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妖精の研究家

「それでは案内しよう」


 バタフライ公爵に導かれ、僕たちは町外れにある屋敷へ向かった。


「パピヨンお嬢様、どうして一緒に?」

「なぬっ、わらわがいては困るというのか!? 妖精の話、気になるに決まっておろう!」

「諦めてくださいタイゾウ様。お嬢様はこうなると聞きませんから」


 目をキラキラさせるパピヨンお嬢様に、ノエムさんは肩をすくめた。


「まあ、賑やかな方が楽しいかな」

「セフィもさんせーい!」

「ふふーん、分かっておるではないか」


 ヒラヒラと飛び回るセフィちゃんと、まだ平らな胸を張るパピヨンお嬢様。

 どうやら気が合いそうだ。


 そんな僕たちの前に現れた屋敷は、蔦に覆われ、庭は雑草だらけ。


 ……まるで廃墟だぞう。


「本当にここなんですか?」

「ああ。奴は妖精の研究以外には興味がない変わり者だからな……」

「相変わらず屋敷の手入れもなってないですね」


 公爵はまだしも、ノエムさんまで呆れている。

 メイド魂が刺激されるらしい。


「シャルルよ、来てやったぞ」


 バタフライ公爵が扉をノックするが、返事はない。


「留守なのかや?」

「いや、研究に没頭して気づいていないだけだろう」


 公爵が扉に手をかけると、あっさり開いた。


「まったく不用心な……。入るぞ」


 僕はデカすぎて入れないので外で待つことにした。


「……お嬢様、中に行かなくていいんですか?」

「わらわはお主とおる方がよいのじゃ。構ってたもう」

「分かりましたよ」

「セフィも構って~」


 寄ってくる二人を長い鼻でなでる。


 ノエムさんが申し訳なさそうに言った。


「すみませんタイゾウ様、いつもお嬢様が……」

「気にしないでください。僕もこういう時間は好きですから」


 そんなノエムさんに、僕はにっこりと笑って応えた。


 これは紛れもない本音だ、僕も潜在的には子供が好きなのかもしれない。


 やがて、公爵が一人の男を連れて戻ってきた。


「ほら、シャルル。来い」

「なんだよ兄さん……」


 兄さん? ということは――。


「紹介しよう。私の弟、シャルルーニュ・カルネ・バタフライだ。妖精の研究に人生を捧げた変わり者だ」


 ボサボサ髪に痩けた頬。見た目からして偏屈そうだ。


「誰かと思えばシャルにぃか」

「兄さん、まさかパピヨンちゃんに会わせるためじゃないよね?」


 鼻を鳴らすお嬢様に、シャルルーニュ様は渋い顔。

 どうやら関係は微妙らしい。


「会わせたいのは別だ。あそこだ」

「んー? ……なあっ!?」


 シャルルーニュ様の視線がセフィちゃんで止まる。


「あれは妖精じゃないか!! どうしてここに!?」


「きゃっ!?」


 興奮した彼はセフィちゃんをひょいと掴む。


「まさか生きてるうちに会えるとは……!」

「む~、苦しいよ~!」


 慌てて放し、謝罪するシャルルーニュ様。


「本物を見るのは初めてでね。……で、この妖精は?」

「タイゾウ殿が拾ったらしい」

「アフリカゾウの泰造です。よろしくお願いします」


 挨拶すると、彼は鼻を鳴らした。


「妙な珍獣だな。兄さんも物好きだ」

「お前にだけは言われたくないぞ」


 お互いジト目なシャルルーニュ様とバタフライ公爵。


 僕はセフィちゃんを保護した経緯を説明した。


「――なるほど。羨ましいね」

「それで、妖精の花園に帰してあげたいんですが」

「少し待ってくれ」


 屋敷に戻るシャルルーニュ様。


 セフィちゃんは小声でつぶやく。


「セフィ、あのヒトちょっと苦手~」


 あらま、セフィちゃんに嫌われてますよシャルルーニュ様。


 そんなこととは露知らず、やがてシャルルーニュ様は地図を手に戻ってきた。


「証言からすると、花園はこの山脈だろう」


 地図上に示されたのは川の上流、キリマシャロ山脈。


「なるほど、妖精目撃の多い場所だ」

「セフィちゃん、心当たりある?」

「んー、分かんなーい」


 まあ地図だけじゃね。


「じゃあ山脈に向かおう!」

「待て、シャルル。お前も行くのか?」

「当然だろ! 妖精の花園だぞ!」


 公爵は重くため息をつく。


「この変わり者にタイゾウ殿を煩わせるわけにはいかない、私も行く」

「わらわもじゃ!」


 バタフライ公爵に続いて手を挙げたパピヨンお嬢様を、ノエムさんが慌てて止める。


「お待ちくださいお嬢様、遊びに行くのではございませんよ!?」

「タイゾウがいるから心配無用なのじゃ!」


 こうして僕たちは、花園を目指し出発することになった。

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