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子爵との話し合い

 「……ですから、そのようなことはないと何度も申し上げております!」


 応接室のうっすらと開けた扉からシャーロットの叫ぶような声が聞こえた。


 一体何があったのか。大急ぎで応接室に突入する。


 シャーロットはソファから立ち上がり、顔を真っ赤にして目を潤ませていた。


 「どうしたの、シャーロット! 何か嫌なことをされたの!?」


 大慌てで駆け込み、シャーロットを背に庇ってダンヒル子爵と向き合う。


 「ダンヒル様、どうかシャーロットに目をつけるのはやめてくださいまし。私の首でもなんでも差し出しますから、どうかシャーロットだけは!」


 ああ、やはりシャーロットを連れて帰ってきたのは間違いだったのだ。こんなに美しい少女が権力のある男達に目をつけられないはずがない。ドレスを宣伝するために絵姿を描かせたことを心底後悔した。


 「シャーロットに目をつける? 一体何を誤解している。私はシャーロット嬢に無体を働こうなどとはしていない。だが、確かに行き違いがあったようだ」


 「お義母様は私を大切に守ってくださっているのです!」


 シャーロットが涙目でそう主張した。

 

 「一体、何があったというのですか?」


 「いや、ある場所で継子いじめの噂を耳にしてな。私は義母から毒殺されかかった身だ。もし同じような身の上で苦しんでいるご令嬢がいるならば、私が保護しようと申し出たのだ」


 「ああ、なるほど。そういうことだったのですね」


 「ですから何度も、お義母様はそんな人ではないと言ったではありませんか」


 「確かに、自分の首を差し出すから君には手を出すなと言っている姿は本物の母親のようだった。誤解して失礼した。ドレスの宣伝のために君を実家に連れ戻ったのではないかと疑ったんだ」


 ああ、なるほど。わざわざイジメている継子を実家に連れていくなんておかしいと思わないのかと考えたのだけれど、そういう目的があると誤解されたのか。確かにシャーロットの絵姿をドレスの宣伝に使ったのは事実だ。ただそれはファゴット商会が力をつけることでシャーロットを守れるようにというつもりだったのだけれど……。


 でも実際、貴族男性から余計に目をつけられる恐れがあるのは事実だ。


 「騒がせてすまなかったな。親子関係が良好なようなら安心した。それでは私は失礼する」


 そう言って辞去しようとするダンヒル子爵を、咄嗟に私は引き留めた。


 「ダンヒル子爵様、このようなお願いをするのはとても差し出がましいことはわかっております。ですがどうか、ひとつお願いさせてくださいませ」


 「ん? なんだ?」


 一度は雰囲気が柔らかくなっていたダンヒル子爵が、また警戒したように眉を顰める。


 「シャーロットは見ての通り、輝くような美少女です。男爵家が問題の多い家だったので実家に連れて帰りましたが、平民の女では貴族に目をつけられたが最後、なかなか抵抗することも叶いません。我が商会が力をつければあるいは、とドレスの宣伝など頑張ってまいりましたが、それが原因で目をつけられる恐れもあり、早計だったかもしれません。どうか、どうかシャーロットを同じ身の上と心を配ってくださるならば、何かあったときの後ろ盾となっていただけませんか?」


 平身低頭、床に頭を擦り付けて頼み込む。20歳で輿入れして、まだシャーロットが8歳だった時に私たちは出会った。


 幼くして母を亡くしたからと散々に甘やかされて、それでも決して傲慢になることはなかったシャーロット。


 貴族子女の交流会でいじめられては、ただシクシクと泣きながら、私が鈍臭くてバカだからと俯いて呟いていた姿を、昨日のことのように思い出せる。


 こんなにも愛らしく、心優しく素晴らしい令嬢に育ったのだ。この子を決して誰にも傷つけさせない。

 

 「頭を上げてくれ、ヴィオラさん。そういうことなら、後ろ盾を引き受けよう。本当にあなたはシャーロット嬢を大切に思っているんだな」


 穏やかな声で、ダンヒル子爵はそう言ってくださった。

 眩しそうに私たち親子を見つめる。


 「私には継母とそのような関係を築くことはできなかった。私には可愛げの欠片もないから。シャーロット嬢は素晴らしいお嬢さんなんだな」


 自嘲気味にダンヒル子爵はそう呟く。


 「そんな! ダンヒル子爵は何も悪くありませんわ! 自分の子に爵位を継がせたいからと、毒殺未遂など決して許されることではありません!」


 思わずそう反論してしまう。


 なぜかダンヒル子爵が吹き出した。

 

 「あなたは、本当に真っ直ぐな人なんだな。シャーロット嬢が平民になってでも着いて行きたいと思った気持ちがわかった。後ろ盾の件、必ずやしっかりと果たして見せよう。まずはファゴット商会に私が投資家として名乗り出るのが丁度よいかな」


 「そうですね、商会の投資者として庇護をいただければ、名目も立ちますしありがたいことでございます」


 「ふむ。私はあのドレスの、気品がありながらも着心地の良さそうな仕様を羨ましいと思っていたんだ。もちろん貴族男性向けでもそのような商品を開発してくれるだろうね?」


 悪戯っぽくダンヒル子爵がそう言った。確かに貴族男性の装束も堅苦しく動きにくく、その上通気性も悪い商品が多い。


 彼が着ているウエストコートは、ブロケードという絹に金糸や銀糸を織り交ぜて浮模様を描かれた布地で、厚手で高級感があるが通気性には乏しい。

 紺色の布地に金糸で葡萄の蔓草模様が描かれたそれは、見ている分には美しく楽しいけれど、着ている本人にとっては暑苦しいのではないだろうか。


 それを解決するような男性服を開発できたら、と思うと、商会の娘としてとってもワクワクした。

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作者が泣いて喜びます。

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