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ドレスの流行

 伯爵令嬢に目をつけられた時点で、新しく考案したエンパイア・ドレスを流行らせるのは難しいかと思ったが、子爵令嬢のアイリスが注文を出してくれた。


 お茶会でのことの謝罪の意味も込めてか、三着もだ。


 せっかくなのでシャーロットとお揃いのデザインがいいということで、白のものと紅茶染めのもの、それにアイリスの瞳の色と合わせた薄紫色のエンパイア・ドレスを作ることになった。


 特に薄紫のものは金のレースで飾り立ててかなり豪奢な作りにしてある。これなら夜会で着ても大丈夫なほどの仕様だ。


 そうして納品してからしばらくのこと。


 ファゴット商会には、とんでもない勢いでエンパイア・ドレスの注文が相次いでいた。


 なんと、お揃いのエンパイア・ドレスで観劇に出かけたシャーロットとアイリスの二人を、侯爵令嬢のガーベラがたまたま目撃し、そのドレスはなんなのかと問いかけたらしいのだ。


 そうして侯爵令嬢ガーベラから注文が入り、納品したところ、ガーベラ経由で口コミが広がりとんでもない勢いでエンパイア・ドレスは流行りつつあった。


 シャーロットを目の敵にしている伯爵令嬢イザベラの目を気にして今まで注文できなかった令嬢達も、侯爵令嬢が気に入っているとなれば心置きなく注文できる。


 また、絵師に作らせたシャーロットの絵姿の広告も凄まじい威力を発揮していた。わざわざ絵で美化しなくても天使なシャーロットである。

 

 ありのままをそのまま描いただけの絵姿は、シャーロットの美しさを遺憾なく表現し、その絵姿はファゴット商会の経営する、上流階級が集まる水タバコと珈琲の店に飾られていた。そこに集まり、談笑しているのは令嬢ではなく男たち。

 だが、それこそが狙いである。男たちはこの上もなく美しいシャーロットの絵姿に目を奪われた。そしてそのドレスがファゴット商会で作れると聞き、自分の妻や娘に贈ることを考えつくのである。


 このようなドレスを着せれば、自分の妻や娘も夜会などで自慢できるほど美しくなるのではないか、と。


 そうして贈られたドレスは、コルセットから解放されたとても着心地の良いドレス。二着目、三着目の注文が殺到するのも必然であった。


 そうして忙しさにてんてこまいになっている折のこと。

 突然、家に訪問してきた貴族の方がいた。


 「ジェラルド・デュポン・ダンヒル子爵ですか?」


 取次のものから聞いて、疑問に思う。ダンヒル子爵といえば、あの継母による毒殺未遂事件の被害者として有名な、デュポン伯爵家の嫡男の方だ。今は父親の持つ従属爵位であるダンヒル子爵の称号を受け継ぎ、子爵となっている方。莫大な賠償金を受け取り、資産家としても有名になっている。


 社交界では随分と噂になっていたから、私も名前を覚えていた。


 なんの用件で来たんだろう? ドレスの発注だろうか。


 「突然の訪問失礼する。私はジェラルド・デュポン・ダンヒルだ。シャーロット・ファゴット嬢に用件があって参った」


 「お初にお目にかかります、ダンヒル子爵。ヴィオラ・ファゴットでございます。失礼ですが、シャーロットにご用件とはどのようなものでございましょうか?」


 「用件は言えない。二人きりで話させていただきたい」

 

 シャーロットに一目惚れでもしたのだろうか。確かダンヒル子爵は28歳のはずだ。私と同い年。見目麗しい方ではあるけれど、16歳のシャーロットにはちょっと年上すぎるのではないだろうか。継母と同じ年齢の恋人だなんて、流石にちょっとね。もちろんシャーロットの意思が一番大切だけれど。


 「申し訳ありませんが、シャーロットはまだ未婚の若い娘です。殿方と二人きりで話すというのは流石に問題がありますわ」


 「ふむ。なるほど。私は侍女を連れてきている。それならばその侍女を同席させよう」


 あ、これ最初に無理難題な要望を言って、そのあと譲歩しているように見せかけて本命の要望を言う交渉術だわ。


 舐められたものね、大手商会で育ったこの私にそんな小手先の技術が通用すると思われるとは。


 でも、実際これ以上伯爵家の人間に逆らうのは厳しい。下手に逆らって逆鱗に触れたら何をされるかわからないもの。


 いざとなったらシャーロットを守るために自分が前に出るつもりで、ダンヒル子爵の要望を受け入れた。


 シャーロットを呼び、使用人に応接室の準備を整えさせる。


 「シャーロット、もし何か嫌なことをされたら大声で叫ぶのよ。伯爵家と敵対したらマズイとかそんなことは考えなくていいわ。一番大切なのはあなたの身の安全なのですからね」


 一階に降りてきたシャーロットをぎゅうっと抱きしめる。シャーロットには、ダンヒル子爵と面会するのに問題ない程度にフォーマルな装いをさせつつも、腰ベルトや下着なんかで服は簡単に脱がせないように防御力最大の服装をさせた。


 何か無体を働かれそうになったら、それで時間を稼ぎつつ警備の男達に突入してもらう心づもりである。


 これが平民の女の現実だ。いくら男爵家の元夫がアンポンタンだったからとはいえ、これほどの美少女に育ったシャーロットを実家に連れて帰ってきてしまったのは失敗だっただろうか、と思い悩む。


 とはいえ借金まみれの男爵家に残してきたところでいい未来があったとは思えない。


 この美しく心優しい我が娘を、なんとしてでも権力を持つ男達の手から守ってやらねば。私は固く心にそう誓った。


ジェラルド・デュポン・ダンヒル子爵について。

彼は伯爵家の嫡男で、父親の持つ従属爵位を、法定相続人を示す儀礼称号として引き継ぎ子爵位についています。


従属爵位とは、主たる爵位(例えば公爵)を持つ貴族が、他に併せ持つ下位の爵位(例えば子爵)を指します。特に、公爵・侯爵・伯爵以上の貴族の法定推定相続人(長男)は、父が持つ従属爵位のうち二番目の爵位を儀礼称号(courtesy title)として使用することが一般的です。By google


ちょっとわかりにくいかと思ったので、解説を付記しました。

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