『第一章 浮島からの旅人』
世界の最果て、日の沈むところに永久の願いを叶えられる不思議な島がありました。
青海原に浮かび、水平線の向こう側、天と地が混じり合う彼方。声に出した事象をその通りにしてしまうのです。
『第一章 浮島からの旅人』
月の明かりが煌々(こうこう)と輝く青海原の上に、女の子一人を乗せた小さな小舟が浮かんでおりました。
小舟が乗せているものは大きな風呂敷に包まれた少女の手荷物と、少女が手に持っている梶、漁りに使っているのであろういくつかの道具が船床に転がっているのみでした。
「これで七日目……」
あたりを見渡しても波の上には何も無く寄せては返す波の音しかせずに、少女の吐露した独り言は、溶け入るように消えていきました。
幾度となく空を見上げ、星々(ほしぼし)の形を確認しながら操舵する姿に迷いはなく、目的地へと少女は一目散に向かうのです。
「波は穏やか、このまままっすぐ西に進められれば『越後』につくことができるはずなの」
彼女の言葉は静かでしたがとても力強く、海の上の孤独に負けてしまわぬように彼女を奮い立たせます。七日間ずっと船に乗り着たままの着物がすっかりとくたびれ、よれておりましたが、彼女の瞳から光が消えることは決してありませんでした。
「書記によれば飲まず食わず、七日間さまよった先に『越後』が見つかっているんだからそろそろ陸地が見えるころ合い……」
ギラギラと月明かりに照らされた大きなをきょろきょろと動かして必死になって一面の水平線が終わる岸辺を探すのでした。
「言い伝えを信じてここまで来たんだ、あとは見つけるだけだから」
彼女は祈るように呟き、月の光を背にして水面を見続けて、輝く陸を探したのです。