権力の下に
雨をも降らせる〝神〟。
そう讃えられた冒険者は、その雰囲気に心地良い居場所を感じることが出来なくなった。
その後、妻と子を村へと残して再び旅に出る。
別れに涙なんていらない。
そうこの冒険者は言い残すと、村を後にした。
ん?
村を出てしばらくしても、冒険者の後を付いてくる若僧がいた。
村の人々には家名など無く、冒険者は咄嗟にその若僧がいた場所を指差しながら、お前の名前は今日から〝木下〟だ!
そう言い放った。
そして、この冒険者は木下を拾い、そのまま旅へと共に進んでいった。
長く時は流れた、そんなある日。
晴れ渡る空の下、輝く家々が立ち並ぶ町が見えてきた。
町の名前など聞いても意味は皆無。
冒険者にとって一つの町と捉えるのではなく、一つの陽高としてみているのである。
町の中に入ると、厳重な警護に囲まれている道があった。
その沿道には、町のものであろう人々が何やらひれ伏すように目線をきった。
そして、町に木と木がぶつかる甲高い音が鳴り響く。
「君王陛下の、お通りである。」
そう側近らしき人物が言い放つと、後より高貴な柄を施した籠が運ばれてくる。
冒険者の目には、権力に怖気づく臆病な人々が映し出されていた。
「こんなの、。糞食らえだ。、」
そう木下にも聞こえるか聞こえないかの微かな声でそう話すと、突如としてその警護をしていた兵士を薙ぎ払い道の真ん中を堂々たる姿で進み始めた。
木下は、それをみることしか出来なかった。
籠の前に足を進めた冒険者は、ここで捕縛される。
これは当然の結果であった。
陽高の国に2人といない君王という絶対的権力の下にひれ伏さずに、抗ったのだから。
冒険者は、そのまま獄中へと放り込まれ、木下は1人になってしまった。
木下は呆れ、もはや冒険者を捨てていく覚悟をもち、近くの酒場へと入った。
そこは、老若男女問わない人で溢れかえり、一つの席が空いていた。
そして、その席に座り酒を頼むと、隣の席の老人が話しかけてくる。
「いいのかい。見捨てていってよ。」
この老人は、我々の全てを知っているかのように言ってくる。
「お前さんが誰だか知らないですが、どうでも良いのです。」
そう木下が返すと、この老人はまた続けた。
「まあ今はいいさ。気が変わったらまた来い、お前らになら人をあててやるよ。」
そう老人は言うと、席を離れて店を出ていった。
不気味な老人だった。まるで、陽高の未来を知っているかのような言い方で、我々には到底分からぬような不思議な力を放っていた。
まあ、気が変わることなんてないよ。
そう木下は独りで心のなかで思っていた。