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異世界の町ビオレ

 町の入り口をくぐると、まず 賑やかな人々の声 が耳に飛び込んできた。


 市場の呼び込み、行き交う馬車、活気に満ちた商人たちのやり取り。

 まさに町の中心へ来たって感じだ。


「ビオレって、結構賑やかな町なんだね」


「そうだな。この町は王都までの中継地だから、商人もたくさん来るんだ」


 なるほど。だからこんなに活気があるのか。



 しかし、そんな賑やかな町の中で――


 僕は明らかに注目の的になっていた。


「……ずいぶん見られてるな」

「もしかしてあたしたち、人気者になっちゃった!?」

「……いや、どう考えても僕のせいです、ごめんなさい」


 そりゃあ、こんな巨大な動物が町を歩いていたら目立つ よね……。


 アフリカゾウなんて、ここの人たちは見たこともないだろうし。



「それで君たち、次はどこへ?」

「とりあえず、冒険者ギルドに素材を提出したいかな」

「じゃあ、案内するね! タイゾーさん、こっち!」


 リリアが僕の首元を軽く蹴る形で曲がる方向を指示する。


 なるほど、これは分かりやすいぞう。


「リリアも、タイゾーさんの扱いが様になってるな」


「えへへ! そうかしら? タイゾーさんがお利口だからよ!」


 そんな風に兄妹の会話を聞きながら、僕は 大きな建物の前で足を止めた。


 入り口の両側には、狼の銅像。

 いかにも冒険者ギルドって感じだ。



---


「それじゃあ、タイゾーさん。ここで待っててね」


 僕がしゃがんで二人を降ろすと、リリアがそう言ってギルドの中へ入っていった。


 僕の 巨体では建物の中に入るのは難しい し、外で待つのが無難だろう。


 しばらく待っていると――


 気づけば 僕を囲むように人だかり ができていた。



「……何だこのデカい獣は?」


「暴れたりしないよな……?」


「でも、よく見たら意外と可愛い顔してない?」


 最初は警戒していた町の人々も、僕が大人しくしているのを見て興味を持ち始めた ようだ。



「これあげる~!」


 真っ先に近づいてきた 小さな男の子が、僕にビスケットのようなもの を差し出す。


 僕は鼻を伸ばし、そっと受け取って口に運ぶ。


 ――サクッ。


 口の中に広がる バターのコクと香ばしい甘み。

 おお、これは美味しいぞう!


「うん、うまいぞう!」

「わわっ! しゃべった~!?」


 男の子がびっくり仰天して飛び跳ねる。


「ちょっと!?」


 すぐに母親らしき女性が彼を連れ戻し、申し訳なさそうに頭を下げた。


「ごめんなさい……! うちの息子が変なもの を食べさせちゃって……!」

「いえいえ、本当に美味しかったですよ」


 僕が長い鼻を上げて答えると、今度は別の子供が近づいてくる。



「ねえねえ! ぼく、背中に乗りたい!」


「おれも!」


「わたしもー!」


 いつの間にか子供たちが次々と集まり、僕の背中に乗りたがる。


「いいよ。それじゃあ順番にね」


「わーい!」


 僕は しゃがんで子供たちを一人ずつ乗せ、ゆっくり歩いてあげた。


 その様子を見て――


「……すごい人気ね~」


「ああ、全くだ……」


 ギルドから戻ってきたアンリとリリアがポカーン と口を開けていた。


「それじゃあ、俺たちは宿に戻るよ。ここまで送ってくれて助かった」

「宿まで送っていこうか? 足、まだ痛いんじゃない?」


 僕の提案に、アンリは首を横に振る。


「いや、宿はすぐそこだからもう大丈夫」

「それじゃあまたね、タイゾーさん!」


 そう言って、兄妹は手を振りながら宿の方へ歩いていった。



---


「さて、これからどうしようかな」


 僕は ゆっくり立ち上がり、町を歩いて回ることにした。


 市場に足を運ぶと、やはりすごい人の数 だ。


 さらに 甘く熟れた果物の香りに惹かれ、気づけば果物売りの前に立っていた。



「おおっ!? こんなデカいお客さんが来るとは!」


 果物売りのおじさんが目を丸くする。


「美味しそうな果物ですね」


 僕は鼻の先をひくつかせ、甘い香りを堪能する。


 ――だけど、お金なんて持ってない。


 仕方なく踵を返そうとしたが、甘~い香りに後ろ髪を引かれる。


 すると、おじさんがにやりと笑い、声をかけた。



「そこのデカいの! よかったら一つ食ってかねえか?」


「えっ!? いやいや、そんな!」


 僕が慌てて遠慮すると、おじさんはにんまりと笑いながらこう提案してきた。


「それじゃあこうしよう。お前さん、客引きをやってくれ!」

「客引き、僕が?」



 こうして、僕は 動物園の餌やり体験方式で客を呼び込むことに!


 お客さんは未知の体験を楽しみ、僕は美味しい果物をゲット。


 まさに Win-Winの関係だぞう!


「いや~、商売繁盛だ! また来てくれよ!」


「喜んで考えさせていただきます!」


 こうして果物売りのおじさんとタッグを組んだ僕は、お腹を満たしつつ市場を後にしたのだった。



 とはいえ、甘いものばかりでは栄養が偏りそうだ。

 何かさっぱりした植物は……っと。


 そこで目についたのは街路樹。


 もみじのような葉の木に鼻を伸ばして匂いを嗅ぐ。


 ……ダメだ。苦すぎる。


 隣のけやきのような木は……これはさっぱりしてて、今の気分にぴったりだぞう!


 さっそく 鼻を伸ばして枝ごとむしり取り、口に運ぶ。


 サクッ、シャキシャキ……


 おお、なかなかイケる!


 夢中で食べていたら――


 気づけば、鼻が届く範囲の葉っぱをすべて食べ尽くしていた。


 ……あ。


 ふと周りを見回すと、明らかに人々の視線が突き刺さっている。


「……す、すいませんでした!!」


 僕は 慌ててその場を離れた。


 ただし、象なので猛ダッシュとはいかず、のっしのっしと早足で歩いて逃げることしかできなかった。



 しばらく歩いていると――


 嗅ぎ慣れた匂い を感じる。


(この匂い……リリアだ!)


 ということは、ここが彼らの泊まる宿屋かな?


 目の前にある建物には、ウインクする満月の看板。

 いかにも 宿屋らしい雰囲気 だ。


 なんとなく 看板をじーっと見つめていたら――



「あ! タイゾーさんだ!」


 二階の窓から リリアがひょっこり顔を出した。


「お兄ちゃん! タイゾーさんが来てるわ!」


 一瞬リリアが引っ込んだかと思えば、すぐに アンリと一緒に顔を出す。


「ちゃんと帰れたみたいだね、安心したよ」

「言っただろ、すぐ近くだって」

「それでタイゾーさん、どうしてここに?」

「それが……」



 僕が さっきの街路樹事件 を説明すると――


「ちょっ……ホントに!?」


 リリアが お腹を抱えて笑い出した。


「木を丸裸にするなんて、どんだけ大食いなのよ!!」


「うぅ……お恥ずかしながら……」


 とはいえ、アフリカゾウは一日に百キロも植物を食べる。

 だから、街路樹くらいすぐになくなるのも当然なんだけど……。


「まあ、今日はこの辺で ゆっくりしてけよ」

「それいいわ! タイゾーさんがそばにいてくれたら安心だもの!」



 こうして、僕は 宿屋のすぐそばで休憩することにした。

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