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美少年の憂鬱

 「近衛隊の制服……?」


 どういうことだろう。これが近衛隊の制服になるの? 兵隊さんの制服としては少し華美に過ぎると思うのだけれど。


 私が頭にはてなを浮かべていると、興奮した様子でエルガディットくんは話しだした。


 「近衛隊は王族の護衛をする分、正式な式典などでも浮かないように華美な礼装が制服になっているんだ。でもそれだといざという時動きにくいし戦いにくいだろう? 儀礼用の鎧なんて尚更! 鋼の鎧は本来騎馬で戦うためのものだからね。この礼服だったら正式な式典の場でも浮かない程度の華やかさもあるし、その上軽くて動きやすいならこれこそ近衛隊の制服にするべきだよ!」


 興奮した様子でエルガディットくんは捲し立てた。しかし、一息に話し終わると今度は気落ちした様子でため息をついてしまう。


 「まあ、僕はもう近衛隊を脱退した身だから、関係ないのだけど」


 「それだけ熱心に語られるんですもの、関係ないということはないのでは? それに、私にはそういう視点はなかったから、とてもありがたいし興味深いわ」


 私がそういうと、エルガディットくんは、フン、とそっぽを向いてしまう。その耳は赤く染まっていた。


 「それで、エルガディットよ、ファゴット商会で働く気はないか? ファゴット商会は優美さを失わないままに動きやすく合理的な服を開発している気鋭のブランドだ。近衛隊で上手くいかなかったからといって、このままフラフラ過ごしていても仕方ないだろう?」


 ダンヒル子爵が諭すようにそう言う。


 「それは……、確かにそうだけど……。でも僕がこんな服を着て立っていたら人が集まって警備どころじゃなくなっちゃうよ」


 「む……」


 エルガディットくんの言う事も確かに正論ではある。ダンヒル子爵も相当なものだけれど、女性的で線の細い美少年といった佇まいのエルガディットくんがこの服を着たら、老若男女問わず魅了されてしまいそうだ。


 あ、でも、そうだ!


 「木を隠すなら森の中、美形を隠すなら美形の中作戦でいったらどうかしら?」


 私は思いつきの提案を共有してみた。


 「なんだそれ?」


 「エルガディットくんも美形だけれど、ウチのシャーロットと並んだら普通よ。美形も単体だと目立ち過ぎるけれど、みんなが美形だったら飽和状態になって一人がそこまで目立たないのではないかしら?」


 「僕が……普通……?」


 びっくりしたようにエルガディットくんが言う。こんな美男子に普通というのはちょっと失礼だったかしら?


 でも、「普通……普通かぁ……」と、エルガディットくんはやけに嬉しそうに繰り返した。


 「確かにな。お前はその容姿で散々苦労してきただろう? いっそ自分と同等の美形と一緒にいたら向けられる視線が分散して過ごしやすくなるんじゃないか」


 ダンヒル子爵も大概な美丈夫だけれど、見た目が(いかめ)しいのと、威厳のある立ち居振る舞いのおかげか騒がれることは少ないそう。


 その点、エルガディットくんは線の細い美少年然とした容姿だから、あちこちから騒がれて大変なんだそうな。


 「うん……。ジェラルド様の言うとおりだ。僕もいつまでもフラフラしているわけにもいかないしね。そんなに言うなら働いてあげてもいいよ」


 ちょっとツンケンしながらも、態度の軟化したエルガディットくんはそう言ってくれた。


 そうと決まれば、早速エルガディットくんの制服を作らなくては。


 お針子部隊を呼んでエルガディットくんの採寸を進めていく。妙齢の女性だらけのお針子部隊に、今までそういう相手に嫌な思いをしてきたのかエルガディットくんは警戒していたけれど、お針子部隊は仕事に対しては真剣そのもの。


 美少年のエルガディットくんを前にしても、騒ぐことなく真剣な顔で採寸を進めていく姿に安心したようだ。


 「ねえ、やっぱりこれは近衛隊に売り込んだ方がいいよ。見るからに動きやすそうだし、それでいて式典の場でも浮かないくらいに意匠が良い」


 「でも、うちにはそんな伝手ありませんわ」


 「僕が紹介してあげても良いよ」


 なんと、エルガディットくんは脱退した近衛隊にもまだ伝手があるのか。それに紹介までしてくれるなんて、随分と短時間でこちらへの態度が変わったものだ。


 どうも、今までに散々容姿で苦労してきたエルガディットくんは、「美形の中に紛れちゃえば普通!」という、私のアホみたいな発想の転換に救いを見出したらしい。


 せっかくなので、シャーロットを呼んでエルガディットくんの隣に並べてみる。


 エルガディットくんの発光するオーラが霞んだ。


 「やっぱりシャーロットが一番可愛くて美しいわ」


 「あの……お義母様?」


 あら、思わず内心が口に出ていたらしく、シャーロットが照れている。


 一方シャーロットの方が美しいと言われて、なぜかエルガディットくんは満足げだ。


 「うん、なかなか悪くない職場みたいだね。それに、僕と並んでも見劣りしない顔は珍しい。気に入った」


 エルガディットくんはシャーロットに見惚れるでもなく、冷静に評価している。シャーロットはシャーロットで、自分に見惚れない男は珍しいらしく、安心して話せる様子だ。


 うんうん、仲良きことは素晴らしきことかな。

 

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