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お針子の求人

 さて、せっかく後ろ盾になってくださったダンヒル子爵のために、男性服を開発したいところなのだけれど、それよりもエンパイア・ドレスの大流行のせいでお針子不足が深刻だ。


 新しくお針子を雇おうにも、エンパイア・ドレスの流行に従ってウチの真似をしはじめた服飾屋に囲い込まれてしまって、なかなか新規で雇える人材が見つからない。


 真似をされていると言っても、ファゴット商会のエンパイア・ドレスはブランド化していて注文も殺到している。明らかに注文数に対して人手不足だ。


 どうにかしてお針子を確保しないと、一年待ちとかになってしまう。


 私が執務室で頭を悩ませていると、取次の使用人が就労希望者を連れてきた。


 使用人は少し困ったような顔をしている。


 「お針子の募集に応募してくれる方がいたのね! すぐに面接するわ! ああ、一人でも増えてくれたならよかった」


 「それが……、確かに持参した刺繍のハンカチを見る限り腕は良さそうなのですが、子連れで……」


 「子連れ?」

 

 応接室に入室すると、そこには疲れたような様子の中年のご婦人が、まだ3歳くらいの女の子を膝に抱き抱えて座っていた。


 「は、初めまして、サマンサ・エルガーと申します! あ、あの、私なんでもしますから、どうかここで雇っていただけませんか?」


 余裕がなさそうに勢い込んでサマンサは頼み込んできた。なるほど、訳ありだ。


 「子供を連れての面接が非常識なのはわかっています! ですが、どうしてもこの子を一人家に残してくるわけには行かなくて」


 「なるほど……旦那さんはいらっしゃらないのね?」


 「はい……。流行病で亡くなり、家を追い出されてしまって……。今は母の形見を売って貸家を借りているのですが、その部屋ももう……」


 「それなら住み込みで働いていただくことはできるかしら? 今はものすごく忙しいので仕事はきついとは思うのだけれど、うちの息子もまだ5歳だから仕事中は預かることはできるわ。ちょうど遊び相手が欲しいと思っていたの」


 「ヴィオラ様、よろしいんですか?」


 使用人が怪訝そうに尋ねてくる。いかにもワケありな女性だもの、どこにも雇ってもらえなかったのでしょうけれど、ウチとしては猫の手も借りたい状況だもの。ましてやそれが腕のいいお針子さんだったらこれを逃す手はない。


 「早速だけれど、今日から働いていただくことはできるかしら? もし今手持ちの現金が心許ないようだったら、日払いでお給料は支払うわ」


 「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 その女性はわっと泣き出してしまった。


 「あら、泣いている暇はないわよ。早速働いてもらわなくっちゃ」


 私はその女性に仕事場を案内し、リーダーをやっているベテランのお針子さんに紹介する。サマンサの娘は少し大人しすぎるところはあるがとても愛らしく、お針子のおばちゃん達に大歓迎されていた。うちの息子と一緒に絵本の読み聞かせなどをして過ごす。


 私も仕事は忙しいのだけれど、息子と一緒に過ごす時間も大切にしている。私がエンパイア・ドレス関係の仕事で忙殺されている時は、代わりにシャーロットが息子と遊んでくれていた。


 シャーロットもまた、サマンサの娘、ロアナに夢中になっていた。


 「可愛らしいわ! まるで妹が出来たみたい!」


 私はこれを好機と捉えた。優秀なお針子さん達は今や争奪戦となり、なかなか募集をかけても見つからない。


 でも、子連れの女性だったら? 預かるなら一人も二人も関係ない。お針子は不足しても、子供の面倒を見てくれるシッターの女性は不足しているワケじゃないから、そちらも同時に募集してしまえばいい。


 私はお針子さんの募集広告に『子連れ歓迎』の文字を書き入れ、さらにシッターの女性を募集した。


 その広告は効果覿面だった。なんと、20人も応募してきてくれたのだ。


 子供が幼い故になかなか働き口が見つからず、さりとて頼れる家族もいない。そんな訳ありの女性が、この国には沢山いた。


 我が商会の工房には、子供達の笑い声が響くようになっていった。

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