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魔法『少女』  作者: 神棚
第一部 『魔法少女の西海道中奇譚』
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『第五章 八朔の雪』

 「私が『能登』を目指すと心に決めた、我が国に残る願が叶う珠を持ち帰った物語を書き写した『写経』と呼ばれる紙の束を綴じたものになります」

少女の動きからどうして書物があらあれたのか理解できずに固まる二人を気にもとめずに泉帆は話を進めようと

「…関根、俺は席を外すから、お嬢ちゃんに新しい服を着させて、もう一度その本を出し入れするように説得してくれねえか?」

 『老』は目頭を押さえながら自分は幻術をあつかう化ケ狐を人と間違えて話しているかもしれないと戦慄していると関根に退室の旨を伝えました。

「『老』ならいっそ湯を張ってくれないか、僕も一緒に入って彼女がなにも持っていなかったことを確かめたい」

何処からともなく道具を出現させた泉帆を前に関根は一切の遠慮、配慮を捨てさり自身に害をなすかもしれない敵と対峙していると取り締まり方を変更したいと『老』に意見した。

「こんな寂れた城に常駐する酔狂な女はお前一人しかいねえ、叫び声が上がろうもんなら俺たち全員で丸裸のお前たちを取り囲むかも知れんぞ」

関根を心配しているのか、挑発にしているのか仕事を増やされた『老』は意地の悪い声でもしもの対応を口にしました。

 「有事には仕方がないことさ、危険な城には女はいないって思い込んで、軟派な優男とか馬鹿にしてきた奴は報告していただろ」

「おい、”女二人"が重要なことを吐いた、褒美に湯浴みのと絹の着物を用意する」

『老』が外に向けて大きな声を張り上げると、襖の向こう側から遠のいていく足音が響き渡りました。

 「ここは監視倉だぞ、声を潜めようが、張り上げようが四方に立たせる者たちには、聞き漏らすこと、聞き間違えることを御法度にしている。声に出すか自分の目で確認しなきゃ信じねえ学のねえ奴がお前さんを見る目ががらっと変わっちまっただろうよ」

息遣いも衣擦れも聞こえず、静かなこの場所には三人だけだと泉帆も関根も安心し切っていたのだが『老』の一言で泉帆は捕えられた賊あつかいなのだと気を引き締め直すのです。

「この城での私の安全がなくなってしまいました、おじい様はなんてひどいお方なのかしら」

 目元を覆い話し方と話し声を崩しとぼけだした関根に大きな声でひとしきり笑いあげた『老』はこれからどのように動くのかを話し始めました。

「泉帆って名乗っていたか? ここからお前に俺が話すことはお願いじゃなく指示だ、出来ようが出来まいが行動してくれ」

「かしこまりました、関根様と浴室へ向かい体を洗い用意された服に着替えればいいのですね」

泉帆は自分の拘束が緩み行動できる範囲が増えると考え、青白かった顔に血の気が戻り、頬が上に上がっていくことを抑えられなくなりました。

 「嬉しそうにしてくれちゃって、憎たらしいね、君のせいで僕の居場所がなくなってしまいそうなのに」

元の口調には戻りましたが、関根の態度には泉帆を思いやってやろう等の情けはすっかり消え去ってしまいました。

「男と女とは番い増えていく道理があります。なぜ自ら数の釣り合いがとれていない場所へ赴いたのですか?」

「僕がいた堅苦しい世界ではね、”優劣”って呼ばれるどれだけ騒がしく出来るか、させられるかが”楽しい”って意味に変わってしまんだよね……善し悪しは真逆のモノになったね」

やけになったのか目が据わり、じっと泉帆を見つめ、独白するかのように抑揚がなくなった声で話しを続けていきました。

 「危ないところでじっとしてればね、悪意ってのは勝手に湧き上がって煮詰まって、たまらなくなった誰かがなんとかしようとするんだよ、誰が見ても分かる、曖昧が存在しないってのは僕の胸の中で貯めて育てていた〝気持ちいい〟がはっきりとして、解らないが消えて行ってくれて安心できたんだよ」

言いたい言葉を吐ききったのか関根は泉帆から目をそらし体を一伸び動かしました。

「……そこで見つけた一番良いものを持ち帰りたいと行動することは悪いことなのでしょうか?」

関根の考えは野心を持って行動している泉帆には理解が及びません。何もせずに黙っていることを喜べると豪語する関根とはわかり合えないのではとさえ感じ、泉帆の考え方を関根は否定していると口にして欲しいと、言葉を求めてしまいました。

「良いものってのはね、目聡く皆、我先にって群がるんだよ。何処を良いって教わらず、ろくすっぽうに使いこなせず、塵に変えいく銭失いが僕は憎くて仕方がない。東海うみつぢのここでは教えを請うて準じ習わない馬鹿たちは装いや道具なんて邪魔でしかないのが解らずに水底に勝手に沈んで死んで行ってくれる」

「詮無き話しだな、無駄口をたたき合うくらいには打ち解け合ったのか?」

席を外していた『老』だったが監視対象を放置しているはずがなく、二人の会話の雲息が怪しくなり始めたと感じ、慌てて仲裁に入ります。

「お前たちはこれから俺の下で一緒に働いてもらうつもりだから、仲良しこよしでいてもらうぜ、くよくよとした考え口にするくらいなら早く浴室行って身につけていもん全部提出しろ」

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