第十話
デュトワ家の交友関係を学んでいた最中に、目に留まった名前がある。
グウェナエル・パネル公爵令息──。クロードにも確認してみたが、ベルナール様が十四歳から十六歳まで在籍されていた高等学院でのご学友で、現在でも比較的親しい交流が続いているらしい。
もしかしたら、あの晩ベルナール様と話されていて、今回の観劇の機会を作ってくださった方かもしれない。あのときお顔はきちんと見えなかったけれど、声を聞けば分かるはずだ。
貴族の子息子女は専属の家庭教師をつけられる場合も多いが、貴族専用の学校に通うことも、そう珍しいことではない。私の妹のフェリシエンヌも、自身に魔力がないと分かってからは、貴族専用の高等学院に通っている。
貴族同士で友人を作ったり、交流を深めたりしながら、経験を積み、人脈を築いていくのが、学校に通うことの大きなメリットの一つだろう。
それにしても、十四歳で高等学院に入り、十六歳で卒業されているベルナール様は、とても優秀な方なのだろう。普通なら十五、六歳で入学し、そこから三年はかけて卒業するものだ。
もしパネル公爵令息がチケットの手配をしてくださった方なら、お礼をしなくてはいけないけれど、そうするとあの晩私が彼らの話を聞いていたことがばれてしまう。たまたまとはいえ盗み聞きだと糾弾されれば言い訳のしようもないので、「ベルナール様の大切なご友人だから」という理由を掲げて少し豪華な贈り物をしておくことに決めた。
友人知人への結婚の知らせや、結婚式を執り行わないことの周知は、家令のクロードが抜かりなくやっているはずだけれど、パネル様への贈り物には今回のお礼の気持ちを込めて、ほんの少し、豪華にさせてもらおう。
とすると、アルドワンの分家、ポレール貿易を営むミション家に連絡を取りたいところだ。
久しぶりに腕が鳴りそうだわ、と楽しくなる。
私とクリスタが体力増強計画を始めてから二週間ほどが経っているけれど、ベルナール様と顔を合わせる時間は、ほとんどない。夕食のときもたびたび仕事に掛かられている。よほど危急な件なら、妻である私も知っておかねばならない。
ただ、その話をしてもらえるだけの信頼関係を築く余地がないのだ。結婚して以来、ベルナール様があまりにも姿を見せないせいで。
あまり強引には進めたくないのだけれど……と思っていたある日の夜、ちょっとした事件が起きた。
ベルナール様がひどく顔色を悪くして、私とクリスタとクロードがいた談話室に、ふらふらと倒れ込むようにしてやって来たのだ。