程の重責を背負っていらっしゃるのだろう。
「数年前に父君を馬車の事故で亡くされたのだ。ベルナール様は当時十八歳だったな……。一時はどうなることかと思っていたが、大変有能な方で、今では立派に当主を務めていらっしゃるよ」
「お父様、詳しいのね」
「彼の父君とはちょっとした知り合いだったものでな。特別親しいわけではなかったんだが、亡くなったと聞いたときはやはり悲しかったよ」
「そうだったのね……」
十八歳で父親を失ったのに、その後ご立派に当主の役目を務められている。有能なだけでなく、精神的にもとてもお強い方なのだろう。
「二十一歳で、ご結婚は初めてなの?」
「フェリシー」
フェリシエンヌが待ち切れないとばかりに口を挟んだことを、お母様がたしなめる。だって色々気になるじゃない、と唇を尖らせた妹に、内心私も同意した。
この国では幼い頃から婚約を結ぶのが普通で、かつては幼い私にも、セリュリエ侯爵令息とは別に、将来を誓った婚約者がいたのだ。しかし婚約から何年か経つと、私の病弱な様子を見て向こうが難色を示し始めた。その婚約は破談になって──要するに、私は同じ理由で二度も婚約破棄をされているのだった。