シェリーさんとの一時、それから別れ
翌日。聖女見習いのシェリーさんを見送るために、町のみんなが集まってくれていた。
「聖女様、どうかご達者で」
「これからも頑張ってください!」
「うん、応援ありがとう。わたし、もっと頑張るね」
アイクさんとリリアの励ましに、シェリーさんはやわらかな笑みで応じる。
ちなみに僕は、シェリーさんを王都まで送り届ける役目を預かっている。もう少しだけ一緒にいられるのだ。
「タイゾウさんも、またビオレに来てくれよ」
「アタシたち、待ってるから!」
「うん、またすぐに会いに来るからね」
アンリとリリアの二人には、鼻で優しく巻き付いて挨拶を交わす。
そこへドレスの裾をつまみ上げながら、パピヨンお嬢様が駆け寄ってきた。
「タイゾウ~! またどこか行ってしまうのかや!?」
小さな体を目一杯使って僕の顔にすり寄ってくる。
「はい。僕には、シェリーさんを王都まで送り届けるっていう、大切な任務がありますから」
「……また、会えるのかや?」
「もちろんです。アフリカゾウの誇りにかけて、約束しますよ」
「うむっ、それでよし! 約束じゃぞっ!」
僕の鼻先に頬をすりすりして、彼女はいつものように満面の笑顔を見せてくれた。
その後ろから現れたノエムさんに引かれるように、パピヨンお嬢様は名残惜しげに手を振る。
こうして僕は、シェリーさんを背に乗せ、再び町を後にする。
背中から伝わる体温と重みが、どこか心地よくて、僕の歩調は自然と穏やかになっていた。
「……また、いつでも会えるよね」
僕はそう小さくつぶやいて、目を細めた。
旅路の途中、平原の小川を見つけた僕たちは小休止を取ることにした。
「ん~、ちょっと汗かいちゃったかも。タイゾウさん、水浴びしてもいいかな?」
「も、もちろんです」
背中を向けていた僕の耳に、布の擦れる音と、わずかに弾けるような香りが届く。
シェリーさんが脱衣しているだけのはずなのに、想像が膨らんでしまって顔が熱い……。
「――こっち、向いても大丈夫だよ?」
おずおずと振り返ると、そこにいたのは、白く透ける薄衣一枚を身にまとったシェリーさんだった。
「……これなら、恥ずかしくないでしょ?」
いや、むしろ色っぽさが増してるんですが……。
前掛け越しでも分かる豊満な胸元と、しなやかにくびれた腰のライン。
薄布がかえって想像力を刺激するということを、このとき僕は学んだ。
「ねえ、タイゾウさん?」
彼女がそっと近づいてくる。前掛けの端からは、水滴がこぼれ、肌を伝って流れ落ちていた。
「えいっ」
無邪気な笑みを浮かべた彼女が、突然僕の鼻に飛びつく。
「ぷおっ!?」
目の前に迫るのは、ふわふわで、あったかくて、やわらかすぎる胸――。
象の僕でも、ちょっと我を忘れそうになったぞう……。
その後、小川で水をかけ合い、笑いながら水遊びに興じた。
ずぶ濡れになってはしゃぐシェリーさんは、とても聖女とは思えないほど無邪気で、だけど僕の心をくすぐるように、眩しく、美しかった。
数日後、僕たちは王都の門前にたどり着いた。
「ここまで、ありがとう。……これは、感謝の気持ち」
背から降りたシェリーさんが、ふと僕の顔を見上げ、そっと唇を寄せた。
「……!」
ほんの一瞬だったのに、あの柔らかくて温かな感触が、僕の全身を熱くさせた。
「また、会おうね。きっと、絶対」
照れ笑いを浮かべて、シェリーさんは王都の門へと歩いていく。
その背中を、僕はいつまでも目で追っていた。
彼女の唇の感触が、しばらくは忘れられそうにない――。




