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子供服

 せっかくだから、以前から考えていた子供服の開発もする。今までは大人の服を小さくしただけのようなデザインのものが多かったけれど、それだと子供には重くて辛いはずだ。


 それに、こんなに小さくて愛らしいんだもの、それに相応しいデザインというものがあるはずだ。


 私は毎日夜遅くまで工房に篭って、新しい子供専用の服を開発していた。


 モスリンのブラウスにリネンのトラウザーなんかはどうだろう。膝丈のトラウザーをサスペンダーで吊って、同じくリネンの軽やかなジャケットを着せるのだ。


 ワンポイントでお花や動物なんかの可愛らしい刺繍をするのもいい。大人と同じような優美なデザインよりも、可憐さを優先したい。


 親の欲目かもしれないけれど、ダミアンは亜麻色のクルクルとした巻き毛に、琥珀色の瞳をしていて大層愛らしい子供なのだ。あのアンポンタンな元夫は、顔だけは良かったからね。というか、それで若い頃からチヤホヤされすぎてアンポンタンなまま育ってしまったのかもしれないけれど。


 ともかく、私は動きやすくて可憐な子供服の構想をお針子さん達に共有した。まずは試作品を作って、子連れのお針子さん達の子供で試してもらう予定だ。


 試作品をプレゼントすると言ったら大層恐縮されてしまったのだけれど、忌憚なき意見を伺うための仕事だと思って頑張って欲しい、と伝えたら、みんなものすごく真剣に取り組んでくれた。


 女の子にはエンパイア・ドレスを簡素化して、紅茶染めなどでシミや汚れが目立たないような色に染めたワンピース。


 男の子にはふわふわのレースを縫い付けたモスリンのブラウスに、リネンのトラウザー。トラウザーには可愛らしいお花の模様が刺繍してある。


 「おかあさま、どうー?」


 「どおー? でしゅか!」

 

 ダミアンとサマンサの娘のロアナが手を繋ぎながらやってきた。


 「かんっっっっわいいいいいいい!」


 私たちはあまりの可愛さにクラクラとした。集められた子供達に着せた子ども服は、とても似合っている。


 これはもう、この子達の姿を絵師に描かせて広告にしないと! そうだわ、広告費用としてモデルさん達にもお給料を払わなきゃね。誘拐されるといけないから、みんなに住み込みで住んでもらっている寮に護衛もつけないと!


 「お義母様、興奮しすぎですわ。確かにダミアンはとんでもなく可愛らしくて、天使が舞い降りたかのようですけれど……」


 天使代表格のシャーロットがそう言う。


 これはもう、新たな大流行が王都に巻き起こるのも必然であった。

 

 そしてまた襲いくるのが人材不足である。もうこの際なりふり構わず賃金も上げた。

 そんな折に面接をして欲しいという人材がまたきた。

 玄関にいたのは、赤い髪のちょっと色っぽいご婦人である。こちらも子連れの女性だ。


 だけれど、彼女はお針子ではなかった。


 「ビヴァリー・コートウェルと申します! お針子はできませんが、どうか、どうか雇っていただけないでしょうか」


 サマンサの時を彷彿とする出来事だ。

 

 ビヴァリーさんはもともと官僚の娘で、家庭教師などをして生計を立ててきた職業婦人であったという。しかし貴族家で家庭教師をしていたところ、その貴族家の男性に見初められてしまった。夫がいるにも関わらず、である。

 そうして、強引に手籠にされた結果、子を身ごもってしまい、夫からは離縁を突きつけられたのだという。どこにも味方がおらず、とはいえまだ赤子を抱えている身。働かなければ生きてはいけない。


 「何度も何度も、この子と一緒に身を投げることも考えました。でも、出来なかった。なんでもいたしますから、どうか、雇っていただけないでしょうか?」


 私は思いついてしまった。ビヴァリーさんに、預かっている子供達の教育をして貰えばいいのではないか、と。知識階級の女性を雇うのはちょっと高くつくけれど、その分メリットも大きい。

 男爵家にいた頃に雇っていた家庭教師の人たちは、離婚と同時に伝手が途絶えてしまったのだ。シャーロットはすでに十分な教育をしているけれど、ダミアンはまだ5歳。シャーロットが読み書きを教えてくれているけれど、経験豊富なプロの手も借りたい。


 それに、今預かっている子達の中には10歳を超えるくらいの大きな子達もいる。一年ほども教育を行えば、簡単な読み書きくらいは難なくこなせるようになるだろう。


 事務員不足も著しいのである。お針子さん達が仕事をしている間、預かっている子達をビヴァリーさんに教育してもらって、ゆくゆくはうちの事務方として育て上げる。親子共々囲い込んでしまえば、人材不足に対して最強の一手となるのでは?


 私は、ビヴァリーさんに深々と頭を下げた。


 「こちらこそ、お願いしたい仕事がございます。ぜひうちで雇わせてください!」


 そうして、我が家にはある種の学校のようなものが出来上がったのであった。

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