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ファゴットの聖母

 「評判が著しいな、ファゴットの聖母よ」


 投資主として我が家に顔を出したダンヒル子爵が、からかうようにそう言った。


 「なんですか、それ!? ファゴットの聖母!?」


 「評判になっているぞ。義理の娘であるシャーロットを引き取って育てている上、着心地のいいドレスを開発し、頼る者のいない子連れの女性達に仕事を与えてその子供達にまで教育をしている。ファゴット商会には聖母がいると」


 「な、な、な……!」


 もはや言葉にならない。なんだそのオーバーな評判は!

 シャーロットを引き取っているのは、シャーロットが私なんかについてきたいと言ってくれたからだし、子連れの女性達を雇っているのは人手不足ゆえの苦肉の策だ。


 「それに、エンパイア・ドレスだけじゃなくて子供専用の服まで評判になっているらしいじゃないか」


 「ああ、それは。子供には重たい服が多かったので、子供用の軽い服を開発したんですよ」


 「なるほど、いい目の付け所だな。それにしても、私の依頼した貴族男性用の服は出来ていないのか?」


 「す、すみません! 注文があまりにも殺到していて!」


 「冗談だ、そう慌てるな」


 ダンヒル子爵ははっはっはと鷹揚に笑った。なんだかこの人、意外とお茶目なところもあるのかも?


 「もう、人が悪いですね。でも、男性用の服も開発するつもりです。エンパイア・ドレスや子供服とディテールを合わせて、統一感を出せばご家族で着ていただけますし、その方が上客の方にも喜んでいただけるでしょう?」


 「それはいい案だな。そこで提案なんだが、ブティックを出すつもりはないか?」


 「ブティック?」


 「そうだ、今は貴族の家にファゴット商会の針子を派遣して、デザインなど相談しながら作っているだろう? だが、エンパイア・ドレスは体に沿うデザインでもないから、既製服でも売れるはずだ。昨今は貴族以外にも、裕福な商人も増えている、このファゴット商会のようにな」 


 確かに、今うちで作っている服のデザインは既製品でも誰でも着やすいものになっている。ドレスよりももう少し簡素化して、ワンピースのようにしてもいいかもしれない。


 「もしそのつもりがあるなら、私も出資しよう」


 「ぜひ出したいです、ブティック」


 「よし、では後日また話を詰めよう。ところで悪い虫などには煩わされていないか?」


 「はい、シャーロットも評判にこそなっていますが、無茶な要求をしてくるような方はいません。花束や贈り物などはよく届きますけれどね」


 ダンヒル子爵は以前お願いした通り、シャーロットのことにも気を配ってくれているみたいだ。


 「シャーロット嬢のことだけではないのだがな……。全く、自分のことには疎い人だ」


 ……? なんの話だろう?


 あれから、シャーロットは平民の女性にも関わらず、貴族男性から非常に礼儀正しいアプローチしか受けていない。大きな家の貴族男性が後ろ盾についている、という噂が社交界に流れたためであるという。


 もちろんその噂の主はダンヒル子爵だろう。おそらくは自分より格上の家格の者が出てくるリスクも考えて、より背後関係を大きく見せるために名前までは出さず、貴族男性が後見しているという噂だけに留めたのだと思われる。

 噂には尾鰭背鰭がつくものだ。面白がって話を広めていく王宮女官達などの効果も相まって、もはやシャーロットには王家が後ろについているという噂まで立っていた。

 

 聡明なシャーロットはその意を汲んで、何かあってもダンヒル子爵の名前は出さず、意味深に微笑むに留めている。

 本当にこの子は賢くて立ち回りも上手で素晴らしくて天使で……、おっといけない、興奮してしまったわ。


 それでえーっと、ブティックよね。


 ダンヒル子爵が出資してくれるなら予算はある程度潤沢にあるとして、どのような形で経営していくのか計画書を立てないと。それに場所の確保も必要だわ。

 王都中心部の方に空いている物件などはあったかしら? 

 うちの商会の持っている物件はもうキツキツになっているから、拡大投資していかないと商売を広げることはできないものね。


 うんうん、と考えこむ私をダンヒル子爵は興味深そうに見ていた。


 「っとすみません、考え込んでしまって」


 「いや、構わない。気にするな。それでは、ブティックの件、話を進めておいてくれよ」

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